第144話 久しぶりに感じる
何かがもぞもぞと動いたので目が覚める。
目を開けてみると、長い黒髪の少女が上半身を起こし、キョロキョロと部屋を見渡していた。
「どうしたの?」
備え付けの時計を見ると、まだ6時だ。
「そっか……旅行でしたね。朝ご飯の準備をしなくてもいいんだ……」
ルリはいつも早起きだからなー。
俺が起きる頃には朝ご飯を作っている。
「今日はゆっくりでいいよ。ほら、おいで」
布団をめくって誘うと、ルリが俺の布団の中に戻ってくる。
そして、抱きしめてきた。
「温かいです……」
うん、ルリも温かい。
「いつもさー、そんなに早く起きないでいいんだよ? 一緒に寝ようよ」
「はい……布団から出たくないです」
だよねー。
冬の布団は世界最高の友だ。
俺達は二度寝をすることにし、目を閉じた。
そして、日が昇り、明るくなると、起き上がる。
「おはようにゃー」
ミリアムが例のスペースの椅子に座って挨拶をしてきた。
俺はまだ寝ているルリとモニカを起こさないようにそーっと、布団から出ると、ミリアムのもとに行く。
「おはよう。いい天気だね」
外は晴れており、朝日を浴びた庭園が美しい。
「そうだにゃ。温泉はどうでもよかったけど、ご飯は美味しかったにゃ」
この上級猫さんは昨晩、ルームサービスでステーキを食べていた。
「楽しかったなら良かったよ。俺は風呂に入ってくるけど、適当なところで2人を起こしてくれる? 多分、2人も入りたいだろうし」
「わかったにゃ。しかし、人間はなんでそんなに風呂が好きなのかねー」
「気持ちいいよ? 今度、一緒に入る?」
「絶対にお断りにゃ。コタツの方が気持ちいいにゃ」
俺は猫さんだなーっと思いながら部屋を出ると、大浴場に行き、朝風呂を堪能した。
夜の温泉も良かったが、朝の温泉も気持ちよく、非常に快適だった。
朝風呂を堪能し、部屋に戻ると、ルリとモニカがいなかったのでそのまま例のスペースで2人を待つ。
しばらく待っていると、ホクホク顔の二人が戻ってきたので朝から豪華な朝食を食べた。
そして、名残惜しい気持ちもあったが、また来ればいいと思い、帰りの準備をしてチェックアウトした。
2日目も名古屋に行くまでの道中にサービスエリアや観光地を巡りながら運転していくと、夕方の6時くらいには名古屋の街中に到着した。
ただ、夕方と言ってもこの時期の6時はもう真っ暗だ。
「着いたねー。俺はホテルにチェックインしてから帰るから3人は先に帰ってて」
「わかったにゃ」
ミリアムが頷くと、ルリとモニカと共に消えてしまった。
3人がいなくなると、車内が一気に暗くなったような気がしたのでビジネスホテルに急ぎ、チェックインする。
そして、借りた狭い部屋に入り、一息ついた。
「昔はワクワクしたんだけどなー」
前職ではたまに出張とかでビジネスホテルに泊まることもあり、その時は非日常にちょっと興奮したものだが、今はそうでもない。
歳のせいか、それとも家が明るくなったおかげか……
「まあいいや。帰ろう」
転移を使い、自室に飛ぶ。
そして、荷物を置き、着替え終えると、リビングに向かった。
リビングではルリとモニカがコタツに入っている。
多分、ミリアムはコタツの中で丸まっているのだろう。
俺はコタツに入ると、コタツの中に手を入れ、ミリアムを引っ張り出す。
そして、ミリアムを膝の上に乗せ、撫で始めた。
「さすがに疲れたね」
「運転でしたもんね。お疲れ様です。旅行に連れていってもらい、ありがとうございます」
モニカが礼を言ってくる。
「ううん。楽しかったし、良かったよ。ルリ、晩御飯、どうする? 今から買い物に行って作るのもだるいよね?」
「ピザを食べたいです」
いいかもしれない。
昨日は上品なもの食べたし、ジャンク的なものがちょうどいいだろう。
「じゃあ、そうしよっか。モニカと2人で決めていいよ」
そう言うと、ルリが部屋からチラシを持ってくる。
そして、モニカとチラシを眺めながら相談し始めた。
「ミリアム、明日から調査に入るけど、お願いね」
「わかったにゃ。まずは支部か?」
「うん。そこからになると思う。ロザリーが言うには残虐の悪魔ディオンっていうのがやったらしい」
「また物騒な名前だにゃー……」
残虐だもんなー。
強そうだし、恐ろしい。
「ちなみにだけど、ミリアムはそういうのはないの?」
「別にないにゃ。猫の悪魔ミリアムでいいにゃ」
うーん、かわいい。
「タツヤさん、決めました。頼んでもいいですか?」
どうやらピザを決めたらしく、ルリが聞いてくる。
「いいよ」
頷くと、ルリが家の電話に行き、注文をしだす。
その後、待っていると、ピザが届いたので皆で食べ、家でゆっくり過ごして就寝した。
翌日、朝遅くに起きた俺はルリが用意してくれた朝食を食べ、準備をする。
朝起きるのが遅かったため、時刻は10時前でホテルのチェックアウト時間ギリギリだ。
「ミリアム、いい?」
「大丈夫にゃ」
ミリアムが頷き、よじ登ってくる。
「じゃあ、行こう。ルリ、夕方くらいに帰ってくるから。多分、キョウカとユウセイ君も来る」
「わかりました。お気をつけて」
俺は頷くと、ミリアムと共にホテルの部屋に転移した。