第102話 積極的に動いたものが勝つんだよ ★
キョウカは翌日の日曜日もウチに来て、テスト勉強に勤しんでいた。
そして、夜になって、キョウカを送り届け、家に戻ると、ミリアムがべたーっと突っ伏していた。
「お疲れ」
ミリアムを抱えると、コタツに入る。
「大変だったにゃー……」
「そんなに?」
「理解力も記憶力も微妙にゃ。親御さんはキョウカが大学に行きたいとか言わなくて助かっていると思うにゃ」
「まあ、人には向き不向きがあるからね」
それも個性だ。
ちょっと個性が強い子だけど。
「そうにゃ。あれは刀を振り回させておけばいいにゃ。もしくは、外見は良いんだからさっさと嫁入りさせるべきにゃ」
この子、親かな?
「そういう時代でもないよ」
「時代が変わってもそこは変わらないにゃ。結婚は早い方が良いにゃ」
「どこでそういうのを知るわけ?」
「ネット」
俗っぽい猫だなー。
ホムンクルスちゃんもだけど。
「まあ、今週は仕事もないし、ゆっくりしなよ。週末には王都に行くけど」
「王都にゃー……人が多かったにゃ」
だろうねー。
「ミリアムもついてくる?」
「上の方の貴族の家だろ? 私の隠蔽魔法が通じるかわからないから留守番してるにゃ。まあ、危なくなったら転移で逃げるにゃ」
今回はキョウカもついてくるし、危なくないようにしたいけどね。
「そうする。それにしても何もしてないこっちも緊張感が伝わってきて疲れたよ。今週はゆっくりする」
「そうするにゃ」
この日はさっさと風呂に入り、休むことにした。
そして、月曜になり、テストが始まると、朝晩の挨拶とテストの手ごたえが報告される程度でキョウカからの連絡がほぼなくなった。
一方でユウセイ君からは増えた。
ユウセイ:キョウカの目が怖いんだけど……
ユウセイ:たまにキモい笑い方をしているんだけど……
えー……キョウカ、大丈夫かな?
山 田 :勉強を頑張ってたから……
ユウセイ:そ、そうか……
山 田 :ユウセイ君はテストどんな感じ?
ユウセイ:普通。もうやることもないし、確認するだけ
この子、すごいな。
キョウカが嫉妬する気もわかる。
山 田 :ちょっと相談に乗ってくれない?
ユウセイ:相談? 別にいいけど、電話に変えようか?
そっちがいいかもしれない。
山 田 :テスト期間中に悪いけど、お願い。時間はかからないから
そうメッセージを送ると、すぐに電話がかかってきたので出る。
「あ、もしもしー? ごめんねー」
『いや、いいよ。今日のテストも終わって暇だし、残っている明日、明後日のテストは得意な数学とかだから』
キョウカが苦手なやつだ。
「ユウセイ君は賢いねー」
『別にそんなことない。それよりも相談って? 珍しいな』
「いやさー、今度、クリスマスがあるじゃん」
『あるな。ご馳走してくれるんだろ? 楽しみにしてる。ローストビーフが良いってルリに伝えておいて』
この子は本当に食うことばっかりだな。
「わかった。それでさ、プレゼント的なものをあげなきゃいけないじゃない?」
『プレゼント? ガキじゃないんだからいらねー。それよりも食べ物を……あ、いや、キョウカか』
男はこんなものだよな。
現金か食べ物。
俺もそうだった。
「そうそう。キョウカに何か渡した方が良いような気がものすごくする」
『するなー……というか、あいつも渡すんじゃない? イブに出かけるんだろ? それ、もう付き合ってんじゃん』
そういうことを言うな。
キョウカの前だと関わりたくないから黙るくせに。
「はっきり口に出さないでくれる? 罪の意識が……」
イブに女子高生と出かけるなんてギルティすぎる。
俺がそれをネットでつぶやいたら大炎上すると思う。
『相変わらず、気にするなー。付き合うどころか嫁さんじゃん』
設定ね。
「まあ、そこは触れないでよ。それでさ、何を贈るべきだと思う?」
『それ、俺に聞く?』
「幼馴染でしょ?」
『いや、そこまで深い関係ではないんだが……たまたま同じ学年だったから交流がある程度。あいつの趣味も知らない……あ、いや、漫画と人斬りか』
それは俺も知ってる。
「こ〇亀全巻でいいかな?」
『いらねー。ウケ狙いじゃん。キョウカが口元を引きつらせながらありがとうございますって言う光景が目に浮かぶ』
俺も浮かぶ。
「なんかいい感じのない? 学生さんだし、高いものもどうかと思うわけ。君、従姉さんと妹さんがいるんでしょ?」
前に焼肉屋で聞いた。
『じゃあ、まあ、聞いてみるけど、従姉は役に立たないぞ。金の亡者だし』
金の亡者って……
「妹さんに聞いてみて」
確か中学生じゃなかったかな?
『わかった』
「ちなみに、ユウセイ君は何が良いと思う?」
『刀』
こえーよ。
「ないない」
『まあなー。じゃあ、妹とかクラスメイトにも聞いてみるわ』
クラスメイト?
女子か?
リア充……
「お願い。ちなみに、ユウセイ君は何が欲しい?」
『肉』
男は楽だなー……
「今度、また焼肉にでも行こうか」
『頼むわ。あそこ、美味いし』
そりゃ高いもん。
「じゃあ、そうしよう。あ、土日のことは聞いてる?」
『なんか王都に行くんだろ? 今日から奥様と呼びなさい、弟子って言われた』
キョウカ……
「まあ、そういうわけだから仕事の再開は月曜かなー? 連絡するから」
『了解。新車届いたんだろ? 楽しみにしとくわー』
「うん。じゃあ、そういうことだからよろしく」
『はいはい』
俺は電話を切ると、去年はまったく考えなかった悩みだなーっと思いながらふうっと息を吐いた。
◆◇◆
「山田さんは本当に心配性だなー……」
俺は電話を切ると、思わずつぶやいてしまった。
そして、靴を履き替え、校舎を出るために顔を上げる。
「――ッ」
顔を上げた瞬間、ビクッとしてしまった。
何故なら、そこにはにやーと不気味に笑うキョウカが立っていたからだ。
「お前、気配を消すなよ」
「それはごめんよ。電話の邪魔をしてはいけないと思ったんだ」
山田さんが言っていた人斬りキョウカちゃんだ。
「そうか。お前、テストどうだ? 山田さんが心配していたぞ」
誤魔化そう。
キョウカが聞いてはいけないことな気がするし。
「大丈夫だよ。赤点はまずない。そんなことより、何の電話だったのかな?」
こいつ、マジで怖いな……
「山田さんと今後の予定を話していた。土日は王都とやらに行くんだろ? だから仕事の再開は月曜ってところらしい」
ちゃんとその話もしたし、嘘は言っていない。
「そうかい? ユウセイ君、妹ちゃんにも従姉のお姉さんにもクラスメイトにも意見は聞かなくてもいいよ」
ばっちし聞いてるし……
「お前なー……」
「君は私の手助けをしてくれるんだろう? 私が欲しいものは決まっている。そんなに高くないから問題ないよ。君はさりげなく、それをタツヤさんに伝える。簡単だろう?」
……もうそれでいいや。
キョウカに関わるとロクなことがなさそう。
俺は焼肉を奢ってもらえばそれでいい。
「キョウカー、ばいばーい」
「ばいばーい!」
クラスメイトの女子が横を通っていくと、キョウカが笑みを貼りつかせて挨拶を返した。
「あと少しなんだよ。一番の障害となりそうな人間が引いてくれたしね」
キョウカは再び、人斬りキョウカちゃんになって、うすら笑みを浮かべる。
「モニカさん?」
「そう。あの人が一番怖かった。理由がわかるかい?」
胸かな?
でも、言ったら斬られそう…
「わからん」
「人はね、秘密を共有すると仲が良くなるんだよ」
言わなくて良かった……
「そうか?」
「そうなんだよ。でも、タツヤさんは私やユウセイ君にも秘密を教えてくれただろう? 信頼の証だよ」
いや、ほぼお前が強引に……
「お前、強引すぎると嫌われるぞ?」
「君はそう思うだろうね。でも、タツヤさんは大人だから大丈夫。それに手応えもある。邪魔なのは年齢とかいうふざけた倫理観だけだよ」
大事なような……
「手応えあるの?」
「あるよ。それにね、あの人は強引すぎるくらいがちょうどいい」
それはわからないでもない。
山田さん、慎重というか、心配性すぎるし。
「そ、そうか。頑張れとしか言えん」
「ありがとう。そんな応援してくれるユウセイ君にもう一つ仕事だ」
えー……
「俺が?」
嫌なんですけど?
関わりたくないんですけど?
「そう、君。なーに、簡単だよ。タツヤさんに頼まれたことを逆に私も頼もう。リサーチして」
あ、山田さんが欲しいものをリサーチして来いってことか。
なんか二重スパイみたいだ……
「マジ?」
「マジだよ。今週の土日、私はタツヤさんとモニカさんと王都に行く。そして、ルリちゃんとミリアムちゃんは留守番。わかるよね?」
聞いてこいってことね……
「プレゼントは私でいいんじゃね?」
「それも考えたけど、タツヤさんは順序を踏むタイプなんだよ。しかも、あの人、お酒に強いし」
こいつ、マジで肉食系だな……
さすがは本能に従う女だわ。
「普通にやれば?」
「普通にやって、あの金髪巨乳女に勝てるかい? 戦力差は歴然。さらに言えば、こっちは年齢という倫理の壁とあたおかな性格という大きなハンデがあるんだよ?」
やっぱ気にしてんじゃん……
めんどくせー……
というか、キョウカ、あたおかの自覚あったのか。
いや、まずそこを直せよ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!