第116話 世界一
「タツヤさん、仕事はどうします?」
2人を家に送るために車を運転していると、助手席のキョウカが聞いてくる。
「どうしようかねー? いつもの低級悪魔しかいないんでしょ?」
「そうですね。あの教会での出来事以来、目に見えて仕事が減っています」
そうなんだよなー。
最近は張っていて空振りということもある。
「ユウセイ君、バイトは?」
「年始までないな」
完全に冬休み体制に入っているな。
「休みにしよっか。寒いし、年末だしね」
「まあ、仕事があれば頑張りますけど、ないですしね」
「いいんじゃね?」
2人もそれで良いようだ。
「じゃあ、そうしよう。一応、アプリはチェックして、何かあったら連絡を取る感じで」
「だなー。あ、山田さん、暇だから遊びに行ってもいいか?」
飯を食いに来る気だな。
味を占めている……
「いいよ。でも、明後日、俺はミリアムと釣りに行くからいないよ」
ミリアムが自分もクリスマスプレゼントが欲しいとにゃーにゃーとねだった結果、そうなった。
「ほうほう。じゃあ、明後日は夕方に行けばいいわけだな」
まあ、魚があるからね。
「いいよ。いっぱい釣れたら俺達だけだと食べきれないし」
釣れなかったら買おう。
「よし、そうする」
どうでもいいけど、この子、友達と遊ぶとかないのかな?
「あ、あの、タツヤさん、私も遊びに行ってもいいですか?」
キョウカが手をもじもじさせながら聞いてくる。
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
まあ、賑やかで良いだろう。
俺達は冬休みはまったりと過ごすことに決め、ユウセイ君、キョウカの順番で家に送り届ける。
そして、家に帰ると、すでに片付けは終えていたようで机の上がきれいになっていた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。私とモニカさんはもうお風呂に入りましたのでタツヤさんもお風呂に入ってください」
「わかった」
俺は自室に向かい、着替えを取り、リビングに戻る。
すると、コタツに入っていたモニカが立ち上がった。
「タツヤさん、今日はありがとうございました。私はこの辺でお暇します」
「早いね?」
まだ9時くらいだ。
「さすがに食べすぎましたし、今日はもう寝ようかと思います」
あまり食べているように見えなかったのはユウセイ君のせいだろうな。
「そっか。じゃあ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい。ルリさん、今日はありがとうございました。そして、何もお手伝いができずにすみませんでした」
モニカがそう言って頭を下げると、家に帰っていった。
「片付けもしなかったの?」
モニカがいなくなったのでルリに聞いてみる。
モニカの性格上、手伝うかと思っていたのだが……
「よく皿を落として割るそうです。ご遠慮願いました」
なるほど……
それでか。
「まあ、人には得意不得意があるよ」
「それはそう思います。あの人が活躍するのは別の場面です」
本当にそうだわ。
俺は納得しつつ、風呂に行き、湯に浸かる。
そして、風呂から上がると、体重計を見ないようにし、リビングに戻った。
「タツヤさん、何か飲まれますか? 本当は飲みたかったでしょう?」
実はそう。
でも、高校生2人の前だったし、送らないといけないから飲むのはやめていた。
「そうだね。じゃあ、ビールでも飲もうかな」
「持ってきます」
ルリが缶ビールを持ってきてくれたのでコタツに入り、飲み始める。
「ルリ、今日は楽しかった?」
「はい。すごく楽しかったです。お姉ちゃんとお料理するのも楽しかったですし、ケーキも美味しかったです」
「良かったね」
「はい。それにタツヤさんがマフラーをくれて嬉しかったです。すごく暖かいです」
そんなに喜んでくれると、頑張って選んだ甲斐があったわ。
「うん、寒いし、巻いて外に出ようね」
「はい」
俺はその後、ルリと2人でテレビを見ながらビールを飲んだ。
すると、11時を過ぎた辺りでコタツからミリアムが出てきて、あくびをしながら部屋の隅の段ボールに入っていく。
「コタツで寝ていたのにちゃんと寝床で寝るのか」
「お前ら、私が寝ているのにコタツの電源を切るにゃ。ひどいにゃ」
段ボールの中から文句が飛んできた。
以前、そういうことがあったのだ。
「まさかそのままコタツで寝ていたとは思わなかったんだよ。それにずっと付けっぱなしはマズいでしょ」
「わかってるにゃ。だからここで寝るにゃ。タオルが暖かいにゃー」
良かったねー。
「ルリ、俺達も寝ようか」
「はい……あ、あの、一緒に寝てもいいですか?」
「うん。ほら、おいで」
俺はルリの手を引っ張ると、リビングの電気を消し、自室に行く。
そして、ルリと一緒にベッドに入ると、電気を消した。
「おやすみ」
「あ、あの……」
ルリが遠慮がちに聞いてくる。
「んー? どうしたの?」
「タツヤさんはお姉ちゃんと一緒になるんですか?」
一緒になる……
「わかんない。悩み中」
「そ、そうですか……あ、あの、私はいつでも向こうの世界に行きますので遠慮しなくてもいいですよ」
そんなことを気にしていたのか……
「ほら、おいで」
俺はルリの身体を引き寄せると、抱きしめる。
「あ、あの……」
「キョウカとは言わず、もし、俺が誰かと一緒になるとしてもルリはずっと一緒だよ。それを嫌だという人とは一緒にならない。俺達は家族だから」
「家族……」
「うん。まあ、ルリが大きくなってお嫁に行くことがあったらまた考えるけど」
その時、俺は何歳だ?
「お嫁には行きません。ずっとタツヤさんのそばにいたいです……」
かわいいなー。
「そっか。じゃあ、そうしよう。いつまでもウチにいて良いからね」
「ありがとうございます……」
「というか、キョウカはルリやミリアムも欲しがっている気がするけどね」
「お姉ちゃん、強引だから……」
自称奥ゆかしい人。
「お姉ちゃんのこと好き?」
「好きです。今日、チョコをもらいました」
一緒に料理をして、さらにはプレゼントで見事に好感度が上がっている。
これがキョウカのコミュ力だろう。
「そっか」
「でも、タツヤさんの方が好きです」
なんてかわいい子なんだろう。
ウチの子に勝てる子がこの世にいるんだろうか?
いや、いない。
「よしよし。寝ようね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ……」
俺達は目を閉じると、長いようで短かったクリスマスを終えた。
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