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第013話 人生の目的


 色んな書類に名前を書くと、桐ヶ谷さんは帰っていった。


「山田ぁ……」

「タツヤさん……」


 桐ヶ谷さんが帰り、一息つくと、ミリアムとルリが近づいてくる。


「言いたいことはわかっている……でも、何故か口がしゃべりだしたんだ」


 何故だろう?


「山田、休め……」

「タツヤさん、ストゼロを……」


 ミリアムが俺の膝の上に乗り、ルリが背中をさすってくれた。

 でも、ストゼロはいいや。


「相談もせずに勝手に決めたけど、2人はどう思う?」

「私は良いと思います。単純にお給料が上がりますし、時間に余裕ができると思いますから」


 ルリは賛成か。


「私も賛成にゃ。話を聞いている途中から良いと思っていたから勧めるつもりだったにゃ」

「どの辺?」

「ルリも言ったけど、給料と時間に余裕ができるところにゃ。この2週間、お前と暮らし、そして、この前は仕事場にもついていったけど、お前は大変すぎるにゃ。ジジイの跡を継ぐっていう話もそもそもそんな時間がないにゃ」


 まあ、ないかも……

 ルリに魔法を教えてもらったり、寝る前に本を読むくらいだ。


「悪魔は何とかなりそうかな? 俺はその辺がわからない。ミリアムが探知できそうだったから最悪、勝てない相手は逃げればいいかなと思っていたんだけど」

「それでいいにゃ。私が賛成するもう一つの理由にお前の魔法のスキルを実戦で上げられると思ったからにゃ」


 確かに実戦の方が鍛えられるかもしれない。

 危険だが、上級の猫さんがいるし、どうにかなるだろう。


「魔法のスキルを上げつつ、お金が入るわけか……」

「そうにゃ」


 俺はコタツ机の上にある茶封筒を手に取る。

 中には確かに10万円が入っていた。


「俺はこれを稼ぐのに約10日かかる」

「この前は1分にゃ」


 すごい!


「ルリ、スーパーに行ってきて、一番高いお肉を買ってきてくれる?」


 ルリに茶封筒を渡す。


「良いのですか?」

「今まで豚小間ともやしばかりでごめんね……」


 そう言いながらルリの頭を撫でる。


「いや、普通に鳥肉も魚も野菜も買ってますけど……」

「成長期なのにごめんね……」


 食べ盛りなのに。


「は、はぁ?」

「これからはお菓子も買っていいからね」

「それは買ってますけど……」


 ルリ、チョコ菓子が好きだもんね。


「これからは好きに買っていいから」

「わ、わかりました。じゃあ、今日はすき焼きにします」

「豚小間?」

「ぎゅ、牛肉です」


 すごい!


「おーい、帰ってくるにゃ、庶民」

「実際、庶民だからね。よーし、月曜にでも退職届を出そう!」


 さようなら、係長。


「タツヤさん、転職されるのはわかりましたが、そうなると例の件はどうしましょうか?」


 ん?


「例の件って?」

「村長さんの跡を継ぐ話です」


 あー……それがあったか。


「確かに時間はできたね。どうしよっかー……」

「私は賛成にゃ。村長になって、いずれは貴族になるにゃ」


 めんどくさそう……


「惹かれないなー……もっと穏やかに生きてたいよ」


 貴族ってなんか政争とか騙し合いのイメージがある。


「でしたらご自分の理想の村を作るという発想はいかがですか?」


 ルリが提案してくる。


「理想?」

「はい。タツヤさんはスローライフな生活が良いんですよね? でしたらそういう村をお作りになればよろしいかと……それでゆっくりしつつ、魔法の研究をし、たまにお金を稼ぐためにこっちの世界の悪魔を倒す…………もちろん、私もミリアムもお手伝いします。どうでしょうか?」


 悪くない……全然、悪くないな。

 癒してくれる猫さんとルリがいるし、素晴らしいスローライフが想像できる。


「俺さ、こういう都会で生きていくより田舎でゆっくりと生活していきたいって思ってたんだよ」

「良いと思います」

「でも、爺さんから家をもらったし、その夢を潰えたと思っていた。もちろん、この家に不満があるわけじゃないよ?」

「わかります。でも、家は二つあっても良いと思います」


 そうだ。

 俺の夢というのは田舎でゆっくり暮らすこと。

 しかし、便利な都会生活を捨てたくないのもわがままな思いとしてある。

 本来は両立することはできない夢だが、扉をくぐれば自然豊かな異世界に繋がっている。


「例えばだけど、平日はこっちで暮らし、休日は向こうの村で作ったセカンドハウスで過ごすってどう思う?」

「良いと思います」


 だよね?


「やってみるか……」


 可愛いルリとミリアムと共に都会の便利さを維持しつつ、スローライフをしてみるか!


「お手伝いします!」

「ありがとう。でも、村長か……ノウハウを知らない俺にできるかな?」

「私はもちろん、村長さんもモニカさんも支えてくださいます。いきなり大きな町を統治しろというわけではなく、30人程度の小さな開拓村ですから大丈夫かと」


 確かにそうかもしれない。

 30人ならちょっとした親戚の集まりで集まる程度の数だ。


「自然に囲まれ、昼に釣りをし、夜に露天風呂に入る……いいかもしれない」


 空を見上げれば満天の星だ。


「お背中をお流しします!」

「私は風呂嫌いにゃ。魔法できれいになるにゃ」


 君は入りなさい。


「やってみるか……」


 ダメなら別の人に代わってもらえばいいし。


「良いと思います!」

「係長から村長にランクアップにゃ」


 これもハイクラス転職か!


「よーし、今日はお祝いだ! ルリ、買い物に行こうか」

「はい!」

「私も行くにゃ!」


 俺達はスーパーに買い物に行くと、高い牛肉を始めとするすき焼きの具材とちょっと奮発してプレミアムなビールを買う。

 家に戻ると、魔法の訓練をしつつ、会社を辞めるための準備を整えた。

 そして、夜になると、ルリが作ってくれたすき焼きを食べる。


「美味いにゃ」


 猫って、すき焼きを食べてもいいんだろうか?

 まあ、上級さんだから大丈夫か。


「美味しいですね」


 ルリは甘いものが好きだし、美味しいだろう。

 でも、生卵を食べられるのはちょっと意外だ。


「本当にね。これが本物か……」


 すごく美味しい。

 白滝ですら味が染みて美味しい。


「タツヤさん、どうぞ」


 ルリがそう言って、グラスにプレミアムなビールを注いでくれる。


「ありがとうね」


 グラスに口をつけると、一気に飲み干す。


「これが発泡酒ではない本物か……」


 うん……なんか違う……

 悲しいかな、俺の舌と喉は発泡酒をビールと思っているから本物のビールを飲むと、ビールとは思えなくなっている。

 まあ、美味いけどさ。


 俺達はその後もすき焼きを満喫していった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
発泡酒とビールの下りが、覚えがありすぎて悲しい……
第3のビールの方が、味に特徴あるもの多いし美味しいというか好みの場合あるよね。
トキ「辛いときはこれを飲むがいい」 つストゼロじゃんw
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