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第123話 強欲のバルトルト


「て、てめー、何しやがる!?」

「殺せっ!」


 キョウカが一人の男を斬ると、他の盗賊達が殺気立つ。


「ルリ」

「止まれ」


 ルリが魔法を使うと、キョウカを囲んでいる男達の動きが止まった。


「なっ!」

「身体が!?」

「くっ! 魔法だ!」

「な!? や、やめっ! ぐはっ!」


 動きが止まった男達をキョウカが目に止まらない動きで斬っていく。


「ルリ、この場は任せるからお姉ちゃんを援護して」

「わかりました」


 俺はこの場をルリとキョウカに任せると、キョウカや盗賊達の脇を抜け、前に出た。

 そして、後ろに下がっていたさっきの男と対峙する。


「魔法使いはお前一人じゃなかったのか」


 男が目を細めた。


「全員、魔法使いだよ」


 種類は違うけど。


「そうか。まあ、多少のリスクは付きものだ」

「多少? 魔法使い相手に戦う気か? さっさと引き返したらどうだ?」

「魔法使いが怖くて盗賊なんかやれねーよ。それにな……人間ごときに背中は見せねーよ」


 人間ごとき……


「悪魔か……」

「そうだ。一応、名乗っておこう。上級悪魔、強欲のバルトルト様だ」


 上級悪魔……

 それにネームドか。


「そんなに魔力を感じないんだが?」


 他の低級悪魔に憑りつかれているであろう男達とそんなに変わらない。


「ははっ、そりゃそうだ。俺はそんなに魔法を得意としていないからな。得意なのは…………ぐっ!」


 バルトルトが力を込めると、ただでさえマッチョな身体がさらに大きくなった。


「武闘派なわけか」

「そういうことだ。悪魔にも色々な種がいるんだよ」


 それは知ってる。

 ウチにも変わった猫さんがいるし。


「他の盗賊に憑いている悪魔もお前か?」

「よくわかったな。その通りだ。盗賊といっても所詮は人間だ。人間はどんなに悪人だろうと、感情がその時その時で左右されるからダメだ」


 ずきっ!

 ダメージが俺にも……


「俺達は退魔師という悪魔祓いが本業だ。悪いが、祓わせてもらうぞ」


 これがあっちの世界ならお金になるんだがなー。

 まあ、村のためだ。


「なるほど。俺達の天敵だったか……どうりで悪魔の対処に慣れていると思ったぜ」

「そういうわけだから引き返せ」

「やなこった。悪魔祓いならより一層、殺しておかないといけない。それに強欲のバルトルト様はすべてを奪うんだよ」


 バルトルトはそう言うと、剣を構えた。


「仕方がない。祓わせてもらうぞ」

「やってみろ、よっ!」


 バルトルトはそう言いながら踏み込むと、まっすぐ突っ込んできた。

 そして、剣を振り被り、振り下ろしてくる。

 だが、そのスピードはアマドよりも遅く、普通に躱せた。


「チッ!」


 俺は剣を躱したことで反撃に出ようと思い、拳を握ったのだが、動きが止まってしまった。

 何故なら、バルトルトが振った剣は地面に当たり、大きな音と共に穴を開けたからだ。


「……せっかく整備した道に穴を開けないでよ」

「そりゃすまんな」


 こいつ、とんでもない力だ……

 いくら魔法で防護しているとはいえ、あんな威力の剣を受けて無事でいられるだろうか?

 そう思うと、前に出る勇気が湧いてこない。

 すると、またしてもバルトルトが剣を振り被り、突っ込んできた。


「ッ!」


 バルトルトの剣はそこまで速くないので、なんとか躱すと、距離を取る。


「どうしたー?」


 バルトルトが笑う。


 落ち着け。

 剣の振りは十分に見えているし、そこまで速くない。

 冷静に……冷静に。


「はっ! 無理するな。初めて実戦に出た新兵みたいだぜ?」

「初めてではないんだがな……」

「わかるぜ? お前は相当な魔法使いなんだろう? だから今まで苦労なんかしなかったし、命の危険を感じなかった。でも、言っておくけど、お前がどんな防御魔法を使おうと俺の力なら砕くぜ」


 わかっている。

 これは恐怖だ。

 俺は今、死の恐怖を感じている。

 これまでの悪魔は楽なものだったが、こいつは違う。

 こいつは……俺を殺せるのだ。


「行くぞ」


 俺は手を掲げると、炎の塊を出す。


「いいぜ。来いよ」

「炎よ!」


 俺は炎を放つとそれと同時にバルトルトに向かって駆ける。

 すると、バルトルトは剣を振り、炎を斬った。


 もちろんそれは織り込み済みである。

 俺は剣を振って、隙だらけになっているバルトルトを殴るために駆け続ける。

 しかし、どんなに駆けてもバルトルトに近づいていかない。

 まるで夢の中で走りたいけど上手く走れないように足が動いていないような気がした。


「くっ!」


 俺は無理だと思い、足を止めると下がった。


「おいおい……狙いどころだぜ? どうした、兄ちゃん?」


 バルトルトがにやにやと笑う。


「お前の剣が大振りすぎる。狙っているな?」

「当然、そうだが、お前はそれ以前だぜ? 何を恐怖する? 何をそんなにビビっている? 戦いなんだからどっちかが死ぬのはわかりきっていることだろう?」


 落ち着け……

 問題ないはずだ。


「タツヤさん、私がやろうか?」


 キョウカの声が聞こえたので見てみると、他の賊をすべて倒したキョウカがこちらを見ていた。


「いや、俺がやる」


 相手は上級悪魔だ。

 俺がやるべきだろう。


「いやいや、そっちの姉ちゃんに任せるべきだぜ。そしてお前はそこで指を咥えて姉ちゃんの胴体がわかれるところを見てな」


 バルトルトがキョウカを見る。


「どう考えても私に勝てるとは思えんがな……力は素晴らしいと思うが……」

「なんだ? ホレたか? こんな臆病な兄ちゃんより俺の方が良いだろう?」

「私は強い男は好きだが、清潔感のない男は死ぬほど嫌いだ……よし、死ね」


 キョウカが刀を構える。

 すると、バルトルトも軽く腰を下ろした。


「キョウカ、下がって。俺がやる」

「フィルマンに後れを取ったし、汚名挽回したいんだけど? たまには良いところを見せたい」


 返上してね……


「君の良いところは別のところだよ」


 けっして人斬りではない。


「そう? じゃあ、下がるけど……」


 キョウカは刀を鞘に納めると、下がった。


「兄ちゃんが相手か? 俺はどっちでもいいぜ?」

「俺を殺したら次はキョウカだからか?」

「そういうこった。順番なんてどうでもいい」


 俺は再び、バルトルトと対峙する。

 すると、何故かバルトルトに恐怖心を感じなかった。


「疾風よ!」


 俺は風魔法をバルトルトに放つ。

 すると、バルトルトが風の刃を剣で切った。


「どうしたー? 遠距離魔法では俺を倒せないぞ」


 わかっている。

 バルトルトは自分が遠距離魔法を使えない分、遠距離魔法への対処に長けているのだ。


「炎よ」


 俺は火魔法を放つと同時にバルトルトに向かって駆けた。

 すると、またしてもバルトルトが炎を剣で切る。

 しかし、それにより隙だらけだ。


「食らえ!」


 拳を握ると、バルトルトに殴りかかる。

 今度は足も軽く、スムーズにバルトルトに接近できた。


「女で恐慌から立ち直ったか? だが、甘いわ!」


 バルトルトの空いている左手から剣が現れると、振り被り、斬りかかってくる。

 空間魔法でもう一本の剣を出したのだろう。


「知ってるよ!」


 俺は右の拳に体内の全魔力を込めると、振り下ろしてくる剣に殴りかかった。

 直後、バルトルトの剣と俺の拳がぶつかり、バルトルトの剣の方が砕けた。


「うおっ! なんつー魔力をしているんだよ!?」

「食らえ!」


 俺は左手から炎の剣を出すと、振り被って斬りかかる。

 すると、バルトルトは右手の剣でそれを受けようとしたが、俺の炎の剣はバルトルトの剣をバターのように斬り、そのままバルトルトの胴体を斬った。


「チッ! まだだ! おらっ!」


 バルトルトは体をから血を流しながらもう一度、剣を振る。

 俺はそれを冷静に見て躱すと、バルトルトのガラ空きの体に炎の剣を突き刺し、魔力を込めた。

 すると、バルトルトの体が燃え出す。


「ここまでか……まあ、悪くはない人生だったな」


 バルトルトは口から血を出すと、そのまま膝をついた。


「随分とあっさりだな」

「戦って負けたならそれでいい。無念とも思わんし、後悔もない。しいて言うならもっと強そうな男にやられたかった。へっぴり腰の兄ちゃんは嫌だわー……ははっ、ははは! まあ、そういうもんか! おもれーわ!」


 バルトルトは笑うと、そのまま動かなくなった。


 なんで笑えるんだろう?

 フィルマン、アマド、バルトルト……

 これまで何人かの上級悪魔と相対してきたが、感情や思考回路がまったく理解できなかった。


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