第136話 お泊まり
「ふぅ……うるさいのがいなくなったし、ようやくゆっくり話せるな」
うるさいの……
「マリエル様はお優しいですし、明るい方ですよ」
「ふふっ……貴殿は自分の妻をどう思う?」
え? えーっと……
「明るくていい子です」
「だろうな。マリエルが気に入るのがよくわかる。裏表もなく、明るい。それでいて、まだ若いだろうにちゃんと最低限の礼儀作法も身に着けている」
実際、名家の子だからな。
「ありがとうございます」
「ふっ……マリエルもそうだったよ。貴殿が言うように明るくて優しい。だが、子供が生まれたら私や息子に文句ばっかりだ」
あー……
「ま、まあ……」
何も言えねー。
「そういうものだよ」
ラヴェル侯爵が苦笑する。
「あ、あの、息子さんは?」
話題を変えよう。
「息子達は軍に所属しており、現在は軍の寮だ。おかげでマリエルの苦言が私に集中しておる」
話題が変わらなかった……
「そ、そうですか」
「貴殿は子はまだか?」
マリエル様に聞いていないらしい。
まあ、言いにくいか。
あの人、俺がキョウカがまだ子供の時にルリを生ませたと勘違いしているし。
「娘がいます。ただキョウカの子ではないです」
ここ重要。
「なるほど。そういうこともあるか……だが、早いうちに跡取りとなる男子を作っておけ。貴殿はもう貴族だぞ」
跡取り……
考えたこともない。
「覚えておきます」
「うむ。まあ、あれだけ若くて器量のある子ならすぐか」
若すぎるんですよー。
それと実は結婚していないどころか、付き合ってるかも微妙です。
「どうでしょうかね?」
「貴殿は自分の妻のことを好いていないのかね?」
「いえ、そういうわけではないです。ただ年齢差がありましてね」
「なるほど。自分に自信が持てないわけだな」
まあ、それは確かにある……
「マリエル様にもそこを指摘されましたね」
「女はそこを気にするからな。自信のない男を好かない。貴殿は立派だし、胸を張りたまえ。ネームドの悪魔を撃破するなど、常人では無理だ」
ルリやミリアムに魔法を教えてもらっていなかったら絶対に勝てなかっただろうな。
「少し自信を持つようにします」
「それがいい。持ちすぎるのも問題だが、貴殿の場合、それくらいがちょうどいい」
やっぱりそうなんだろうなー。
昔は彼女もいない安月給の中間管理職だったが、今は貴族だ。
少しは自信を持った方がいいだろう。
「はい。肝に銘じておきます」
「うむ」
俺とラヴェル侯爵はその後も酒を飲みながら話をし、交流を深めた。
ラヴェル侯爵は見た目よりもずっと話せる人だったし、酒が進むにつれて、どんどんとマリエル様の愚痴をこぼしていた。
というか、どんな愚痴でも最終的に言うことは『昔は良かった』だった。
そして、リンゴ酒を飲み終えると、さすがに休むことにし、部屋に戻ることにした。
屋敷の中を歩き、客室に戻ると、扉を開ける。
すると、部屋の中にはベッドに腰かけるキョウカがいた。
キョウカはパジャマというよりはネグリジェを着ており、足を交互に動かしている。
「キョウカ、いたんだ。マリエル様は?」
「少し話をしただけですよ。それにしてもすごいお部屋ですよね」
「ホントだよね。ホテルのスイートみたい。キョウカの部屋もこんな感じ?」
まあ、スイートを知らんが。
「私もこの部屋ですよ」
え?
「そうなの?」
「私とタツヤさんは夫婦ですよ?」
あ、そうか……同室なんだ。
いやまあ、考えないようにしてたけど、心のどこかではそうなんじゃないかとは思っていたんだけどね。
「付き合わせてごめんね。ずっとマリエル様の相手をしてたんでしょ?」
そう言いながらキョウカの隣に腰かける。
「全然、大丈夫ですよ。マリエル様、良い人ですしね。この服ももらったんですよー」
「そうなんだ……」
かわいいいと思うけど、胸元がざっくりだな。
キョウカの谷間が見えるし、目のやりどころに困る。
「ラヴェル侯爵も言ってたけど、本当に気に入られているみたいだね」
「ですかねー? マリエル様、クラリス様も可愛がられていましたし、本当に娘が欲しかったのかもしれません。やたらラヴェル侯爵や息子さんの愚痴を言ってました」
やっぱりそんな感じか。
「ラヴェル侯爵も口うるさいって愚痴ってたよ。さっきまで一緒に飲んでいたけど、後半はほぼそれ」
「お互いに思うことがあるんですかねー?」
「かもね」
長い付き合いだろうし。
「タツヤさんは私に対して何か思うことはあります?」
「ないよ」
即答がベター。
「嘘ばっかり」
キョウカは笑いながらそう言うと、立ち上がり、俺の手を取る。
「どうしたの?」
「こっちに来てください」
そう言われたので引っ張られるがまま部屋の端にあるソファーに行き、座らせられた。
すると、キョウカがワインセラーからワインを取り、グラスと一緒に持ってきて、隣に座る。
「どうぞ、どうぞ」
キョウカがワインを注いでくれたので口をつけた。
「ワインはあんまり飲まないんだけど、美味しいね」
でも、多分、良いやつなんだろうけど、違いはわからない。
「そうなんです? 私はワインを飲んだことがないのでわかりませんね」
そりゃね。
未成年じゃん。
「飲んじゃダメだよ」
「わかってますよ。昔、正月の時にちょっと飲んだことがあって、その時に二度と飲むなって言われました」
……何した?
「ちょっと気になるね」
「私はあまり覚えてないんですけどね。二度と刀を持ってくるなとも言われました」
何した!?
前に言ってた正月なのにお年玉をもらってすぐに帰るのってそれのせいじゃない!?
「キョウカはお酒を飲まない方がいいね」
「飲みませんよ。代わりに飲んでください」
キョウカがそう言って、ワインをついでくるので飲んでいく。
その後もどんどんとついでくるので酔ってきた。
よく考えたら夕食時とラヴェル侯爵と話した時も飲んでいるから結構飲んでいる。
「ちょっと飲みすぎたかも」
そう言って空になったグラスをテーブルに置く。
すると、キョウカも持っていたワインのボトルをテーブルに置いた。
その際にボトルがほぼ空なことに気付く。
「そうですかー」
「うん。今日はかなり飲んだ。キョウカがついでくれるのが嬉しかったかもしれない」
というか、断りづらい。
「えへへ」
キョウカが距離を詰め、しな垂れかかってきた。
なんかいつもとは違った良い匂いがする。
いや、いつも良い匂いなんだけど、なんか大人な感じの匂い。
「香水つけてるの?」
「マリエル様にもらいました。大人の嗜みだそうです」
へー……
「あの人、結構世話焼きだよね」
「良い人なんですよ。それより、タツヤさんは私に対して何か思うことはあります?」
んー?
「別にないかなー? キョウカはかわいいし、いまだにいいのかなって思うくらいだよ」
「いやー、不満の一つや二つあるでしょ」
不満ねー。
「まあ、刀が怖いところかな」
「これです?」
キョウカが空間魔法から刀袋に入った刀を取り出した。
「それそれ」
「人を斬れないって言ってるじゃないですか」
「だとしても怖いものは怖いよ。モデルガンでもつきつけられたら怖いでしょ?」
「確かにそうですね」
キョウカは頷き、立ち上がると、部屋の端に行き、刀を置く。
そして、刀を置いたまま戻ってきた。
「怖くないでしょー?」
キョウカは再び、しな垂れかかると見上げてくる。
「まあね。キョウカは俺に対して思うことはないの?」
「ありますよー」
あるのか。
いや、そりゃそうか。
「何?」
「もうちょっと自信を持ってください」
あー……
「マリエル様にも言われたし、さっきラヴェル侯爵にも言われたね」
「タツヤさんは大人だし、優しいんですけど、もうちょっと自分を出してもいいと思いますよ。タツヤさんはリンゴ村の村長で男爵なんです。人の上に立つ人なんです」
確かになー。
自信のない社長なんて不安でしかない。
「男爵夫人もそう思う?」
酔っているせいか普通なら言えない冗談を交えて聞く。
「そう思います。夫人としてはもっと私のことを見るべきと思いますね」
「何それ?」
結構見てるよ?
「お前は俺の女的なことを態度に出してください。優しいのはとても良いことですし、嬉しいですが、時には強引さも大事です」
自分のことだね。
基本、優しいけど、たまに強引。
「それは経験がないせいだね」
そう言いながらキョウカの肩に手を回した。
「これから経験を積んでいってください」
「そうだね。焦ることもない」
「さすがにお疲れのようですし、寝ます?」
寝るのかー。
大きいとはいえ、ベッドが一つしかないんだよなー……
まあいいか。
「明日の朝食もラヴェル侯爵達と一緒だろうし、寝ようか。キョウカ、お風呂は?」
「私は入りましたよ」
まあ、ネグリジェに着替えているわけだし、そうか。
「じゃあ、俺も入ってくるわ。先に寝てていいよ」
「起きてますよー」
「そう? まあ、キョウカも疲れているだろうし、無理はしないでね」
「はーい」
俺はキョウカから離れると、お風呂に行き、一日の疲れを取る。
そして、お風呂から上がり、キョウカが待つベッドに行き、就寝した。
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