第145話 誰もいないビルも怖い
ホテルの部屋に転移した俺達はすぐに部屋を出て、チェックアウトする。
といっても、今日もここを借りる予定だ。
俺は地下駐車場から車を出してもらい、乗り込むと、ナビアプリを使いながら名古屋支部を目指す。
「ミリアム、何か魔力を感じる?」
「いや、何も。東京と変わらないにゃ」
やっぱりか……
俺もいつもの感じと変わらない気がする。
俺はその後も運転をしながら魔力を探っていくが、特別な魔力を感じなかった。
そうこうしていると、名古屋支部のビルが見えてくる。
「ここかな……」
とりあえず、車をビルの前に路駐し、窓を開けてビルを見上げた。
ビルの大きさは東京の本部とそう変わらない。
俺がビルを見上げていると、支部の入り口前に立っていた警備員がこちらにやってくる。
「すみません。この辺は立入禁止なんですよ」
警備員にそう言われたので懐から手帳を取り出して見せる。
すると、警備員がハッとした顔になった。
「東京本部の者です。調査の依頼を受けたんですよ」
「山田タツヤさんですね。聞いています。裏に駐車場がありますので車はそこに止めてください」
「わかりました」
窓を閉め、車を発進させると、ビルの裏に回る。
すると、確かに数台ほど止められる駐車場があったので車を止めた。
「ミリアム、ちなみにだけど、何か感じる?」
「いや、何も?」
「うーん……まあ、入ってみようか」
「そうするにゃ」
俺とミリアムは車を降りると、ビルの中に入る。
すると、何かの魔力を感じた。
「これは……」
「……山田、魔力の残滓にゃ。これほどの魔力はすごいにゃ」
確かにすごい。
だが、それ以上にビルの外ではまったく感じなかったことが気になる。
「山田さん、こんちはーっす」
ん?
「あ、須藤さんじゃないですか」
気安い声が聞こえたと思ったら東京の調査員の須藤君がこちらに近づいてきていた。
「お久しぶりっす。今日はパパ活じゃないんですね」
やめーや。
本当にそれっぽくなってんだから。
「2人には内緒らしいですよ」
その日のうちにしゃべったけど。
「まあ、言えないっすわね」
「ええ。須藤さんも調査ですか?」
「そうですね。でも、全然、足跡がないっす」
「こんなに魔力を感じるのに?」
あれから何日も経っているのにすごい魔力だ。
「いや、山田さんも感じたと思いますけど、ビルの外はまったくでしょ。この魔力、ビルの中だけなんですよ」
やっぱりか。
「変ですね」
「でしょ? まあ、頼みますわ。正直、ここを調査するのはこえーです」
退魔師も含めて全滅したところだからなー……
ましてや、調査員の人は戦えない。
「わかりました。探ってみます。他の人は?」
「俺とあそこにいる先輩だけっすわ」
須藤君が指差すと、エントランスで休憩中のおじさんがいた。
あの人は以前も須藤君と一緒に行動していた人だ。
「上には誰もいないんですね?」
「ええ。怖いっすよ?」
まあ、わからないでもない。
だが、俺はミリアムがいるから一人ではないのだ。
「大丈夫ですよ。今日は橘さんがいないので自由に動けますしね」
多分、あの子は引っ付いてくる。
「役得じゃなくて残念でしたね。あ、いや……そうでもないか」
ん?
「どうしました?」
「いえいえ……ウチの同僚がクリスマスイヴにどこぞのホテルで誰かさんと誰かさんが2人っきりでいるのを見たとかではないです」
おーい!
よりにもよってホテルかい!
「いや、ケーキバイキングに行ってただけですよ? いつも自分だけお金をもらっているのでお礼ですよ」
「わかってます、わかってますよ……私達も同僚を警察に売ったりとかしませんから」
わかってねー……
まあ、でも、あながち間違ってもいないのが困る。
「とにかく、調査に行ってきます。エレベーターとか使えます?」
「もちろんですよ。電気、水道は通ってますのでトイレも使えます。お気を付けて」
俺はさっさと調査を開始しようと思い、エレベーターに乗り込んだ。
「山田、多分だが、皆知ってると思うにゃ」
エレベーターに乗り込み、2人きりになると、ミリアムが告げてくる。
「かもね。でも、知らぬ存ぜぬでいくことにする」
「その開き直りは良いと思うにゃ」
もう後には引けんのだ。
キョウカ、彼女どころか完全に夫人面してるもん。
俺は2階のボタンを押し、エレベーターを動かす。
すると、すぐに到着したので部屋を調べていった。
「何かわかる?」
「うーん……微妙。血の匂いはするにゃ」
「それは言ってほしくなかった……」
やっぱり怖い。
今思うと、学校も廃ビルもキョウカがいたから怖くなかった気がする。
あれだけビビっていればこっちは冷静になるし、守らなくちゃという思いも出てくるからだろう。
「悪いにゃ。とりあえず、しらみつぶしに探してみるにゃ」
「そうするか」
俺達は一部屋一部屋を確認し、確認が終わったら次の階層に移動していった。
その後も部屋の他にトイレや休憩スペース、取調室なんかも調べていくが、特に何も感じないし、ミリアムも何も言ってこない。
「うーん……何もないね」
「ホントにゃ。そもそも敵はどこから侵入してきたんだ?」
「窓なんかも割れていないし、入口から堂々と来たっていうのが有力なんだって」
この辺の情報はメールをもらっているのでわかっている。
「ん? 確定じゃないのか?」
「監視カメラがダメになってたらしいよ」
情報はあくまでも調査員の人達が調査をし、推測したものだ。
「じゃあ、犯人は悪魔じゃない可能性もないか?」
「こんなに魔力を感じるのに?」
「こんなもんどうとでもなるにゃ」
「うーん……でも、ロザリーが残虐の悪魔ディオンって言ってたよ?」
多分、ロザリーは嘘をつかないと思う。
女難の相も当たってたし、ルリへのアドバイスも当たってた。
最近、甘えてきてかわいいもん。
「まあ、とりあえず、部屋を全部、見てみるにゃ」
「そうだね」
俺達はその後も調査を続けていった。
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