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第126話 釣り


 クロード様に報告し、事情を聞いた俺達は家に戻ると、まったりと過ごした。

 そして、夜になると、キョウカから電話がかかってきたのでクロード様から聞いた話を説明する。

 もちろん、死刑云々は説明しない。


『へー。開拓村も大変なんですねー』

「ウチも最初は大変だったからね」


 というか、俺がいなかったら似たような感じになっていたかもしれない。

 だって、モニカやダリルさんというめちゃくちゃ優秀な人がいたのにどうしようもない感じだったし。


『苦労したんですね。でも、盗賊はダメですよ』

「それはそう。当然だね」

『でもまあ、無事に村を守れて良かったですね』

「だね。キョウカも手伝ってくれてありがとう」


 後でユウセイ君にも改めてお礼の電話をしておこう。


『いえいえ、当然ですよー。悪魔を祓うのが私達の仕事ですし、タツヤさんのためならいくらでも手伝います』


 本当にいい子だわ。


「いつもありがとうね。キョウカさ、明日暇?」

『明日ですか? 暇ですよ。というか、そちらに遊びに行こうかと思ってました』


 あ、そうなんだ……


「明日、お出かけしない?」

『お出かけ? 買い物でも行くんですか?』


 買い物かー……

 それでもいいけど。


「何をするとは決めてない。ただキョウカと出かけたいなって思ってさ」

『私と…………一応、聞きますけど、2人ですか?』

「そうだね。俺とキョウカだけ」

『いいですよー。でしたら釣りに行きましょうよー。海が見たいです』


 そういえば、前に連れていくって言ってたな。


「じゃあ、そうしようか。10時くらいに迎えに行くよ」

『わかりました。待ってまーす』

「うん。じゃあ、明日ね。おやすみー」

『おやすみなさーい』


 俺は電話を切ると、スマホを机に置く。


「ルリ、明日こそは魚を釣って帰るよ」

「わかりました。用意して待ってます」

「頑張るにゃ」


 俺はその後、ユウセイ君にも電話をし、昨日のお礼を言った。


 そして、翌日。

 約束通り、10時にキョウカを迎えに行くと、2人で海に向かった。


「おー、海です!」

「寒いねー」

「ですね。でも、風が来ません。風除けの魔法ってすごいですね」


 俺達は2人で防波堤を歩き、端まで来ると、折り畳みの椅子に座り、釣りをする。

 キョウカは釣りをする気ないようでぼーっと海を見ていた。


「寒くない?」

「ええ。あ、お茶飲みます?」


 キョウカが水筒を取り出しながら聞いてくる。


「ちょうだい」

「どうぞ」


 キョウカは水筒を開けると、コップに入れ、渡してくる。

 俺は湯気が出ているコップを受け取ると、口をつけた。


「濃いね」


 濃い番茶だ。


「ルリちゃんがタツヤさんは濃いのが好きって言ってました」


 まあね。

 いつからか濃い番茶が好きにならざるを得なくなったのだ。


「うん、美味しいよ」


 いつもルリが淹れてくれるが、外で飲む温かい番茶も美味しい。


「それは良かったです。タツヤさん、落ち着きました?」


 これはもちろん、バルトルトのことだろう。


「うん、落ち着いた。今までそんなに命の危険を感じなかったんだけど、初めて死ぬかもなって思ったんだよ」

「タツヤさん、お強いですもんね」


 ちょっと悪魔を舐めてたところはある。


「でも、もう大丈夫だよ。途中で怖がってたらダメだなって思ったら立ち直った。それでもちょっと引っ張っちゃったけど、寝たら直ったよ」


 ルリやミリアムがいてくれて良かったわ。

 あと、モニカもお酒に付き合ってくれた。

 しかし、あの子はまったく酔わんな。


「そういうことはよくありますからね。でも、忘れてはいけないのは仲間がちゃんといることです」

「それはすごく思ったよ。実際、キョウカを見て、立ち直った」

「そうなんです?」

「うん。キョウカはまったくビビってなかったし、むしろ、好戦的だったからね。自分の半分も生きてない子がそうならリーダーである自分もちゃんとしなきゃと思えた」


 何してんだと思った。


「タツヤさんはちゃんとリーダーをしてますよ」


 そうだといいわ。


「これからもそうなるように頑張るよ。それとさ、やっぱりキョウカを守らないとって思った」

「私ですか? 私、強いですよ?」


 知ってる。

 剣の腕もだが、何よりも心が強い。


「それとは違うよ。キョウカにはわからないかもしれないけど、男の心の奥にあるやつだね」

「女性を守る的なやつですか?」

「そんな感じ」

「ふーん……SNSで書いたら叩かれそうですね」


 だと思うよ。

 前時代的って批判されると思う。

 まあ、SNSなんてやってないんだけどさ。


「でも、こればっかりは俺の思いだから仕方がないよ。キョウカを守りたいと思うし、大事にしたいと思う」

「告白みたいですね」

「そうだね」


 しかし、釣れんな。


「寒いですね」


 キョウカはそう言いながら折り畳みの椅子ごと腰を上げ、身を寄せてくる。


「あのさ、俺、そんなに強くないよ?」

「強いですよ。強さっていうのは色々あるんですが、私が言っているのはバルトルトみたいな暴力的な強さじゃないんです」

「そっかー。よくわからないや」

「私の感性みたいなものですよ」


 自分の中にあるものさしか。


「バルトルトはロクでもない盗賊な悪魔だったけど、少しだけ感謝してる」

「なんでですか?」

「キョウカがよく言っている本能に従えっていうのがよくわかったからだよ」


 遠慮したり、慎重になることは良いことだと思う。

 日本人ならきっとそう思うはずだ。

 でも、死の恐怖を感じた時に後悔のないように生きた方が良いと思えた。


「あの盗賊達はダメですけどね」

「わかってるよ。相手に迷惑をかけたらダメ。でも、俺が言っていることはそういうことじゃない」

「ふふっ、そうですか……タツヤさん、私はあなたが好きですよ? 付き合いたいですし、結婚したいと思っています」


 空気を読んだキョウカが再び、告白してきた。


「俺もキョウカのことが好きだよ。でも、結婚はない。君、16歳でしょうが」


 いつの時代だよ。


「じゃあ、それは今後でいいです。どうせ早いか遅いかですからね。付き合う方はどうです? タツヤさんが気にしている女子高生ですけど」

「それは言わないでほしいなー」


 本能に従うと言っても気になるものは気になる。


「じゃあ、私個人を見てください。年齢なんてどうでもいいです。数年のことですから」

「キョウカ、ルリのことは好き?」

「好きですよ。私の娘ですから」


 設定かな?


「キョウカのことは好きだよ。でも、悪いんだけど、それについてはちょっと待ってほしい」

「何か気になることでもあります? ちなみにですが、ウチの親は気にしなくていいですからね。好きにしろって言ってますから」


 この前の電話でそんな感じがしたなー。


「それでいいの?」

「タツヤさん、評判が良いですからね。それに相手が優秀な魔法使いなら何も言いません。むしろ、『はよ、子供を産め』でしょうね」


 世界が違うなー……


「それは先の話だね」

「まあ、私も在学中に妊娠はごめんです。ドラマになっちゃいます」


 絶対に嫌だわ。

 ボロカスに言われる。


「そっか……でも、やっぱり待ってほしい。キョウカが悪いとかそういうことじゃなくて、俺の問題なんだよ。年齢とかでもない。単純にへたれているだけ。俺の人生にそういうイベントなんかなかったし、ずっと諦めていたことなんだよ。それでちょっと色々と混乱している」

「まあ、仕事や異世界のこともありますしね。いつまで待てばいいんです?」


 いつまでだろ。


「そんなに時間はかからないだろうね」

「じゃあ、いいです。同じことですから」


 キョウカが腕を組んできた。


「寒いね」

「そうですね」


 しかし、全然、釣れんな……

 お魚さん、どこに行った?


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[一言] いまかかったら斬られる
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