第100話 年末が近づく師走
車の購入を決め、変な退魔師さんと会ってから3週間が経った。
この日は金曜日の昼間だが、ミリアムがいる。
何故なら、昨日、モニカとミリアムは長い旅を終え、王都に到着したのだ。
現在、モニカは王都で昔の友人と一緒に後ろ盾となってくれる貴族探しをしている。
俺はというと、ミリアムとルリを連れて、出かけていた。
というより、出かけた帰りだ。
「いやー、本当に買っちゃったねー」
俺は今、車を運転している。
今日は納車の日だったのでルリとミリアムと共に新車を受け取りに行ったのだ。
「暖かいです」
助手席にはミリアムを抱えたルリがちょこんと座っている。
何気にルリが車に乗るのは初めてなので嬉しそうに窓から外の風景を見ていた。
「買い物に行く時は言ってね。乗せていくから。それに行きたいところがあれば遠慮せずに言うんだよ」
「わかりました」
ルリは返事をしながらイルミネーションを見ている。
まだ昼だからライトアップされていないが、暗くなればきれいだろう。
もうクリスマスも近い。
「キョウカがクリスマスの夜にパーティーをしたいって言ってたよ」
「ええ。何度もそういうメッセージが届いていますね。どうしましょう? それっぽいものを作ってもいいですか?」
「大変じゃない?」
さすがに七面鳥は無理だろうけど、それっぽいものって大変そうだ。
「お姉ちゃんも作りたいって言ってますね」
「そうなの?」
「一緒に作ろーって言ってます」
あの子、料理できるのかな?
なお、俺はチャーハンと野菜炒めしかできない。
「ルリがいいならいいよ。多分、ユウセイ君も来ると思うし、多めに作っても大丈夫」
あの子、めっちゃ食うし。
この前の焼肉は本当にすごかった。
肉も白米もめっちゃ食ってた。
「じゃあ、頑張ります」
ルリは嬉しそうだ。
「モニカはどうしよう?」
「お姉ちゃんが呼んだ方が良いって言ってましたよ」
そうなんだ……
仲が良いのか悪いのかまったくわからんな。
「ん? クリスマスってケーキバイキングに行くんじゃないのか? そんなことを言ってなかったにゃ?」
ミリアムが首を傾げる。
「クリスマスは2日あるんだよ。タツヤさんとお姉ちゃんがデートするのは24日。私達がパーティーをするのは25日」
「へー」
へー……そうなんだ。
その予定を初めて聞いたよ。
「24日……か」
あれ?
俺の記憶ではクリスマスイヴだぞ?
外に出ては行けない日だったような……
「山田、その話をしているか?」
「全然」
というか、最近は連絡も控えめだし、仕事もしていない。
理由は簡単。
期末テスト期間だからだ。
俺達はこの3週間で教団の情報もなかったし、特に大きな仕事はせずに低級悪魔ばかりを倒していた。
もちろん、その間に例のあの人とは遭遇していない。
そして、テスト期間に入ったので先週から2人は勉強をしていると思われる。
「……山田、24日に予定を入れるなよ」
そこは大丈夫。
ちょっと悲しいけど、大丈夫。
◆◇◆
翌日の土曜日。
この日は朝からコタツに入り、ルリと一緒に爺さんの魔法本を読んでいたのだが、ふいにチャイムが鳴る。
「ん? 誰だろう?」
「私が出てきます」
ルリがそう言ってコタツを出て、玄関に向かった。
そして、何故か、キョウカを連れて戻ってくる。
「ん? キョウカ?」
何してんだ?
「お邪魔しまーす」
キョウカは笑顔でそう言うと、いつもは俺の隣に座るのに対面に座った。
「どうしたの? 来週から期末テストでしょ?」
「すみません。ここで勉強させてもらっていいですか? 家だと漫画という誘惑が……」
あー、わからないでもない。
俺も通ってきた道だ。
「いいけど、ここで集中できる?」
「できます! 私を見張っててください!」
あ、そういうこと。
「じゃあ、頑張りなよ。俺も魔法の勉強をしてるからさ」
「ありがとうございます!」
キョウカは教科書やノート、参考書なんかを取り出し、勉強を始める。
すると、ミリアムがコタツに上がり、キョウカの参考書を見だした。
「キョウカ、そこ違うにゃ」
ミリアムが尻尾を器用に動かし、参考書を指す。
「え? そう?」
「それはこっちの公式にゃ」
え?
この猫さん、数学までわかるの?
「そ、そっかー……えーっと、こう?」
「そうにゃ。それを覚えるにゃ」
「わ、わかった!」
キョウカはその後もミリアムに教えてもらいながら勉強をし続けた。
俺もまた、ルリに教えてもらいながら魔法の勉強をする。
そして、3時くらいになると、休憩ということでお茶にすることにした。
「糖分が脳に染みる……」
キョウカはしみじみとアイスを食べている。
「……こいつ、本当にアホにゃ。ひどいもんにゃ」
ミリアムがキョウカに聞こえないくらいの小声で教えてくれた。
「キョウカ、テストが終わったらどこか行く? 車が届いたんだよ」
「おー、いいですねー。ケーキバイキングはクリスマスだからー……あ、釣りに行きます?」
ケーキバイキングは決定事項なんだな……
いや、約束したし、連れていくけども……
「釣りねー……言っておくけど、寒いよ?」
12月の海だもん。
「大丈夫です! お魚を釣って、食べましょう!」
「まあ、キョウカがそれでいいならいいけど……」
「勉強、頑張ります!」
大丈夫かね?
まあ、やる気があるのは良いことだけど……
俺達は休憩を終えると、各自の勉強を再開する。
そして、時刻は6時を回り、窓の外は暗くなってしまった。
「キョウカ、帰らなくていいの?」
「すみません。もう少しやりたいです。お邪魔なら帰ります」
「いや、いてもいいけど……」
こんなに頑張っているのだからやればいいと思うけど、大丈夫かね?
「お姉ちゃん、夕ご飯食べます?」
そろそろ夕食の準備をしないといけないルリがキョウカに聞く。
「食べる」
キョウカはそう言うと、スマホを取り出し、操作しだした。
そして、すぐに耳に当てる。
「あ、もしもし、お母さん? 私、今日、晩御飯いらない…………ん? そう、タツヤさんの家…………いや、ねだってないよ。御呼ばれしたの!」
母親に電話してるのか……
というか、親は俺のことを把握しているのね……
いや、そりゃそうか。
「うん、そう。勉強も見てもらってる…………いや、だってあいつら、うるせーもん」
うるせーもん……
「泊まり? いや、泊まりはしないよ。普通に帰る…………え? 代わるの? 迷惑じゃない? …………あ、そう……タツヤさん、お母さんが話があるんだって」
キョウカがそう言って、スマホを渡してくる。
「貸して…………どうも、山田タツヤです」
キョウカから電話を受け取ると、挨拶をする。
『あ、山田さん? ウチのキョウカがご迷惑をかけていないでしょうか?』
「いえいえ、勉強を頑張っていますよ」
『そうでしょうか? 正直、ウチの子はバカで……』
そういう認識か……
まあ、ミリアムもアホって言ってたし、そうなんだろうなー……
「そんなことないですよ。今回はしっかりとした点を取れると思います」
多分……
『そうですか? では、すみませんが、ウチの娘をよろしくお願いします』
「もちろんですよ。協会で一緒に仕事をする仲間ですし、仕事はもちろんですが、勉学も面倒見ます」
ミリアムが。
『ありがとうございます……不出来な子ですが、こちらとしてはすべて山田さんにお任せしますので』
ん?
「えーっと、まあ、私はキョウカさんをお預かりしていますし、チームのリーダーですのでもちろん面倒を見ますけど……」
『はい。高校卒業後も一緒にやるって言ってますし、今後ともよろしくお願いします。ですので、こちらとしては何があろうと、気にしませんので、どうか娘を末永くよろしくお願いします』
「え? あ、はい……」
『すみません。娘に代わってもらえます?』
お母さんにそう言われたのでキョウカにスマホを返す。
「…………うん、大丈夫。迎え? いや、一人で帰れるよ。刀? 持ってる、持ってる」
やっぱり持ってるんだ……
空間魔法だろうな。
「うん、ご迷惑にならない時間に帰るから……はいはーい」
キョウカが電話を切った。
「大丈夫なの?」
「はい。別に泊まっていってもいいって」
どういう親だ?
いやまあ、ルリがいるからかもしれないけど。
「ちゃんと帰りなよ。車があるから送ってあげるし」
「帰りますよ。でも、送ってもらえるんですか? 普通に電車で帰りますけど」
「せっかく車を買ったしね。有効活用したいじゃん。それにやっぱり夜に一人は危ないよ」
ほら、例のあの人とかいるし……
「えへへ。そうですか? じゃあ、お願いします」
キョウカってたまによくわからないところで照れるよなー……
女の子はわからん。
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