第148話 涙目でかっこつけてる人斬りキョウカちゃん
「トイレが何なの?」
「いや……次は隣ね」
隣?
女子トイレ?
「マジ?」
「大丈夫。誰もいない…………いないよね?」
自分で言ってビビるなよ。
俺はさらにへっぴり腰になったキョウカを連れて、隣の女子トイレに入った。
「タツヤさん、どう思う?」
「え? 小便器がないんだなーとしか……」
当たり前だけど、個室しかない。
入ったことなかったけど、本当だったんだ。
「いや、違う。魔力の方」
「ん? そりゃ感じるよ」
変わらずに結構な魔力を感じている。
「そうだね。男子トイレもここも魔力を感じる。というか、私が歩いた場所はすべて魔力を感じた」
俺達が午前中に歩いたところもすべて魔力を感じた。
「キョウカ、何が言いたいにゃ?」
ミリアムがキョウカに聞く。
「ミリアムちゃんも気付いたでしょ。この魔力、犯人のものじゃない。だって、犯人が誰か知らないけど、男子トイレにも女子トイレにも魔力の残滓があるのは変だもの」
「まあ、確かに……」
「ミリアムちゃん、どう思う?」
キョウカがミリアムに聞き返した。
「この魔力は妨害、かにゃ?」
妨害……
「私もそう思う。まずもってこんな時間が経っているのにここまでの魔力を残すのはすごいことだよ。でも、それなのにこのビルの外には漏れていない。これは明らかにおかしい」
「まあにゃ……」
「結論を言うよ。この魔力は何かを隠すための魔力だね。この魔力をどうやって生み出しているのはわからないけど、何かを隠したいのは確かだ」
すごい!
キョウカがものすごく頭がよく見える!
さすがは人斬りキョウカちゃん!
「でも、何を隠しているんだろう?」
「それを探した方がいいと思うね。タツヤさん、このビルのマップとかない?」
「ん? あるよ」
桐ヶ谷さんに送ってもらっている。
「見せて」
「はい」
俺はスマホを取り出し、画像ファイルを開くとキョウカに見せた。
キョウカはじーっとマップを見ている。
「この赤いバツ印は?」
「被害者の遺体があったところ」
お悔やみ申し上げます……
「なるほどねー……ふふっ、ここかな?」
キョウカが3階の男子更衣室を指差した。
「え? なんで?」
「遺体の位置関係でわかる……まあ、行ってみよう」
キョウカがすごいかっこいい。
でも、膝がガクガクと笑っている。
もう辺りは真っ暗だから仕方がない。
「明日にしようよ」
「いや、行こう……もう来たくないし」
あ、そうですか……
「ミリアム、灯りを出してくれる?」
「わかったにゃ」
ミリアムは頷くと、光球を出してくれた。
そのおかげで周囲がかなり明るくなる。
でも、キョウカは震えたままだ。
「行くよ」
「タツヤさんが一緒なら大丈夫、タツヤさんが一緒なら大丈夫、タツヤさんが一緒なら大丈夫…………」
暗示をかけているのか?
でも、ぶつぶつ言うのはやめてほしい。
こえーよ。
俺は震えるキョウカの背中をさすりながらなんとか歩き、エレベーターに乗って3階までやってきた。
そして、キョウカが指差した男子更衣室に入る。
「ここも魔力を感じるね」
「朝と変わらないにゃ」
男子更衣室は左右にロッカーが並んでおり、その間に長テーブルが置いてあるごく一般的なものだ。
ここも午前中に調べたが、特に変なところはなかった。
「キョウカ、ここに何かあるの?」
「その前に聞きたいんだけど、悪魔はどこから侵入してきたか知ってる?」
ん?
「入口から堂々と来たっていうのが有力だってさ」
「協会情報?」
「そうだね」
「ふっ……協会は警察を頼らなかったようだね。メンツか……協会らしい」
キョウカが笑う。
涙目だけど。
「どういうこと?」
「正面玄関から来たんだったら遺体の位置関係がおかしいんだよ。遺体が一番多いのはこの3階。次に2階でその次が1階になっている。もし、悪魔が正面玄関から来たんだったら逆になっていないといけない。だって、敵が来たら迎撃するために皆、集まるんだからね」
確かにそうかも……
ここには戦いができる退魔師がいたんだから。
「つまり悪魔は3階に現れた?」
「そういうことだね。でも、そう予想していないってことは窓とかは割れていないんだろう?」
「そうだね。そういうことはないと聞いているし、実際に見て回ったけど割れていなかった」
「じゃあ、答えは一つだよ」
召喚の魔法陣か……
悪魔教団の十八番だ。
「それがここなの?」
「そうだと思うよ。この部屋が起点になっている」
キョウカはそう言いながら持っているスマホを手でなぞっていく。
すると、確かに悪魔がそのルートを進んだんだろうなというのが遺体の位置関係でわかった。
「よくわかるね」
「簡単だよ。自分も殺す側になって考えればいい」
怖いって……
「じゃあ、ここに何かあるわけだね」
「多分ね」
「探すか……」
キョウカがもはや腕じゃなくて、胴体に抱きついてきているから動きにくいんだが……
「いや、探さなくてもいいにゃ。そこにゃ」
ミリアムがとあるロッカーを尻尾で指す。
「わかるの?」
「ここまでわかれば集中して探せる。そこのロッカーにゃ」
ミリアムにそう言われたのでそのロッカーを開ける。
すると、鍵もかかっておらず、普通に開いた。
「あれ? 開くじゃん」
「鍵をかけると逆に見つかりやすいにゃ」
なるほどね。
「でも、何もないよ?」
ただの空のロッカーだ。
「ちゃんと探すにゃ」
ミリアムにそう言われたので隈なく探していく。
とはいえ、何もないので探しようが……ん?
「あっ……あった」
ロッカーの上の棚の下面に小さい魔法陣が描かれていた。
「そこから悪魔が来たにゃ。残虐の悪魔ディオンだったか?」
「こんな小さな魔法陣でも大丈夫なの?」
30センチくらいしかない。
「問題ないにゃ」
「ここから来たのか……ミリアム、追える?」
「追う必要はないにゃ」
え?
「なんで? 敵の本拠地を見つけたら500万だよ?」
見つけるべきだ。
「タツヤさん、落ち着いてくれ」
キョウカが震えながらも宥めてくる。
「あ、ごめん。お金のことになるとつい……」
「いや、お金はとても大事だからそれはそれでいいよ。しょ、将来のこともあるし…………あ、いや、ごめん。今はそれよりも重要なことがある」
キョウカが顔を赤くしたが、すぐに我に戻った。
いや、涙目なんだけども……
「重要なことって?」
「なんでこんなに魔力をまき散らしてまで魔法陣を隠したかだよ」
それは……
「見られたくなかった?」
「うん、そうだね。じゃあ、なんで見られたくなかったか…………まあ、考えればわかるでしょ。そもそもな話、なんでこんなところに召喚の魔法陣があるのか」
ここはタイマー協会名古屋支部の3階の男子更衣室……
悪魔教団の人間が侵入できるわけがない。
1つの方法を除いて……
「裏切者……内通者がいる?」
「じゃないかな? 生き残りがいるんだろう? たまたま出社していなかった退魔師もしくは、協会の職員がさ」
そう聞いている……
「戻って桐ヶ谷さんに電話しよう」
「う、うん、それがいいね。早く帰ろー……」
あ、もう限界っぽい。
キョウカが気絶する前にさっさと帰るか。
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