第124話 終わったー……
「タツヤさん、大丈夫ですか?」
俺が動かなくなったバルトルトを見下ろしていると、ルリが近づいてくる。
「うん、大丈夫。ちょっとドキドキするだけ……」
ルリにそう答えると、背中に何かの感触がした。
振り返ると、そこにはキョウカがおり、俺の背中に触れている。
「タツヤさん、落ち着いてください。戦いは終わりました」
キョウカにそう言われて、自分がまだ炎の剣を持っていることに気が付いた。
「正直、死ぬかと思った」
「誰でもあの威力を見ればそう思います」
「キョウカも?」
「私はなりません。どうせ当たらないし、覚悟はできてますから」
覚悟、か。
「どうしてそんな覚悟ができるの?」
「慣れでしょうかね? 私はタツヤさんの半分も生きていませんが、そういう風に育てられ、生きてきました。あと、私は暗示でどうとでもなります」
暗示良いな。
俺も欲しいわ。
「タツヤさん、お気になさらずに。こういう悪魔は特殊ですし、タツヤさんの敵ではありません」
ルリも慰めてくれる。
「うん、もう大丈夫。単純に俺の覚悟が決まってなかっただけだから」
俺は退魔師になったが、身の危険を本当の意味で理解していなかった。
お金に目がくらみ、見ないようにしていたのだろう。
だが、今回のことでよくわかった。
そして、自分の中で答えも出た。
「タツヤさん、こういう時はさっさと休むに限りますよ。帰りましょう」
「そうだね……他の盗賊は倒したの?」
「私の方は問題ないです」
となるとあとはユウセイ君か……
そう思っていると、森の中からユウセイ君が出てきた。
「あ、こっちも終わったんだな」
「森はどうだった?」
「悪魔に憑かれた男達がいたけど、皆痩せてて、弱かったな」
痩せている……
昼間にいた開拓民だろう。
「他のところの開拓民の人達が盗賊と協力したってところですかね?」
ルリが聞いてくる。
「多分、そうだろうね……ん?」
ルリと話をしていると、道の向こうに灯りが見えていた。
その灯りは複数あり、しかも、動いてこちらにやってきている。
「盗賊の生き残りかな? 暗くて見えないな……」
辺りはすでに真っ暗なのだ。
「全員、動くな! こちらは正規軍である!」
道の奥から大きな声が聞こえてくる。
「タツヤさん、ハリアーの町の兵士かと。多分、援軍でしょう」
ルリが教えてくれた。
「私はリンゴ村の村長です! 盗賊と悪魔を討伐しました! クロード様が出してくれた援軍でしょうか!?」
俺も大きな声を出し、答える。
「そうだ! 了解した! そちらに向かう!」
返答が来ると、一人の男が馬に乗って、こちらに駆けてくる。
そして、俺達の前にやってくると、馬から降りた。
男は全身鎧を着ており、強そうだ。
「あなたがリンゴ村の村長の山田殿でしょうか?」
兵士が聞いてくる。
「ええ。リンゴ村の村長を務めている山田です。クロード様の援軍ですかね?」
「はい。クロード様の命で来ました。遅れて申し訳ない」
そんなことはない。
距離を考えるとすぐに兵を出してくれたんだと思う。
「いえ。助かります。クロード様にも感謝します」
頭を下げる。
「いえ……それでこの者達ですか?」
兵士が倒れている男達を見渡した。
「はい。ここにいるのは盗賊です。ですが、悪魔に憑かれていたようです。それにそこにいるのはバルトルトという上級悪魔です。今回の首謀者はそいつです」
「じょ、上級悪魔……!? そんな者がこんなところに……それを倒されたんですか?」
兵士が驚いた様子でバルトルトを見る。
「死ぬかと思いましたが、なんとか……」
「さすがは大魔導士様ですな」
やっぱり大魔導士ということになってる……
「それとですが、森の中にも悪魔に憑かれた男達がいます。こちらは他所の開拓民ですね」
「わかりました。こちらで回収致しましょうか?」
俺達はあくまでも独立しているからの確認だろうな。
捕虜というのかわからないけど、こちらの裁量権があるんだ。
「我々では持て余しますし、お願いします」
「かしこまりました。おいっ!」
兵士が後ろに控えている兵士達に指示を出すと、数人が森の中に入り、その他の兵士も忙しなく動き、盗賊を回収していく。
「助かります」
「いえ……村長殿、後日で構わないのでクロード様に説明をお願いできませんか? こちらでも報告はしますが、盗賊や悪魔となると大事です。クロード様も国に報告しなければなりませんし、詳細を知りたいと思います」
モニカが王家や貴族は盗賊や悪魔に敏感って言ってたしな。
「わかりました。明日にでも伺うとお伝えください」
早い方が良いだろう。
「ありがとうございます。皆さんも今日はお疲れでしょう? 後のことは我々がやりますので村に戻ってお休みください」
「こちらこそ、ありがとうございました。お言葉に甘えて休ませてもらいます」
そう言うと、皆を連れて、村の中に入っていく。
すると、村の男達が門の近くに集まっていた。
「山田さん、どうだった?」
コーディーさんが代表して聞いてくる。
「もう大丈夫です。盗賊のようでしたが、撃退しましたし、クロード様が軍を出してくれたのでもう危険なことはないでしょう。皆さん、お疲れさまでした」
そう言うと、全員が安堵した表情を見せた。
「それなら安心だ」
「ええ。そういうわけですので今日は解散してゆっくり休んでください。俺達も休みます」
「わかった」
村の男達は解散し、各々の家に戻っていったので俺達も執務室に向かう。
すると、モニカが待っていた。
「あ、タツヤ様、終わりましたか?」
「うん、終わった。相手はネームドの上級悪魔だったよ」
「上級!? それにネームドですか!?」
「そう言ってたね」
実際、あれだけ強いんだから上級なんだろう。
「なるほど……」
「クロード様の援軍が到着して回収してもらうことになった。それで明日、クロード様に説明に行くからモニカもついてきてくれる?」
「わかりました。それとすみませんが、マリエル様にも終わったという一報を伝えた方が良いと思います」
確かに……
「ミリアム、モニカを王都に連れていってくれる?」
「わかったにゃ」
ミリアムはジャンプし、モニカの腕の中に納まる。
すると、すぐに転移で消えてしまった。
「帰ろう」
俺達は執務室の裏口から出ると、研究室に行き、自宅に戻ってくる。
時計を見ると、時刻はすでに7時だった。
「こんな時間か……2人共、今日はありがとうね。送っていくよ」
「いや、いい。電車で帰る」
「そうだね。タツヤさん、今日はお風呂に入って、お酒でも飲んでゆっくりしてください」
それがいいかもしれない……
「わかった。じゃあ、2人共、また今度ね」
「ん」
「じゃあ、私達はこれで。おやすみなさい」
2人はそのまま玄関の方に向かう。
「いや、キョウカ、着替えなよ……」
「あ、そうでした! すみませーん」
キョウカはようやく自分が袴姿なのに気付き、俺の部屋に入っていった。
「あれで電車に乗られたら他人の振りをするな……」
まあ、わからないでもない。
その後、キョウカが着替え終えて戻ってくると、2人はそのまま帰ってしまった。
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