第127話 マジか……
その後も釣りを続けたが、この日は何も釣れなかったのでスーパーに寄って、魚を買って帰った。
夕方になり、暗くなってくると、モニカがやってきたのでキョウカも交えて夕食を食べる。
なお、昨日の夜に電話した際、ユウセイ君も呼ぼうと思ったのだが、実家の倉の掃除を手伝うから無理と言われたので今日は来ていない。
「タツヤ様、少しよろしいでしょうか?」
皆で魚料理を食べていると、モニカが聞いてくる。
「どうしたの?」
「実はマリエル様から話があるから来てほしいとの連絡がありました」
マリエル様から連絡?
「早馬でも来たの?」
遠くね?
「あ、実は先日、連絡が取れないのは困るからということで以前に言った電話みたいな魔道具を頂いたのです」
高そうなのにすごいな……
「そうなんだ。それで来てほしいって?」
「はい。早い方が良いそうです」
まあ、転移を使えばすぐだけども。
「マリエル様にそう言われたんだったらすぐの方が良いね、明日にでも行こう」
「はい。それがよろしいかと……それとですが、キョウカさんもお願いしたいです。マリエル様はキョウカさんを気に入っておられますし」
キョウカか。
「大丈夫?」
隣に座っているキョウカに確認する。
「いいですよー。どうせ暇ですし、明日もここに来る予定でしたから」
「じゃあ、お願い。モニカ、準備を頼むよ」
俺はスーツでいいが、キョウカは服を着替えないといけない。
「かしこまりました。では、午後からお屋敷に参りましょう」
午後からなら朝はゆっくりできるな。
「了解」
「了解です」
俺達は明日の予定を決めると、食事を再開し、この日もまったりと過ごし、就寝した。
そして、翌日、昼前までゆっくりし、ちょっと早めの昼食を食べ終えると、朝からいたキョウカとモニカがミリアムと共に王都の屋敷に着替えに行ったので待つことにする。
そのまま待っていると、ミリアムが戻ってきたので入れ替わるように転移の魔法を使い、王都の借家に飛んだ。
すると、そこにはモニカと共にこの前と同じ白と赤を基調にしたローブを纏ったキョウカが立っていた。
「こういう服も可愛くていいんですけど、動きにくいですよね」
キョウカが自分の服を見下ろしながらつぶやいた。
「そうなのですか?」
いつもローブのモニカがキョウカに聞く。
「刀は振れませんね」
振らないで。
「慣れですよ。まあ、私はどんな服を着てもトロいですけど」
まあ……
この前も足遅かったしな。
「モニカさんはその胸のせいでしょ」
はっきり言うな。
「違います。マリエル様が待っていますから行きますよ」
モニカに急かされたので借家を出ると、ラヴェル侯爵のお屋敷に向かう。
「モニカ、クラリス様は?」
今日はいないんだろうか?
「先にお屋敷で待っているそうです。マリエル様とお茶会らしいですね」
あの2人って本当に仲が良いんだろうな。
マリエル様には娘がいないって言ってたし、娘のように思っているのかもしれない。
俺達がそのまま人通りの多い道を歩いていくと、貴族街に入り、ラヴェル侯爵のお屋敷に到着した。
そして、門番に声をかけると、メイドがやってきてマリエル様の部屋まで案内される。
マリエル様の部屋に通されると、モニカが言っていた通り、すでにクラリス様が席について、優雅にお茶を飲んでいた。
「あら? いらっしゃい」
クラリス様が挨拶をすると、マリエル様が呆れたようにクラリス様を見る。
「なんであなたが挨拶をするんですか」
「すみません……」
マリエル様に注意されたクラリス様がへこんだ。
「クラリス様は自分の家のように感じているのでしょう。それほどまでにマリエル様を慕っておられるのです」
多分、そう。
「これは我が物顔と言うのです」
そうかもしれない……
「すみません……」
クラリス様はしおらしく謝るが、お茶請けのお菓子に手を伸ばす。
その光景は確かに我が物顔だ。
「ハァ……まあいいでしょう。3人共、お掛けなさい」
俺達はため息をついたマリエル様に勧められ、席につく。
「マリエル様、整髪料や保湿クリームはいかがでしょうか?」
マリエル様の髪は以前と比べて、輝いているように見える。
「問題ありません。王妃様も大変気に入り、褒めていました」
「それは良かった」
気に入ってくれて一安心。
「ええ。あなたはよくやっています。それと上級悪魔と盗賊を討伐したそうですね」
「はい。強敵でしたが、なんとかなりました」
「それについてもご苦労様です。さすがは大魔導士と呼ばれる魔法使いです」
全然、大魔導士じゃないんだけどね。
「ありがとうございます。過分な評価で恐縮です」
「あなたは自分を下げるところがありますね。それを美徳にしているのかもしれませんが、あなたについていく者達へ失礼になることを覚えておきなさい」
そうなんだ……
世界が違うから遠慮や謙遜も考えものだな。
「私の夫は素晴らしいです!」
キョウカが謎のフォローをしてくれる。
「当たり前です。妻が夫を信じなくて誰が信じるのですか」
「はい! 当然です!」
キョウカ、ちょっと恥ずかしいから黙ってくれないかな?
「時にキョウカさん、そのネックレスは何ですか?」
マリエル様がそう言ったのでキョウカを見ると、キョウカはクリスマスにあげたネックレスを着けていた。
ネックレスはローブの中に入っているのだが、首元に銀色のチェーンが見えているのだ。
「タツヤさんに贈って頂いた物ですね」
キョウカがローブの中からネックレスを取り出す。
「そうですか。それは素晴らしいことですね」
そんなに高い物じゃないけど、この世界では精巧すぎたかもしれない……
でも、俺の口からは外せとも言えない。
「マリエル様、タツヤ様はこういう彫金も得意としているのです」
モニカがフォローする。
「ほう? それは興味がありますね」
「ご要望があれば……まだ未熟ですので作れる物と作れない物がありますが」
訳:売ってない物は無理だよ
「そうですね……いや、これはまたの機会にしましょう。それよりも本題です」
あれ? 別の本題があるんだ。
「何でしょうか?」
「この度の悪魔及び盗賊の討伐は大変な功績です」
「そうなんですか?」
「悪魔も盗賊も敵です。ましてや、相手はネームドの上級悪魔。これは大きな功績です」
そ、そうなんだ……
向こうの世界でも大金をもらえるくらいだもんな。
「ありがとうございます」
「さらにリンゴの栽培、流通に成功したのも素晴らしいことです」
「皆のおかげです」
「このことについては私の夫、王妃様、そして、国王陛下も大変評価しています」
なんか大事になっていない?
「そ、そうですか」
「そこで私はあなたを貴族に推薦しました」
げっ、貴族!?
「貴族ですか? この私が?」
山田だよ?
「はい。といってもそこまで大事ではありません。あなたは魔法使いが本職であり、そちらを重視しているように見えます」
「実はその通りです。片手間というわけではありませんが、このモニカを中心とした村の者の助けでなんとか村長をやれている状況です」
「わかっています。ですが、国としてもこれほど功績がある者に何も報いないのは体裁が悪いのです」
それはわかる気がする。
俺だけではなく、他の者が不満を持つし、功績がある者を優遇しないとそれに続く者が出てこなくなる。
「それで貴族ですか?」
「はい。男爵程度ですが、これであなたは正式なウチの貴族です。この意味がわかりますね?」
他国に行くなってことか。
断ったらマズいな。
「わかります」
「よろしい。まあ、貴族といってもあなたは辺境の領地貴族です。特に王都に呼び出されることはないでしょう。あ、いや、私や王妃様が呼び出すかもしれませんね」
「もちろん呼ばれればすぐに参上致します」
今日だってそうだし。
「後日、国王陛下から呼び出しがあると思いますので登城しなさい。叙爵式をします」
「式ですか?」
「男爵ならたいしたことではありません。国王陛下より剣を授かるだけですぐに終わります」
それは良かった。
「私一人ですか?」
「私か夫が付き添いましょうか? 恥もいいところですけど」
そりゃそうだ。
「いえ、大丈夫です」
「では、近いうちに連絡します」
「よろしくお願いします」
ハァ……マジか。
俺、山田男爵になっちゃうのか。
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