第104話 友達
「モニカ、ここが借りている部屋?」
「はい。友人に紹介してもらった部屋です。月に金貨3枚になります」
安そうだな。
まあ、転移するのを隠すためだけの家だから安い方が良い。
「その友人と合流して、ラヴェル侯爵のお屋敷に行くんだよね?」
「はい。まずは友人の家に参ります。案内しましょう」
モニカがそう言って、部屋を出ていったので俺とキョウカも続く。
部屋を出ると、外であり、たくさんの人で賑わっていた。
「すごいな。ハリアーの町も大きくて人が多かったが、さらに段違いだ。さすがは王都」
「お祭りでもあるみたいですね」
俺とキョウカは町並みや歩いている人々の活気を見て、驚く。
「ふふっ、ここよりもさらに発展して人も多いところから来た御二人が言うと、何か変ですね」
モニカが笑った。
「いやー、それはそうなんだけど、東京ってうるさいけど、静かなんだよね」
「わかる気がします。こことは活気の種類が違うんですよね」
それが何なのかはわからないが、すごくわかる。
「はぐれないようにしてくださいね。特にキョウカさんは気を付けてください。私は地元ですし、タツヤ様は転移がありますが、キョウカさんは迷われたら困ります」
異世界だもんな。
「大丈夫ですよ」
キョウカはそう言うと、俺の腕を取った。
「それがよろしいかと。では、タツヤ様、奥様。こちらになります」
モニカが歩き出したので腕を組んでいる俺とキョウカもついていく。
町中を歩いていると、多くの人を見るが、皆、笑顔であり、平和な感じがする。
「この国って戦争とかないの?」
「ここ数十年は起きていませんね。それに王都が戦地になることはありません。王都の外に出て、森とかに行けば、魔物なんかもいますが、それでも兵士やハンターがいるので問題ないのです」
へー……
「魔物って何ですか?」
キョウカが聞いてくる。
「なんかそんなのがいるらしいよ。ほら、この前のウェアウルフっていう狼男みたいなやつ」
「ああ……あの歯ごたえのない雑魚か……強そうなのは見た目だけで相手にならなかったね」
人斬りキョウカちゃんだし……
「奥様は大変お強いんでしょうね。多分、ハンターとしても大成しますよ」
その気になったら困るからやめてー。
「良いかもね。最近、雑魚か強敵の二極端だし」
「キョウカ、戻っておいで。君は今、山田キョウカ、25歳。趣味は花を愛でることでしょ」
「そうでしたわ。好きな花はチューリップです。おほほ」
この子、本当に心配だなー……
というか、25歳はやっぱり無理な気がするな。
とてもではないが、モニカより年上には見えない。
心配になりながらも歩いていくと、少しずつ人通りの数が減ってくる。
そして、建物も柵付きの屋敷が増えてきた。
「ここからは貴族街になります。間違っても騒いだり、刃物を出したりしないでください」
モニカがキョウカを見る。
「わかってますよ」
なんか今思うと、俺の偽装妻役はモニカで良かったんじゃないかと思うな。
年齢的にはまだキョウカよりましだし、下手に繕う必要もない。
キョウカの前では絶対に言わないけど……
「あそこが私の友人の家ですね」
モニカはそう言いながら前方にある赤い屋根の屋敷を指差す。
「貴族だよね?」
「はい。コラール伯爵令嬢です」
伯爵……偉そうだ。
いや、偉いんだろうけど。
「もし、俺が貴族になったら山田伯爵か……苗字を変えたいな」
「橘にしますー? でも、私は山田の方が良いと思いますよ」
山田キョウカは微妙って言ってたくせに。
俺もそう思うけど。
「橘タツヤは語呂が悪いね」
「まあ、確かに……ユウセイ君の一ノ瀬の方が良いですね」
一ノ瀬タツヤか……
かっこいい。
主人公になれそうだ。
俺とキョウカがしょうもないことを話していると、赤い屋根の屋敷の前にやってきた。
屋敷の門の前には槍を持った兵士が立っているが、特に敵意を示していないし、モニカを見て、ニコニコしている。
「どうも、モニカ様。お嬢様ですかね?」
「はい。クラリスと約束をしています」
「わかりました。少々、お待ちを」
門番の兵士は笑みを絶やさずに屋敷の方に走っていった。
「門番とも知り合いなの?」
「私やクラリスが学生時代から門番をしている方ですよ」
なるほど。
そりゃほぼ顔パスだわ。
俺達がその場で待っていると、兵士がドレスを着た女性を連れて戻ってくる。
その女性はモニカと同様に金髪だが、ウェーブがかかっており、なんか貴族令嬢っぽい。
「モニカ、あんた早くない? まだ朝じゃないの」
貴族のお嬢様は開口一番でモニカに文句を言う。
「マリエル様にお会いするのに万が一遅れたらいけませんから」
「まあ、そうでしょうけど…………ラヴェル侯爵様のお屋敷は隣よ? どう遅刻するのよ」
お嬢様が隣の青い屋根のお屋敷を指差す。
お隣かい……
「万が一と言ってるじゃないですか。それよりも紹介させてください」
「ハァ……クソ真面目……どうぞ」
「クラリス、こちらは我が主でリンゴ村の村長を務めているタツヤ様です。そして、その奥様であるキョウカ様です」
モニカがお嬢様に俺達を紹介した。
「はじめまして、山田タツヤと言います。この度はこのような機会をいただきありがとうございます」
「妻のキョウカです」
俺とキョウカが頭を下げる。
「はいはい。続けて」
お嬢様はぞんざいに手を振った。
「タツヤ様、奥様。こちらが私の友人でコラール伯爵令嬢のクラリス様です」
「クラリスでーす……よろしくでーす」
棒読み……
適当だな……
「クラリス……」
モニカがクラリス様を睨む。
「いや、全部、あなたから聞いているし、どうでもいいでしょ。大体、いちいち庶民に貴族の礼を押しつけないわよ」
「タツヤ様、すみません。このようなおてんば娘なんです」
まあ、そんな感じはする。
「あんたが真面目すぎるのよ。おかげでお父様もお母様も文句ばっかりよ」
それ、モニカのせいか?
「どう思います?」
モニカが門番の兵士を見る。
すると、門番の兵士はあからさまに聞こえないふりをして、門の前に戻っていった。
「ハァ……どいつもこいつも……まあいいわ。とにかく、入りなさい。寒いでしょう」
クラリス様はため息をつくと、俺達をお屋敷に案内してくれた。
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