第156話 てきとー
マリエル様とのお茶会を終えた俺達は家に帰ってきた。
今日はユウセイ君が用事なため、家で待つのはミリアムだけだ。
「ただいまー」
そう言いながらコタツに入り、ミリアムをコタツから出して、抱く。
「おかえりにゃ。どうだったにゃ?」
「うん、上手くいったよ。ただ、マリエル様が俺を見る目がちょっと冷たかったのが気になったけど」
「冷たい? お前、何かしたにゃ?」
「さあ?」
なんでだろ?
「えーっと……」
「そのー……」
同じくコタツに入ったキョウカとモニカが微妙な顔になった。
「え? 俺、本当に何かしたの?」
いつも通りだったと思うけど。
「タツヤさん、おそらくですが、私のせいです」
コタツに入ってテレビをつけたルリが言う。
「ルリ? なんで?」
「端的に言えば、私がタツヤさんとお姉ちゃんの娘に見えなかったからでしょう」
まあ、似てないしね。
でも、養子ってことにしているから問題ないような気がするんだが……
「うーん、ネックレスの件自体は上手くいったし、まあいいか。モニカ、悪いけど、マリエル様が要望したネックレスを買っておいてくれる?」
「かしこまりました。午後にでも買いに行ってきます」
さすがに仕事が早いな。
本当は車で連れていってあげたいけど、俺は名古屋にいることになっているから出歩くことができない。
「お願い。それでさ、ネックレスの料金をいくらにしようか?」
「こればっかりは安く売ってはいけません。ふっかけるレベルで売った方が良いです」
「なんで?」
「ラヴェル侯爵が結婚記念日に奥様に贈られるプレゼントだからです」
あー、確かにそれは安くできんな。
「なるほどね」
「それにですが、多分、このネックレスは貴族夫人の方々から注文が来ると思います。そうなった時に安く売れば、装飾品を売っている商人が破産します。おそらく商人ギルドから苦情が来ますよ」
そうか……
そのこともあったな。
「わかった。普通では手が出せない高級品ということにしよう。数を用意できないとかそういうので」
「それでよろしいかと思います。それを踏まえてですが、料金は金貨1000枚で良いと思います」
1000枚って……
「そんなに?」
「それほど特別なものと考えてもらいましょう」
「そうなると、ラヴェル侯爵に金貨2000枚を請求するの?」
マリエル様がクラリス様に贈っているし。
「いや、クラリスの分はサンプルですし、半分の金貨500枚で良いと思います」
「それでも金貨1500枚か……侯爵、怒らないかな?」
「絶対に怒りませんし、即決で出します。これはメンツです。ラヴェル侯爵は大貴族ですので」
なるほど……
まあ、結婚記念日を忘れていたことに対するご機嫌取りも兼ねているし、出せるなら出すか……
「わかった。じゃあ、今週の早いうちのどこかで侯爵のところに行ってくるよ」
キョウカは学校があるし、一人で行くか。
「よろしくお願いします」
俺達はその後、昼食を食べる。
午後になると、女性陣が買い物に出かけたのでミリアムと2人でゆっくりと過ごした。
◆◇◆
翌日の月曜日、俺はさっさとラヴェル侯爵にネックレスを渡そうと思い、一人で王都にやってきていた。
ラヴェル侯爵の屋敷まで行くと、すんなり通され、そのままいつものメイドさんに案内された。
そして、ラヴェル侯爵の執務室にやってくると、ラヴェル侯爵といつものソファーに座り、対面する。
「わざわざ遠くから悪いな」
「いえいえ」
すぐですよ。
「して、今日はネックレスの件か? 昨日、妻がやたらと機嫌が良かった」
「はい。それは良かったです。こちらになります」
そう言って、綺麗な箱をテーブルに置く。
「うむ。わかった」
ラヴェル侯爵は頷くと、中身を確認せずに箱をテーブルの端に寄せた。
「確認しなくてもいいんです?」
「妻が確認しているだろう。問題ない」
この人、すごいな……
そして、俺が歳を取ってもこうならないようにしたいと気を付けたいと思わせてくれる。
「あの、差し出がましいようですけど確認した方が良いですよ。今、私の脳裏にネックレスを贈った数日後にラヴェル侯爵がマリエル様に『そのネックレスはどうしたものだ?』って聞く姿が浮かんでます」
贈った物を把握しておかないとそうなる。
当然、ガチギレするマリエル様。
「…………そうか」
ラヴェル侯爵はすぐに箱を手に取ると、中にあるネックレスを確認しだした。
「なるほど……確かにこれほど精巧に作られたネックレスなら出所を確認するかもしれん。危なかったな……」
何のために贈ったのかわからなくなるね。
「赤い宝石は愛情らしいですよ。クラリス様がそう言ってました」
「そうか……」
ラヴェル侯爵は頷くと、箱を再び、テーブルの端に置く。
「それとですが、マリエル様が同じようなものをクラリス様に贈られました」
「それは聞いている。あれは昔からクラリス嬢を可愛がってたからな。まあ、今でもべったりだが……」
そんな気はする。
「一応、確認ですが、よろしいので? けっして安くはないですよ?」
「問題ない。いくらだ?」
「マリエル様の分が金貨1000枚でクラリス様の分が金貨500枚になります」
ドキドキ……!
「ふむ。クラリス嬢のは半分か……まあ、よい。すぐに用意するから待っててくれ」
ラヴェル侯爵はすぐに納得すると、立ち上がり、部屋を出ていってしまった。
マジか……
嫌な顔一つしなかったぞ。
本当に大貴族なんだな……
そのまま待っていると、ラヴェル侯爵が麻袋を担いで戻ってきた。
「本当は貴殿の領地に送るべきなんだろうが、貴殿は優秀な魔法使いで空間魔法が使えるから直接渡した方が良いだろう」
そう言って、麻袋をテーブルの上に置く。
すると、麻袋がどしゃっという音を立てた。
重そう……
この人、金貨1500枚を片手で軽々と持ってたな。
さすがは軍人だと思うが、どんな力をしているんだよ……
「では、確かに」
そう言って、麻袋を空間魔法にしまう。
さすがに中身を確認することはしない。
ラヴェル侯爵を疑うことになるし、失礼になるからだ。
まあ、それ以前に一人で1500枚も数えたくない。
後で皆で数えよう。
「うむ。この度はよくやってくれた。アップルパイなるものも非常に美味かったと言っておったぞ」
「ありがとうございます」
ルリが作るアップルパイは美味しいからね。
「それでな、そろそろ王妃様から呼び出しが来ると思うぞ」
「そうなんですか?」
「妻は王妃様と昔からの知り合いでな、たまにお茶会を開いておる。後はわかるな?」
髪がきれいになり、精巧なネックレスを着けたマリエル様を見て、王妃様がどう思うか。
さらにはリンゴ系か……
確かに呼び出しが来そうだ。
「わかりました。準備しておきます」
「うむ。それと来月には陛下もお戻りになられる。わかるな?」
「はい……」
一度に呼んでくれよって思っちゃうな……
「まあ、わかっていると思うが、王族には心証良くしておけ。そのうち辺境伯にはなれると思うぞ」
辺境伯って何?
偉いのか?
「わかりました。と言っても領民30人程度で小さい村なんですけどね」
「まあ、そういうこともあるだろう。それに考え方を変えれば、あの大森林は手付かずだからすべて貴殿の領地とも考えられる。国一番の領地持ちだな」
でかいだけじゃん。
その後、ラヴェル侯爵と少し雑談をし、家に帰った。
そして、ルリ、ミリアム、モニカに手伝ってもらって金貨を数えた。
1502枚あった。
間違えてるね……
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