第016話 頑張るにゃ
俺達は家を出ると、朝からホームセンターに向かうことにした。
ミリアムは俺の肩におり、俺達には見えているが、姿を消していると思われる。
ルリは白ローブではなく、普通の女の子に見える服装で歩いていた。
「俺らってどう見えているのかね?」
「どうとは?」
駅に着くと、人が多かったのでルリと手を繋いだところで気が付いた。
「多分、ぱっと見は親子に見えると思うんだ。でもさ、誘拐犯とか危ない人に見えないかな?」
正直、俺とルリって似てないし。
「そこは大丈夫ですよ。認識阻害の魔法をかけていますから私達を変とは思わなくなっています。平日の昼間に一人でスーパーに買い物に行っていますが、誰も声をかけてきません」
認識阻害か……
そういえばだが、ルリが平日の昼間に一人で歩いていたら危ないし、警察に補導されるだろう。
そして、身分を証明できるものもないし、俺の親も証言できないからアウトか……
そもそも、戸籍もないし。
「そこを考えていなかったか……危ない」
「いざとなればいくらでも逃げ出せますよ」
それはそれでね……
「親父達が見たらどう思うんだ?」
「そこまでいくと、認識阻害が効かないと思いますので認識誘導の魔法を使います。多分、娘と思うと思います」
そんなこともできるのか……
魔法って悪用しようと思えば、いくらでも悪用できるな。
「怖いね」
「その魔法を夜にでも教えておきましょう」
「いる?」
「はい。何があるかわかりませんし、これを覚えておくと、逆に相手が認識阻害や認識誘導の魔法を使ってきても気付けます。朝起きたら知らない人が普通に家にいるのは嫌でしょう? しかも、それに対して疑問に思わないのです」
嫌すぎる。
怖いわ。
「そういった魔法を優先的に覚えた方が良いのかな?」
「別に私がいるから問題ないにゃ」
さすがは上級猫さん。
ひとまずほっとし、電車に乗り込んだ。
そして、目的地に着いたので電車から降り、ホームセンターに向かう。
土曜だから人が多かったのではぐれないように注意しながら歩き、ホームセンターにやってきた。
店に入ると、まず、目当ての農具を見に行く。
「結構、種類があるんだね。一応、聞くけど、ステンレスってある?」
よく知らないけど、鉄ではない気がする。
「ないです」
「ないにゃ」
やっぱりか。
「でも、バレなくない?」
ちょっと錆びにくいだけ。
「大丈夫だと思います。農具を売るわけではないですから」
「自分達で使うだけだしにゃ。鎌とかも買っちゃえ」
そうするか。
「空間魔法を大っぴらに使うわけにはいかないし、一つだけ買って、後はネット通販で買った方が良いだろうね」
「それが良いと思います。まずは試してみてです」
大量に買って『使えませんでした』は嫌だしなー。
俺達は買うものの目星をつけると、他のコーナーも見て回る。
「肥料とか農薬とかあるけど?」
「良いと思います」
「パッと見て、わからなかったら何でもいいにゃ」
この子達、適当だな……
俺はとりあえず買おうと思ったが、一度置いておき、他の商品を見ていく。
「草刈り機はマズいよね?」
「さすがに……」
「機械はやめた方がいいにゃ」
だよねー。
やはり目立たないのは原始的な道具だろう。
俺達はその後も商品を見て回ったが、そこまで使えそうなものがなかったので買うことに決めていたクワ、スコップ、鎌、それに農薬と肥料、さらには適当な野菜の種を購入した。
肥料がちょっと臭かったのでこっそり空間魔法にしまうと、家に戻る。
家に戻ると、ルリが淹れてくれたお茶を飲み、一息ついた。
「空間魔法って本当に便利だね」
「そうですね。私も買い物に行く時にこっそり使ってます」
ルリは小さいからな……
重いだろう。
「バレないの?」
「エコバッグに詰めた後に中身だけを空間魔法に入れるんです」
なるほど。
それならわからないか。
「いつもありがとうね」
「いえいえ、これが私の仕事です。そういうわけで昼御飯にしましょう。作りますので待っていてください」
ルリがそう言って、キッチンの方に向かう。
すると、ミリアムが俺の膝の上に乗って、丸まった。
「もう少し寒くなったらコタツを出してやるからな」
そう言いながら撫でる。
「ありがとうにゃ」
かわいい子。
子供の頃から猫が飼いたかったんだ。
「……ねえ、ミリアム?」
声のトーンを落とした。
「……何にゃ?」
ミリアムも察して声のトーンを落とした。
「ホムンクルスって何?」
「んー? 人造人間だけど、お前の聞きたいことはわかってるにゃ。ルリは魔法で作り出された人工生命体にゃ。でも、だからといって、他の人間と何かが違うわけじゃないにゃ。普通に成長するし、普通に死ぬ」
あ、成長するのか。
それに死ぬんだ。
「寿命は?」
「普通? 100年くらいじゃないかにゃ?」
俺達と変わらないのか……
そうなるとただの子供だな。
「本当に爺さんの隠し子とかじゃないよね?」
それだとゆゆしき事態だ。
「ないにゃ。全然、似てないじゃないか」
「まあ、確かに……」
「ホムンクルスはその気になればお前でも作れるにゃ。作り方を聞けばルリが教えてくれるにゃ」
「弟か妹を増やす感じ?」
製造者が違うのに弟か妹という表現で合ってるかはわからない。
「まあにゃ。でも、そんなことをしなくても人間を作るのは簡単…………ごめんにゃ」
おい……
何故、謝る?
何故、目を逸らす?
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