第153話 キョウカ「指輪! 指輪!!」
マリエル様というか、ラヴェル侯爵からネックレスの依頼を受けて、1週間が経った土曜日。
この日は昼食を食べにミリアムとユウセイ君を連れて名古屋の焼肉屋にやってきていた。
「いやー、焼肉はどこに来ても美味いな」
「まったくだにゃー……あちち、にゃ」
ユウセイ君とミリアムが焼肉に舌鼓を打っている。
もちろん、ミリアムは魔法で隠れている。
「まあ、好きなだけ食べてよ。今回の仕事でまた余裕ができそうだし」
名古屋支部で召喚魔法陣を見つけたし、成功報酬は期待できそうだ。
「山田さん、どんどん金持ちになるな。その金を使えば、あの村を近代化させて異世界を獲れるんじゃね?」
「良いにゃ。異世界の支配者、山田にゃ」
それ、魔王とかじゃない?
魔王山田はもはやギャグだぞ。
「そういうのはいいよ……俺はのんびりするんだ。露天風呂を作って星を眺めるんだよ」
「ふーん……まあ、確かに星はきれいだったな」
あの村の夜は星がよく見えるのだ。
まあ、今の時期は寒いけど。
「でしょ。俺はスローライフを満喫する」
「よくわからないけど、良いんじゃね? 応援するし、できることなら手伝うよ」
ユウセイ君は本当に良い子だわ。
最近の若者らしくあっさりしている子だけど、人間ができている。
「好きなものを頼んでいいよ」
「じゃあ、特上カルビいっとくか」
「特選ロースも頼むにゃ」
2人がそう言うので店員さんを呼び、追加の注文をする。
そして、すぐに特上カルビと特選ロースがやってきたので焼き始めた。
「そういや、キョウカはどうした?」
肉を焼いているユウセイ君が聞いてくる。
「キョウカはモニカとルリを連れて出かけた。例のネックレスを頼んだよ」
「あー、マリエル様って人のやつか」
「そうそう。俺が行ってもわかんないし、女性陣に頼んだ」
「良いと思う。女の買い物とかつまんねーし」
かっこいいセリフだ……
女慣れしてそう。
「ユウセイ君、彼女いるの?」
「いない……あー、ウチは妹もいるし、一族が多いから親戚の姉ちゃんとかと買い物に行くことも多いんだよ。昔はよく遊んでくれたしな」
へー……
何気に一族という言葉が出てくるあたりが名家っぽいな。
「そっかー……」
「山田さんさ、今日は何の用なの? いきなり焼肉でも行こうかって誘ってきたけど……」
「うん、実は相談があってね……」
本題に入ることにする。
「何? 修羅場の話なら嫌だぞ。俺はあんたらのいざこざはスルーするって決めている」
「私もにゃ」
君ら、すぐに逃げるもんね。
まあ、当たり前だけど……
「いや、そういう話じゃない。キョウカってさ、今月が誕生日でしょ?」
桐ヶ谷さんに聞いた。
「あー、確かそうだな。えーっと、いつだったっけな?」
「来週の日曜らしいよ。ルリに聞いてもらった」
ルリはケーキを作るらしい。
「だったかな? 1月の後半なのは覚えているんだけどさ」
「ちなみに、ユウセイ君は?」
「俺? 6月6日」
覚えやすいな。
「ミリアムは?」
「知らない。誕生日を祝うのは人間だけにゃ」
猫さんだし、仕方がないか。
あと地味にルリもわからないんだよな……
「それで山田さん、相談って何? まさかプレゼントをどうしようかっていう相談?」
「そうそう、それ」
「……自分で考えろよって思っちゃダメか?」
17歳に苦言を呈される35歳。
「いや、キョウカのことを昔から知っているんでしょ? アドバイス的なものが欲しい」
「……あいつの誕生日に何かを贈ったこともないし、俺の誕生日に何かをもらったこともないぞ」
この2人はまあ、そんなものかもしれない。
「でも、ある程度の趣味嗜好はわかるでしょ。この前のクリスマスのネックレスは喜んでもらえたし」
「うん……まあ、あれはな……」
ユウセイ君が微妙な顔になった。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。プレゼントだっけ? 指輪で良いんじゃない?」
「それ、渡したら左手のどっかにはめそうじゃない?」
「そうなるだろうな……」
何段飛ばすんだよ。
「他に」
「えー……キョウカ、激重だから残るものが良い気がするなー」
激重って言うな。
その通りだけど……
「残るものね……正直さ、学生さんだし、食べ物でいいかなって思っているんだけど」
「俺はそっちの方が良いけど、あいつは夫人じゃん」
夫人言うな。
夫人になっちゃったけど……
「そこはスルーで」
「うーん……ルリに探ってもらえば?」
「その手を逆にルリのクリスマスプレゼントの時にキョウカに使っている」
「あ、そう……それで俺に探れと?」
勘が良い子は好きだよ。
「そうそう。ほら、学校とかでさ、『そういえば、お前、そろそろ誕生日だよな? 欲しいものとかあるのか?』みたいな雑談をしてみてよ」
「違和感がすごすぎる……そもそも学校であいつとそんなにしゃべんないぞ?」
「え? そうなの? 仲良しじゃないの?」
同じクラスじゃん。
「俺は男子と話すし、あいつも女子と話すな……元々、仕事の話以外はそんなに話さないし。それに最近は用事があっても山田さん家で話せばいいからなー」
まあ、それはそうかも……
この子達、完全に居着いてるもん。
「頑張って! ほら、カルビでも食べて!」
「ああ……美味いな……」
でしょー。
「ユウセイ君、俺は高校、大学を出て、会社勤めをしてきたんだよ。そして、35歳になった。この間、女性にプレゼントを贈ったことなんてなかったんだよ」
というか、人生で一度もなかったね。
姉妹もいないし、親戚も男ばっかりだし。
「あ、うん……それでいきなり女子高生と付き合い、巨乳の姉ちゃんを侍らすことになって困惑しているのか」
「言葉には出さないで」
やめて。
「はいはい……じゃあ、さりげなく月曜にでも探ってみるよ」
「ありがとう! ささ、食べて、食べて」
良い子だわー。
「カルビクッパでも食おうかな……」
しかし、本当によー食うな、この子……
こんなに肉を食べているのにカルビクッパって……
俺も冷麺でも食べようかな……
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