表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清楚な二人は釣り合わない。  作者: 乙坂スバル
1/1

1話 嫉妬と百合色


「今日、会ってた男の人って誰?」



我慢することなんて簡単だと思ってた。

だって、いままでだって、さんざん我慢してきたのだから。

でも、我慢を覚えたはずの私の口は、結局我慢なんて微塵もせずに開いてしまった。


聞いてしまえば、何かが変わってしまうかもしれない。

今のままじゃ、いられないかもしれない。

なのに、我慢出来なかった。



私の言葉に、しず姉は軽く反応した素振りを見せて、首を傾げた。


あくまでとぼけるつもりらしい。



「なんの話をしているの?」



心当たりなんて無い、みたいな顔で私を見る。

脳裏に、今日の放課後で見た光景が浮かぶ。

知らない男と楽しそうに立ち話をする、しず姉の姿を。



「そうやって!私をからかうの?」



少し感情的に言いすぎただろうか。

しず姉は、本当に困惑した表情で、私の目を見る。

普段なら、目を合わせるなんて恥ずかしくて無理だが、今日は違う。


私のことを好きって言ってくれたのに、あれも嘘だったんだ。



「わ、私はっ!」



私が思いを叫びそうになった瞬間、しず姉が私の手を掴んだ。

いつもの手。

なのに、いつもより冷たく感じる。



「落ち着いて、宇美(うみ)。」



言い聞かせるような、しず姉の言葉が怒りを沈める。

でも、すぐにまた放課後のことが頭に浮かび怒りが込み上げる。


どんな時でも、落ち着いてるしず姉を目指していたのに、なにもかも裏切られた気分だ。

こんな状況で、落ち着くなんて無理な話なんだ。



「私の気持ち考えてよっ!どんなに辛いかってこと考えてよ!」



そう言うと、しず姉の表情は一瞬、曇りを見せる。

やがて、私の手を掴んでいた手も剥がれていく。

そうだよ。そうやって、反省しないといけないんだよ。

私の心を弄んだ罰を———




「んえっ!?」




でも、その手はすぐに私の背中に回された。

しず姉が私に抱きついてきたのだ。


しず姉の頭より下に収まるように、私の体は強く抱きしめられる。

しず姉の表情は見えない。


いつも、静かで美しくて、でも、愛想は良くて、私の目指してるしず姉が、まるで感情に身を任せるかのように、私に抱きついたのだ。


動揺しない方がおかしい。


まるで、今日の放課後見たことが、本当は無かったとさえ思えてくるほどに、しず姉の中は暖かくて、安心できた。



「落ち着いた?」


「う、うん。」



一生、このままでいたいなんて思いは虚しく、すぐにしず姉は、腕を緩める。


そして、私の両肩を強く掴んで、至近距離で私の目を見る。

視線と視線がわずか数センチのところでぶつかり合う。


顔が暑い。暖房でも付いているのだろうかとさえ思えてきた。

目を合わせるのが、とても辛い。


も、もしかしてっ、これがガチ恋距離ってコト!?



「宇美は、勘違いしてるの。」


「え?」


「宇美が見たって言うのは、今日の放課後の帰り道でのことでしょ?」


「う、うん」



勘違い?

でも、確かに私はしず姉と男の人が、笑いながら喋ってるのを……



ん?ちょっと、待って。

男の人ってどんな人だったっけ?




「私が話してたのは、栗山のおじさんだよ?」


「……ぇ」


「帰り道に、施設に野菜あげるって言って呼び止められたの。」



ということは、勘違いってこと?

途端に、恥ずかしくなる。

思い込みほど自分を狂わせるものは無い、なんてよく言ったものだ。




「多分、宇美が見たのって、私とおじさんが世間話で盛り上がってたところじゃないの?」



しず姉が笑うなんて珍しいから、誰と話してるかと思ったら男の人の声がしたのだ。

途端に頭が真っ白になっていく。

それで、勝手に思い込んで、1人で私は怒っていたのだ。



「えっと、勘違いごめん……」


「うん」



返事がどうも無機質に感じたので、伏せていた、視線をゆっくりとしず姉に戻す。

明らかに、しず姉の表情には陰りが見える。


確実に怒っている……、



「……ご、ごめん!」


「うん、で?」



で?


恐る恐るといった感じに、私は尋ねる。



「何をご所望で?」


「私、宇美のこと愛してるって言ったよね?」


「……は、はい!」



ここで私はやっと理解した。

私が裏切られたなんて、一方的に思っていただけで、本当に裏切られた気持ちなのはしず姉なのだ。


だって、私がしず姉のことを信じていなかったからこその勘違いなのだから。




「私の愛を疑ったことに対して、謝ってないよね?」


「ご、ごめん!」


「ふふ、許さない」


「えっ、しず姉!?」




私を引っ張って、ベッドに押し倒す。

しず姉の顔がゆっくり、私に近付いてくる。


え、も、も、もしかしてっ!?

もしかしちゃうのぉ!?



「髪の毛、結構伸びたね」



しず姉はそう言って、やっとロングヘアと言えるくらいに伸びた私の髪の毛を手で掬い、口付けする。


私は何か言おうとしたが、近付いてくるしず姉の顔に、すっかり言おうとしたことなんて忘れてしまった。


目を強く瞑る。

しず姉の息の音がする。

いままで、こんなに近くで感じたことがあっただろうか。

五感を集中させ、しず姉の受け止める準備をする。



やがて、息が耳に掛かる位の距離で、しず姉は言った。




「私が宇美を愛してるってこと、分からせてあげる、」








その日、私は人生の最盛期を迎えたのだった。

原案・乙坂スバル、友人U

小説・乙坂スバル

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ