表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/229

第160話 ロザリー「チッ!」


 ロザリーは部屋に入ってくると、扉を閉めた。


「こんばんはー……初々しいカップルさん」


 愛を司る上級悪魔であるロザリーはニヤニヤしながら俺達の対面に来て、座っている俺達を見下ろしてくる。

 すると、キョウカがさっきまでの笑顔を引っ込め、無表情で立ち上がった。


「おやー? 私とやる気ですか、お嬢さん? 彼氏が嫌がるから生命線である刀を家に置いてきたくせにぃー?」


 ロザリーがニヤーっと笑いながらキョウカを煽る。

 どうやらキョウカは刀を持ってきていないらしい。


「キョウカ、座って」

「でも……」

「いいから」


 俺はキョウカの腕を引っ張り、無理やり座らせる。

 そして、キョウカの後頭部に手を置き、抱くように引き寄せた。


「………………」


 キョウカは特に文句も言わずに無言で腕を俺の背中に回す。


「そうそう。あなたはそうしているのですよ。それがあなたにできること。じゃないと大事な彼氏さんが私に夢中になっちゃいます」


 ロザリーの言っていることは事実だ。

 刀がないキョウカは何もできないし、キョウカを抱きしめていないと俺はロザリーの魅了魔法に対抗できない。


「ロザリー、こんなところで何をしているんだ?」

「以前も言ったじゃないですか。湯治です、湯治。そして、栄養補給です」


 栄養補給が何かは聞かない。


「前は違う旅館だったでしょ」

「ずっと同じ旅館にはいませんよ。あなただってそうでしょう? ふふっ、前回は別の子。今回はその子。どっちが本命ですかね?」


 うざい……


「黙れ」

「おや、怖い。まあ、男の人はそんなものです。愛のアドバイスをすると、そのスタンスは正解です。後は女が勝手に話し合ってくれます」


 マジで黙んないかな?


「何しに来たんだ?」

「ラブの匂いに敏感なんですよ。まあ、冗談はさておき、実は少し話がありましてね」


 冗談が笑えない。


「何?」

「実は私、正式に悪魔教団を抜けることにしたんです」


 は?


「どういうこと?」

「元々、そんなに熱心に協力をしているわけではなかったんですけど、どうも私とは方向性が合わないようです。さらには嫌いな悪魔を呼んだことが決定的ですね。実は悪魔にも相性というものがありましてね。簡単に言うと、残虐の悪魔ディオンが嫌いなんです」


 残虐の悪魔ディオン……

 名古屋支部を壊滅させた悪魔か。


「それだけで?」

「十分な理由ですよ。私が欲しいのは人の愛。それを壊す者は嫌いです」


 残虐らしいしな。


「それで?」

「あなた方は悪魔教団と敵対しているわけでしょう? でも、これで私は敵ではなくなりました。仲良くしましょう」

「無理では?」


 そもそもロザリーが仲良くって言うと、変な意味に聞こえる。

 キョウカもそう思ったらしく、俺を抱きしめる力が強くなった。

 ちょっと痛い……


「まあまあ。そんなに邪険にしないで。ちゃんとアドバイスを送っているじゃないですか。あまり聞いてくれませんけど……」


 あ、それだ。


「ロザリー、俺に何かした? たまに脳内に変な声が聞こえてくるんだけど」

「愛のアドバイスですよ。私のアドバイスは定評があるんですよ? 実際、あのホムンクルスは可愛くなったでしょう?」


 確かにそれはそう。


「俺にアドバイスはいらない」

「そうですか? 女性をロクに知らないくせに?」


 うるさいなー……


「俺には俺のペースというものがある」

「ふむふむ……まあいいでしょう。では、そちらのお嬢さんにアドバイスを…………ん? んー?」


 ロザリーがキョウカをまじまじと見た。

 キョウカは俺に抱きつきながらロザリーを睨んでいる。


「どうした?」

「いえ……どうやらその子にはアドバイスは不要なようです。そのまま突き進めばいい」


 なんかそれはそれで怖いんですけど……


「何それ?」

「男性は気になさらないように……うーん、あの愛人さんもアドバイスは不要のようでしたし、やっぱりホムンクルスか? いや、あれはまだ早いし…………タツヤさん、男子高校生に興味はあります?」


 ユウセイ君、か?

 こいつ、どっちでもいいのかよ。


「ないね」

「そうなると別の線か……わかりました。考えておきましょう」

「考えなくていいよ」


 余計なことをするな。

 絶対に愉快犯だし。


「まあまあ。それで名古屋はどうでした? 情報は掴めましたかね?」


 帰らないかな……


「さあね」

「なるほど、なるほど。有力な情報が掴めましたか」

「何も言ってませんけど?」

「掴めたから東京に帰るんでしょう? まあ、あなたは転移魔法が使えるようですし、頻繁に帰っているようでしたけど」


 こいつ、何をどこまで知っているんだろう?

 本当に得体の知れない悪魔だ。

 とはいえ、ミリアムが言うには相当上の上級悪魔らしいから下手に刺激しない方が良い。


「何のことかわかりません」

「まあいいでしょう。さっさと東京に戻って鬱陶しい残虐の悪魔を始末してください」


 東京に戻って?

 ディオンとかいう悪魔は東京にいる、のか?


「東京にいるの?」

「おーっと、口がすべりました。これ以上は御自分でどうぞ。攻略本はダメですよ。私はお助けキャラですけど、頼りきりはいけません」


 お助けキャラなの?

 ひっかきまわしキャラな気がするんだけど。


「じゃあ、もう帰ってください」

「釣れない男ですねー……あっ! これはすみません。私としたことがお邪魔でしたね」


 ロザリーはわざとらしく何かに気付くと、ニヤニヤしながら立ち上がった。


「邪魔なのは確かだけど、違うよ?」

「またまたー……んー?」


 ロザリーは並んでいる布団を見て、真顔になる。


「どうしたの?」

「おかしい……くっつけておいたのに……」


 お前かーい!

 いつの間に侵入したんだ!


「不法侵入はやめてくれない?」

「悪魔に法律はありません。えーい!」


 ロザリーが布団を指差すと、一つの布団が浮き上がり、折りたたまれていく。

 そして、部屋の隅に置かれると、枕が一つの布団に並ぶように置かれた。

 それどころか枕元にはティッシュまで置かれている。


「いや、いやいや!」

「これが愛の魔法です。ではでは、あとはお若い御二人の時間ですのでこの辺りで失礼します。御二人の愛が永遠でありますよう……ふふっ、ごきげんよう」


 ロザリーはいつもの決めゼリフを笑いながら言うと、部屋を出ていってしまった。


 ロザリーが出ていくと、キョウカが離れたので立ち上がり、折りたたまれた布団のもとに行き、触れてみる。


「痛っ」


 布団に触ると、指先に静電気のような痛みが走った。


「あいつ、マジかよ……」


 そこまでするか?


「タツヤさん、あの人は何なんです?」


 さすがのキョウカも呆れた感じで聞いてくる。


「下品な悪魔ロザリー。でも、ミリアムが言うにはかなり強い悪魔らしい。実は以前、温泉に来た時も出てきたんだよ」

「確かに下品でしたね……多分ですけど、見てますよ。まだ気配が消えていません」


 出歯亀……


「無視して、飲み物でも買いに行こうか」

「そうですね」


 俺達は部屋を出ると、自動販売機コーナーまで行き、飲み物を買った。

 そして、部屋に戻ると、さっきのことを忘れて話をしながら過ごし、就寝した。


 ロザリーのせいで布団は一つだったが、もちろん手は出さない。

 だが、ロクに眠ることができない。

 それは一緒の布団にいるキョウカにドキドキしたからではなく、脳内に響く声がうるさいからだ。


『ほら、いきなさい』

『キョウカさんは待ってますよ』

『覆いかぶされば後は流れです』

『抱けよ!』

『女に恥をかかす気ですか!?』

『チキン野郎!』

『おい……!』

『もしかして、その歳でイン……』


 さっきからすげーうるさいが、完全に無視することにして、目を閉じた。


本日より新作も投稿しております。

読んでもらえると幸いです。(↓にリンク)


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【予約受付中】
~漫画~
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(1)

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

【販売中】
~書籍~
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(1)
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(2)

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua

― 新着の感想 ―
読者の代弁者ロザリーは良いですね。
読者「抱けー!抱けー!」
気ぶりジジイか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ