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第155話 何がとは言わない ★


 クラリスとひそひそしながらしばらく待っていると、4人が戻ってきた。


「お待たせしました」


 山田がそう言うと、ルリさんがこの前見たアップルパイを乗せた皿をテーブルに置く。

 アップルパイはこの前と同様に4つある。

 それにこの前とは違い、できたてなためか良い匂いがする。


「どうぞ」


 ルリさんが勧めてきた。


「ありがとうございます」


 可哀想に…………あ、いや、良い匂いがして美味しそうだ。


「おー、できたては違うわねー」


 クラリスはもう食べ始めていた。


「ハァ……では、私ももらいます」


 そう言って1つ手に取ると、まだ温かった。

 私はパイ生地が落ちないように慎重に取ると、一口食べる。


「なるほど……」


 これはすごい。

 この前のも美味しかったが、できたてはサクサクだし、リンゴの甘みが前面に出ている。

 本当にすごい……


「お口に合うでしょうか?」


 ルリさんが聞いてくる。


「ええ。とても美味しいと思います」

「素晴らしいわね」


 私とクラリスが褒めると、ルリさんがほっとしたように頬を緩めた。


 うーん、かわいい。

 あと、山田、自慢げな顔になるな。


「お口に合ったのなら良かったです。マリエル様、本日はネックレスの件で参りました…………あの、どうしました?」


 山田が本題に入ってきたので山田の方を見ると、山田が困惑する。


「いえ、続けなさい」


 ペドめ……


「は、はい。それでサンプルをいくつか持ってきたので確認してほしいのです。キョウカ、後は頼む」

「はーい」


 どうやらキョウカさんが話すようだ。

 この子も可哀想…………いや、何故かこの子は可哀想と思えないわね。


 なんでだろうと思っていると、キョウカさんがテーブルの上に3つのネックレスを並べていく。


「ほう……」


 思わず声が漏れた。

 それほどまでに3つのネックレスは見事だったのだ。


「今回は3つ持ってきました。選んでほしいのはチェーンの色、あと宝石をどうするかですね」


 3つのネックレスは色が金色、銀色、ピンクでそれぞれ別物だ。

 さらには宝石も透明、赤、青の3色ある。


「触れてみても?」

「はい、どうぞ」


 キョウカさんが笑顔で頷いたので1つのネックレスを手に取ってみる。


「ふむ……」


 何、このチェーン……

 こんな精巧なものがこの世にあるんだろうか?

 一つ一つが小さく、それでいて綺麗に統一されて作られている。

 職人には無理……

 これがペド魔導士……いや大魔導士の力か。


 私は他の2つも手に取って見てみるが、どれも私がこれまで見てきたどのネックレスよりも優れていた。


「これは金ですか?」


 金色のネックレスを見ながら聞いてみる。


「はい。多分、そうです」


 ふーん……リンゴ村で金ね……

 鉱山もないのに金と宝石……

 やはり夫が言うように山田は転移魔法が使えるみたいね。

 まあ、それは今さらか……


 転移魔法の使い手ならいくらでも仕事をさせられるが、逆に言うと、逃げられやすいから無理はさせられない。

 夫が言うように適度に仕事をしてもらうのが一番かしら。

 アップルパイ、美味しいし。


「悩みますね……クラリスはどう思います?」


 一応、聞いてみよう。

 センスはある子だし。


「チェーンの色は金で良いんじゃないです? マリエル様の黒髪に合いますよ。私は合いませんけど」


 クラリスは金髪だから金を避けるのか……

 待て。

 王妃様も金髪……なるほど。

 同じは避けるべき。


「金にします」

「わかりました。宝石はどうします?」


 種類ねー……

 正直、どれも精巧で良いものすぎる……


「クラリス」

「赤で良いんじゃないです?」


 この子、本当に悩まない子ね……


「その心は?」

「結婚記念日ですよね? 赤の方が愛情があって良いじゃないですか」


 なるほど……

 良いことを言うわね。

 悲しいのは本来ならクラリスの役目が夫なんだが……


「赤にします」

「わかりました。私も良いと思いますし、その組み合わせにしましょう。タツヤさん、金色のチェーンと赤い宝石です」


 キョウカさんが山田を見る。


「わかった。マリエル様、すぐに用意しましょう」


 用意……

 また用意と言った……

 他の物ならまだわかるが、自分で作るのに用意という言葉を使うだろうか?

 まあ、いいわ……


「できたものは夫に渡してください。その際に代金も受け取ってください」

「わかりました」


 山田が頷くと、キョウカさんがサンプルらしいネックレスをしまうために手を伸ばした。


「あ、キョウカさん、待ってください」

「え? どうしました?」


 私が止めると、キョウカさんがキョトンとした顔になる。


「クラリス、どれか選びなさい」


 3つのネックレスを指差しながらクラリスに勧めた。


「選ぶんですか? 誰の?」

「あなたのです」

「いいんです?」

「構いません。山田さん、1つ、購入します。いいですね?」


 山田に確認する。


「ええ。もちろんです」


 山田が心よく頷いた。


「そういうことです。選びなさい」

「はーい。じゃあ、これで」


 本当に早いな、この子は……


「それで良いんですね?」


 クラリスが選んだのピンクのチェーンで青色の宝石のネックレスだ。


「これが良いです」

「山田さん、これを購入します。代金はまとめて夫に請求してください」

「わかりました。でしたらクラリス様、そのまま持って帰って結構ですよ」

「どうもー。マリエル様、ありがとうございます!」


 クラリスは嬉しそうにお礼を言うと、ネックレスを手に取った。

 そして、一瞬、首にかけようとしたが、すぐにやめ、じーっとネックレスを見る。


「あ、ここをこうすると、外れるんですよ。それで首に回して着けます」


 キョウカさんがクラリスにネックレスの着け方をレクチャーし始めた。


「ふむふむ。なるほど……こんな感じかな?」


 クラリスはなんとかネックレスを着けたようだ。


「お似合いですよー」

「そうかな? ありがとう」


 確かに似合っている……

 それにやはり目を引く……

 ネックレスというのはいかに大きな宝石や金を使うかで価値が決まるのだが、このネックレスはそういう感じではなく、上品なのだ。

 所詮、装飾品は身に着ける者を引き立てるために存在していることを思い出させてくれる感じがする。

 私がキョウカさんのネックレスを見て、感じたのはまさしくこの感情なのだ。


「山田さん、それでは私の分もお願いしますね」

「わかりました」


 山田が頷いたのでお茶会をすることにした。

 そして、お茶会は昼前まで続き、昼になると、山田一行とクラリスが帰っていった。


 誰もいなくなった客室で静かに最後のお茶を飲むと、呼び鈴を鳴らす。

 すると、すぐにメイドが部屋に入ってきた。


「キッチンの様子はどうでしたか?」


 メイドがこちらにやってきたので確認する。

 あらかじめに見ておくように指示していたのだ。


「まずですが、アップルパイの作り方はわかりました」

「我が家でも作れますか?」

「作れるか作れないかで言えば作れます。ですが、大量のバターを使用するのでかなりの出費です」


 バター?

 バターはこの辺では高級品だ。


「そんなに使うんですか?」

「はい。あんな贅沢なパンは初めて見ました。大量のバターにリンゴ、そして、砂糖です」


 リンゴ一つでも金貨5枚はする……

 それに加えて大量のバターと砂糖か……

 家で作るより作ってもらった方が良いか。


「あの男、確実にこの国の人間ではないわね」

「いかがしますか?」

「どうもしません。それよりももらってばかりですし、こちらも何かを返さないといけませんね……しかし、あの男の望みがいまいちわかりません」


 一番良いのは婚姻だが、私に娘はいない。

 それに山田の好みは…………あ、いや、モニカもいるのか。

 うーん……クラリスは可哀想だし……


「山田様のことは旦那様に任せるべきでは? むしろ、奥様の方でしょう」


 キョウカさんの方か……

 確かにそうね……

 男は男同士で付き合えばいいし、女は女同士で付き合うべき。

 それが貴族だ。


「それもそうね……キョウカさんの好きなものは……」


 確か……『私、剣術が得意なんですよー』と言っていた。


 ふむ……変な子だ。

 まあいいか。

 夫に頼んで剣を見繕ってもらおう。

 こういう時に軍人は便利ね。


「わかりました。キョウカさんに適当な理由をつけて贈り物をします」


 まあ、物を贈るのに理由なんていらないか。


「かしこまりました」

「他に何か気付いたことはありませんか?」

「1つあります」


 ん?


「何ですか?」

「ルリお嬢様なのですが、山田様のことをタツヤさんと名前で呼んでいたんですけど、本当に親子なのでしょうか?」


 確、定!!


お読み頂き、ありがとうございます。

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