第122話 1人だけ世界というか時代が違う
焚火に当たりながら待っていると、辺りもだんだんと暗くなってきた。
そうすると、門の向こうにも灯りが見えたため、外の連中も焚火をしているのがわかる。
「焚火をするのはいいけど、火の不始末で森を燃やすなよー。怖いわ」
「火事になっても魔法でどうにかするにゃ」
そういえば、かつて俺が火魔法をミスって、研究室や多目的ホールを燃やしたことがあったが、ミリアムが直してくれたわ。
その後も焚火に当たりながら待ち続けていると、買い物袋を持ったモニカが戻ってきて、皆におにぎりや菓子パンを配っていく。
「焚火に当たりながらだと風情があるな」
ユウセイ君がおにぎりを片手に焚火を見ながらつぶやいた。
「まあね。門の向こうに厄介なのがいなかったら楽しかっただろうね」
「悪魔だもんなー。山田さん、攻めてきたらどう動くんだ?」
「そうだねー……とりあえず、モニカは執務室の方に逃げて」
この子は戦闘はダメだ。
自分でも言っている通り、攻撃魔法も使えないし、動きも鈍い。
「わかってます」
モニカが頷く。
「戦闘が始まりそうになったら俺達は外に出るからミリアムは門を守ってくれる?」
「任せるにゃ」
一番強いであろうミリアムに大事な門を任せておけば安心だろう。
「あとは……どうしよう?」
俺とキョウカとユウセイ君、それにルリか。
「山田さん、俺は森の方に入るわ。多分、伏兵がいるだろうからそっちを始末する」
ユウセイ君が提案してきた。
「森? 危なくない?」
「誰かが入らないといけないだろ。ルリは知らないけど、山田さんは強力な魔法を使うし、キョウカは刀だ。だったら小回りの利く俺が森の方が良い」
なるほど。
ルリも俺と同じような魔法使いだし、近接戦闘ができるわけじゃない。
そうなると近接戦闘が得意なユウセイ君が良い。
キョウカもできるだろうけど、刀が木に引っかかったらヤバい。
自分で刀がなければ雑魚って言ってたし。
「じゃあ、そうしよう。残った俺とキョウカとルリで道にいる連中の対処ね。あ、そうだ。皆に防刃魔法をかけておこう」
俺は一人一人に切られても大丈夫な魔法と刺されても大丈夫な魔法をかけていく。
もちろん、念のためモニカにもかけた。
「防刃……刃を防ぐのか。便利な魔法だな。そういえば、教会でアマドと戦った時も使ってたな」
ユウセイ君が言うように俺はアマドに首を斬られかけたが、防刃魔法で防いだのだ。
「その時から気になってたんですけど、なんでこんな魔法を覚えているんです?」
キョウカが聞いてくる。
「え? 念のために覚えたんだよ」
「ふーん……いつ?」
ミリアムとキョウカのことを話した時。
「いつだったかな? 仕事やこっちの世界のことがあったからミリアムに教えてもらったんだと思う。ね?」
「そうにゃ。危ないと思ったにゃ」
うんうん。
「もう! 私がタツヤさんを斬るわけないじゃないですか。それにこの刀は人を斬れないって何度も言ってるじゃないですか」
でも、君、馬乗りになって刀を抜いたよね?
「念のためだって」
「こればっかりはキョウカが悪いと思うな」
だよねー。
「話はそこまでにするにゃ」
ミリアムが止めてくる。
「そのようだね……」
キョウカの雰囲気も変わった。
「どうしたの?」
「魔力を感じる……」
魔力……悪魔か。
「モニカ、執務室に」
「はい。皆さん、お気をつけて」
モニカはそう言うと、執務室の方に走っていく。
そんなモニカの後ろ姿を眺めているがやはり遅い。
まあ、そうだろうなとしか思えないが……
「タツヤさん、いかがしますか?」
ルリが聞いてくる。
「出よう。門を破壊されたら嫌だし」
弓矢は持っていなかったと思うが、火矢を射られたら困る。
「わかりました。行きましょう」
俺達は門のところに行くと、一度、顔を見合わせる。
そして、頷き合い、門を開けて外に出た。
門の外には大勢の男達がいる。
森の中ゆえに周囲は暗く、すぐにでも真っ暗になりそうだ。
「ん? 村長さん、どうした? 俺らを受け入れてくれる気になったのか?」
そう言ったのは昼に後ろの方に控えていたマッチョの男だった。
「そんなわけないでしょ」
男の後ろには同じような筋肉質の男達が20人近くいた。
逆に昼に話した代表の男はいない。
「じゃあ、降伏か?」
男が剣を向けてくる。
というか、後ろの男達は全員が剣を抜いていた。
「盗賊か?」
「そうだ。たんまり稼いでいるんだろう? 降伏したら命だけは助けてやる」
これほどまでに信用できない言葉があるだろうか?
それにこいつ……いや、こいつら、全員からわずかに魔力を感じる。
確実に悪魔に憑かれているな。
「ユウセイ君」
俺が名前を呼ぶと、ユウセイ君が森の中に駆けていく。
「あん? ははっ、一番強そうな兄ちゃんが逃げちまったぜ?」
盗賊の男が笑う。
すると、後の盗賊達もにやにやと笑った。
「タツヤさん、話をするだけ無駄だろう。私達とは生きる世界が違う者達だ」
キョウカが一歩前に出る。
「あん? 威勢が良いと思ったら昼間のムカつく姉ちゃんか。服装が変わりすぎて気付かなかったわ」
「黙れ。耳が腐る」
「ホント、ムカつくガキだ。おい、やれ」
賊の男はそう言うと後ろに下がっていく。
すると、後ろに控えていた他の男達が前に出てきて、キョウカを見ながらにやにやと笑った。
非常に不快だ。
「ミリアムちゃん、前にエンチャントがどうのこうの言ってなかった? 私の刀にもかけて、人を斬れるようにしてくれないかな?」
エンチャントは武器に魔力を込めることによって威力を上げたりする魔法だ。
以前、アマドが使っていた。
「普通に悪魔を倒すにゃ。山田がドン引くにゃ」
いや、すでにその発言で……
「そう……じゃあ、仕方がないね。タツヤさんが私を抱く時に怖がったらダメだもの」
「おーい、何を言っているんだ、君はー……あれ?」
キョウカの姿が消えた。
「失せろ、低級」
気付くとキョウカが一人の男に向かって刀を振り下ろした後だった。
男は膝をつき、そのまま前のめりで倒れる。
いやー……何度も見てるけど、マジで死んでないよね?
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