第112話 勝利
ケーキバイキングをやっているお目当てのホテルに着いた俺達は駐車場に車を停め、ホテルに入る。
そして、ケーキバイキングをやっているレストランに行き、店員に案内された席についた。
レストランは女性客が多く、チラホラと男性もいるが、当然のように女性客との組み合わせだ。
男性だけという組み合わせはない。
「タツヤさん、私は今日と明日は体重計に乗らないと決めているんだよ」
人斬りキョウカちゃんになっている……
「そ、そう?」
「そうなんだよ。ここはもう戦場だ。いかに色んな種類のケーキを食べ、満足するか……うかうかすると戦死してしまうよ?」
戦死するのは月曜の君では?
「そ、そうなんだ……」
「ちなみに、タツヤさんはどの首を狙っているのかな?」
首って……
「俺、チーズケーキが好きなんだ」
昔から好き。
「また危ないものを……チーズケーキは満足度が高いからおすすめしないよ? まずはあっさり系にするべき」
あっさり系のケーキって何?
ケーキは基本、激重なんだけど……
「俺は年だし、そこまで食べないよ。キョウカの幸せそうな顔を見られれば満足」
俺ばっかりお金をもらって、いつもすまない。
今日は満足するまで食べてくれ。
「そ、そう? えへへ」
あ、かわいい方のキョウカに戻った。
「取りに行こうよ」
「そうだね。そうしよう……」
俺達は立ち上がると、ケーキが並んでいるコーナーに向かった。
皿を取り、色とりどりのケーキを眺めながらどれにしようか悩む。
「いっぱいあるねー」
しかし、どれも思ったより小さい。
色々な種類のケーキを食べられるように配慮されているのだろう。
「ちゃんと取捨選択するんだよ?」
キョウカはそう言いながらもどんどんとケーキを取り、皿に乗せていった。
「そ、そうだね」
俺はよくわからないので好きなチーズケーキを乗せると、なるべく小さくてカロリーの少なそうなケーキを選んで皿に乗せていく。
「むっ、山田さん、美味しそうなのを選んでいるね? 私もそれにしよう」
いや、キョウカ、君の皿、白い部分が見えないくらいにケーキが置かれているんだけど……
「……それくらいにしたら?」
「確かに。初戦はこれくらいにしよう」
え? 初戦?
まだ行くの?
俺は戦々恐々しながらキョウカと席に戻ると、取ってきたケーキを食べ始める。
「おいひー……このために勉強を頑張りましたー」
キョウカはケーキを頬張り、幸せそうな顔で幸せそうな声を出した。
「美味しいねー」
「はい! 連れてきてくれてありがとうございます! 幸せです!」
見ればわかるよ。
「喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
「人生で最高の一日です!」
キョウカはその後もケーキを食べていく。
そんな幸せそうなキョウカを見ていると、本当にこっちも嬉しくなった。
「うん、美味しいね」
美味しいし、一つ一つはそこまで大きくないのだが、3個くらいを食べると、もういいかなって思ってしまう。
正直、今食べたいのはポテトチップスだ。
「さて、第2戦に行ってきます」
キョウカは皿の上に乗っていたケーキを平らげると、敬礼をしてくる。
「いってらっしゃい」
キョウカは立ち上がると、ケーキコーナーに向かう。
一人になったので周りを見てみると、やはり女性客が多く、しかも、皿には多くのケーキが乗っていた。
すごいな……
35歳の男の俺には中々、理解できない量だ。
そう思っていると、キョウカが初戦と同じくらいの量のケーキを皿に乗せて戻ってくる。
「すべての女性を敵に回しますけど、私、太らない体質なんですよ」
「そうなの?」
でも、めちゃくちゃ気にしてるよね?
「はい。常に運動をしていますからね。でも、調子に乗るとマズいです。今日はタツヤさんのせいにします」
そう宣言すると、再び、ケーキを頬張っていく。
そして、その後もケーキを食べ続け、皿を綺麗にした。
「キョウカ、大丈夫?」
第2戦も勝利し、ぼーっと天井を見上げているキョウカに聞く。
「大丈夫です。まだ入ります」
すごいな……
「でも、明日もあるし、この辺にしたら? また連れてきてあげるからさ」
「いいんですか?」
「もちろんだよ」
車もあるし、お金もある。
「ありがとうございます。じゃあ、今日はこの辺にしときます」
戦争は終わった……
あ、いや、明日もあるけど。
「キョウカ、どこか行きたいところはある? せっかくの車だし、連れていけるよ?」
時刻はまだ3時前だ。
もう少し、付き合える。
「ドライブしたいです。今日はまだ一緒にいたいんで」
「わかった。そうしよっか」
俺達はレストランを出ると、駐車場に行き、車に乗り込む。
そして、ドライブをしながら色々なところを見て回った。
すると、徐々に空が茜色になりだす。
「タツヤさん、タツヤさんの家の近くの公園に行きませんか? ほら、私達が会ったところです」
キョウカが男子トイレで刀を向けてきたところか。
「いいよ」
そう答えると、車を走らせ、公園に向かう。
そして、公園に到着すると、以前、桐ヶ谷さんが路駐していた所に車を停め、2人で降りた。
「誰もいませんねー。悪魔もいません」
車を降りて、2人で公園内を歩くと、キョウカが笑いながら言う。
時刻は5時を回っており、あの時と同じようにすでに暗くなっており、誰もいない。
「悪魔はともかく、こう寒いとさすがにね」
「ですよねー」
俺達は公園内のベンチに並んで腰かけた。
「寒くない?」
「全然、寒くないです」
そんなに足を出しているのに?
「車に戻ってもいいよ?」
「いえいえ、本当に大丈夫ですよ。それよりもあの時は本当にすみませんでした」
あの時というのは刀を向けた時のことだろう。
「いや、いいよ。初任務だったんでしょ?」
「そうですね。でも、すみませんでした。本当のことを言うと、怖かったんです。タツヤさん、どう見ても私より強いんですもん」
魔力探知云々を置いておくとしてもキョウカは野生の勘が働くからな。
「本当に気にしてないよ。それに良い所に就職できたし」
「気にしてないなら良かったです」
キョウカがホッと胸を撫で下ろす。
「キョウカ、今日はありがとうね」
「いえ! 私こそありがとうございます。美味しかったし、楽しかったです」
キョウカがそう言うと、2人の間に沈黙が流れた。
「キョウカ、これあげる」
俺は空間魔法から赤い包装紙に包まれた小箱を取り出すと、キョウカに差し出す。
「これ、何ですか?」
「クリスマスプレゼント。いつもありがとう。キョウカがいてくれると、明るくて楽しいし、嬉しいよ」
そう言いながら渡すと、キョウカが受け取った。
「ありがとうございます。何ですかね?」
「開けてもいいよ」
そう言うと、キョウカが慎重に包装紙を剥がしていく。
そして、包装紙を剥がし、小箱を開けると、中に入っていたネックレスを取り出した。
「かわいいですね……それに綺麗」
「キョウカに似合うと思ったんだよ」
ユウセイ君いわく、身に着けるものが良いらしい。
「あ、ありがとうございます……」
「あまり自分のセンスに自信はないけど、良かったら使ってよ」
「もちろん使います…………タツヤさん、これはどうやって身に着けるものなんですかね?」
絶対に俺より詳しいキョウカが聞いてくる。
「貸して」
キョウカが求めていることがわかったので手を差し出した。
すると、キョウカがネックレスを渡してきたので受け取ると、キョウカの首に手を回す。
近い……
それにキョウカは俺から目を逸らさない……
俺は緊張しながらもキョウカの首後ろに手を回しているが、今日のキョウカは髪を上げているので長い髪に引っかかることもなく、スムーズに着けることができた。
「どうですか?」
ネックレスを着け、離れると、キョウカが聞いてくる。
「似合ってるよ」
「ありがとうございます。タツヤさんにそう言われると本当に嬉しいです」
キョウカがそう言って微笑んだ。
「良かったよ。自信がなかったから」
「いえいえ。女性は男性が一生懸命悩んで決めた贈り物を喜ぶものですよ…………タツヤさん、どうぞ」
キョウカはそう言うと、どこからともなく赤い包装紙に包まれた四角い物を差し出してくる。
「キョウカもくれるの?」
「当然ですよ。高いものは買えませんけどね」
そりゃそうだし、高いものをもらっても困る。
「開けてもいい?」
「どうぞ。本当にたいしたものじゃないですよ」
俺は慎重に包装紙を剝いでいくと、中から青色のネクタイが出てきた。
「ネクタイかー」
「タツヤさん、いつもスーツを着てますし、たまに使ってください」
ネクタイはいくらあっても困らないし、俺が好きな色だ。
「うん。ありがとう。ネクタイは嬉しいよ」
「良かったです」
俺達は笑い合うと、正面を見る。
少しの静寂が2人の間に流れると、キョウカが少し震えた。
「やっぱり寒いでしょ。車に戻ろう」
「大丈夫ですよー」
キョウカはそう言うと、少しだけ腰を浮かし、そばに寄ってきた。
そして、頭を俺の肩に預けてくる。
「暖かいの?」
「暖かいですよ」
キョウカはさらに自分の手を俺の手の甲に上から被せるように重ねた。
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