第129話 常識や価値観が壊れた1年だった
俺は桐ヶ谷さんからの衝撃の電話を受けた後、家に帰り、ルリ、ミリアム、モニカに協会の名古屋支部が壊滅したことを説明した。
「今日一日、テレビを見ていましたが、ニュースではやっていませんね……」
お留守番をしていたルリが教えてくれる。
「ネットにもそれらしきニュースはないですね」
パソコンで調べているモニカも教えてくれた。
「協会が情報統制をしているんだろうにゃ。いつまで隠せるかはわからないけど、大事件だからにゃ」
多分、そうだろう。
犯人は悪魔だし、難しい問題だ。
「もしかしたら過去の大きな犯罪も実は悪魔が関わっているのかもね」
「ありえるにゃ」
協会も大変だな。
「そういうわけだから夜はなるべく出歩かないようにね」
「元から仕事がない限り、出歩かないにゃ」
まあね。
「タツヤさん、やはり結界を張った方が良いと思います」
ルリが提案してきた。
「それ、大丈夫? 宅配便とか郵便局の人が困らない?」
見えなくなるのでは?
「そういう結界ではなく、魔力を抑えて敵に見つからない結界です」
「できる?」
「はい。タツヤさんも覚えた方が良いと思います。車にも使えますし」
それは覚えるべきだ。
もし、運転中に襲われたら俺の新車が…………あ、いや、単純に危ないわ。
「教えて」
「わかりました。今日の夕食はおそばなんですぐにできますし、早速、教えましょう」
俺はその後、ルリから結界の魔法を教えてもらう。
種類が違うといえ、前に教えてもらった村を囲む結界と似たような魔法だったのですぐに覚えることができた。
魔法の習得を終え、ルリがおそばを作り始めたのでテレビを見ながらゆっくりと待つ。
「山田、電話にゃ」
ミリアムが教えてくれたので机の上にあるスマホを手に取った。
「キョウカだ。そういえば、マナーモードにしてた」
通話ボタンを押し、電話に出る。
『あ、タツヤさん? 今いいですか?』
「大丈夫だよ。もしかして名古屋支部のこと?」
『はい……先程、父から聞きまして』
桐ヶ谷さんが言ってた通り、連絡が行ったか。
「俺も帰りに桐ヶ谷さんから電話で聞いた。壊滅だってね」
『みたいですね……夜中は出歩くなって話でした』
「仕方がないよ」
『ユウセイ君にも電話をしましたが、バイトできなくなったって言ってましたね』
あー、そうなっちゃうか……
ユウセイ君のバイトって放課後から夜の9時くらいまでだし、危ないわ。
「まあ、こればっかりはねー」
『そうですね。それでユウセイ君と話したんですけど、明日、集まって話をしませんか? 残念ですけど、初詣は中止にして……』
それどころではないか。
「わかった。キョウカは変わらずに午後からだよね? ユウセイ君は?」
『ユウセイ君もそのくらいで家に帰るそうです。本当は2日くらいまでは実家で過ごす予定だったみたいですけど、帰るそうですね』
あっちの家はあっちの家で対応の会議があるのかもな。
「わかった。じゃあ、連絡ちょうだい。迎えにいくから。それと悪いけど、お母さんいる? お父さんでもいいけど」
『いますよ?』
「ごめん。代わって」
『わかりました。お母さん、タツヤさんが代わってって』
最初から近くにいるな、これ……
『はいはい、代わりました。キョウカの母です』
この前も聞いた声だ。
「夜分遅くに申し訳ありません」
『いえいえ。かけたのは娘ですし、聞き耳……じゃない、近くにいましたので』
やだなー……
「あの、名古屋の件ですけど……」
『大変なことになりましたね。まだこちらも情報を整理しているところでして……』
だろうな。
「はい。それで私は協会で娘さん達のチームのリーダーをしております。それに加えて娘さんとは……えーっと……」
何て言えばいいんだ?
『はいはい。不出来な娘ですが、よろしくお願いします。すぐにでも嫁がせますので』
なんか厄介払いしたいみたいに聞こえるぞ。
「いや、それは気が早くてですね」
『そうですか? 私も今年、36歳になりましたし、早く孫の顔が見たいんですけど……』
ツッコミどころが多いな、おい。
お母さん、めちゃくちゃ若いし。
っていうか、1歳しか変わらん……
「まあまあ……その話はおいおいで。それよりも娘さんは協会に出向している形になっていますが、どうしますか? このようなことがあると娘さんの身にも危険があるかもしれませんよ?」
『こちらとしてはすべて山田さんにお任せしますので……』
えー……
「いいんですか? 大事な娘では?」
『すみません。ウチはこういう世界の人間ですのでねー……今回のこともしょっちゅうというわけではないですが、珍しいことではありませんから』
うん、わかった。
マジで生きてきた世界が違うわ。
「そうですか……そういうことなら娘さんの意志を尊重させていただきます。もちろん、何も害がないように私が責任を持ってお守りしますので……」
『ふつつかな娘ですが、何卒宜しくお願い致します』
この母親、何が何でも結婚させようとしていないか?
『姉ちゃん、結婚すんの?』
弟君か?
ねえ、そこに家族が集まってない?
『再来年くらいにはね』
おい……
『キョウカ、その間に刀を振り回す癖をどうにかしなさい』
お父さん、か?
いや、反対しないの!?
というか、やっぱり振り回してるし!
「あのー……」
『あ、娘に代わりますね……』
『――タツヤさん? そういうわけで明日の午後からお願いします』
すぐにキョウカに代わった。
「キョウカさ、そこにご家族が皆いるの?」
『兄は本家に行ってますけどね。今、夕食前なんですよ。紅白を見てます』
へー……
つまりリビングか?
自分の部屋で電話してほしかったわ。
「そっか。じゃあ、明日ね」
『はい』
キョウカの元気な返事を聞き、電話を切った。
「ねえ、ミリアム。俺が変なのかな? 最近、自分の常識が壊れていく気がするんだけど」
俺、大丈夫?
「山田……普通、猫はしゃべらないにゃ」
あ、もうすでにだいぶ壊れてたわ。
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