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おかしなオカルト研究部  作者: おとさらおろち
第2章 理科室の骸骨模型はホンモノだった!?
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第21話 日記の呪い?

「それにしても、野口のアニキ。こんな鎖につながれて重労働なんて。オラ、もうヘトヘトだべ」


「おい徳三(とくぞう)、しゃべっているヒマがあれば手を動かせ」


 見渡す限り、白一色の平原だ。どうして白いのか。地平線の彼方まで、冷たい雪に覆われているからだ。


 冷たいといっても、晴天に照らされた雪は太陽光を存分に反射し、顔は暑いのやら冷たいのやら、ただ灼熱感におおわれている。


「おーい! きさまら何を無駄口叩いておる!」


 大声でいかめしい顔をした看守が寄ってくる。


「ほら、徳三、お前が無駄口たたくから」


 看守が二人の顔が分かるくらいに近づいた。


「また貴様か野口」


「いやね、看守殿。あまりに景色がいいんで、のどかだなぁって話をしていたんですよ」


「何がのどかだ。俺だからいいものを、他の看守に見つかったら平手打ちだぞ……」


「それにしても、あの目印の上がっている山の下にも、俺たちみたいな囚人がたくさんいるんですね」


 三人が見た先の山からは、白いのろしがもくもくと上がっている。


「そうよ。のろしの上がっている達布山(たっぷやま)のふもとにあるのが空知集治監(そらちしゅうちかん)よ。榎本武揚(えのもとたけあき)先生が、あそこからもう少し南へ行った場所に石炭が出てくることを発見されて、囚人たちに掘り起こさせようとしているのよ」


「セキタン?」


 徳三がはてなと首をかしげる。


「まったく、ものを知らぬやつだ。石炭、燃える石だ。それも、油や木炭どころの話じゃない。これを使って軍艦を動かすのよ。鉄だって、この石を使えばフイゴなんかで作っていた何倍も効率よくとることができる。今やこの日本にとって、いや世界にとって石炭は重要な資源なのだ。その空知集治監との連絡道を完成させることこそ、我が大日本帝国が栄える礎石になるのよ」


「それにしても看守殿。俺たちが今作っている道路ですがね、どうもあの目印の達布山からずれている気がするんですがね」


「なに? そんなはずがあるものか。目の錯覚だ」


 とそこへ、あわてて別の看守が駆けてきた。


「オーイ! 今分かったのだが、この道路、ずれていることが発覚した。角度をつけて東へ向けないと、峰延の北へ出てしまう」


「なっ、なに!?」


 看守は野口の顔を見て、あわてて今きた看守とともに駆けていった。


「さすがアニキでさぁ」


「これで今日は、看守さんは俺たちに構っているヒマはなくなった。徳三、少し休もうぜ」


「ううぅ……」


 マイは、なんだか妙に重たいからだに力を入れた。


 今夢に見た、雪の冷たさが体に残っているようだ。



「マイ……ちゃん……」


 スズが、薄く目を開けてこちらを向いている。


「日記の夢、見ちゃいましたね」


「そうね……」


 スズは、センナが持ってきた地図を開いた。


「ねえ、これ……」


 スズが地図の月形町のあたりを指さす。


 重たい体に鞭打って、マイも地図をのぞき込む。


「!!!」


 一瞬で眠気が吹っ飛んだ。あの夢で出てきた単語。峰延と達布山が出ている。


「マイちゃん、この道……」


「曲がってる!!」


 月形(つきがた)町から伸びている北海道の道、道道(どうどう)275号線が、途中で少しだけ曲がっている。そして、その先には峰延があり、その延長線上には、達布山という山があるのだ。


三笠(みかさ)市っていう街ですね」


 マイは百科事典で調べる。


「ありました! アンモナイトの化石が産出される場所……。あっ、空知集治監があった場所って書いてます! そして、石炭産業が盛んだった場所だって!」


 マイとスズは顔を見合わせた。


「やったわね……でも……」


「やっぱりこれ、危険かもしれませんよね……」


 マイとスズは、日記を見つめる。静かな部室に、完全下校のチャイムが響いた。



 翌日、マイとスズは、昨日あったことをリンとセンナに話した。


「まずは隠さずに言うことっていう約束は守ってくれたわけですが……」


 センナは、腕組みして考え込んでいる。


 やはり、この日記を調べるのは、危険だと思っているようだ。


 ただ、スズがそれを遮るかのように、


「でも、わたし、なんとなくなのだけれど、この日記は、きちんと調べないといけないと思うの」


「でも、スズ先輩とマイが、急な眠気に襲われて同時に寝てしまうなんて、ただごとじゃないですよ。しかも、よく考えたら同じ夢を見るなんて、とても変ですし……。この日記に呪われちゃったのかもしれませんよ」


「呪われたって……でも、ここはオカルト研究部なのよ! 上等じゃない!」


「スズ先輩!」


 だんだん、スズとセンナの声が大きくなってくる。


 このままじゃ、けんかになっちゃうかもしれない。


「あの、私気づいたんですけど!」


 リンが、そんな中に大声で割って入る。


 スズとセンナは、はっと我に返ったように、リンを見る。


「言って、いいですか」


「うん、お願い、リンちゃん」


 スズもセンナも落ち着きを取り戻した。


「日記の夢を見る前、一人になったマイは寝落ちしちゃったんだよね」


「うん」


「その時は、抗えないような眠気だった?」


「ううん。普通に、本を読んでいたら眠くなっちゃうような感覚だったよ」


「そして、その時にはあの夢を見なかった」


「そうだよ」


 リンは腕組みをして、


「この日記、スズ先輩に語りかけているようですね」


 みんなは顔を見合わせる。


「あの夢を見るとき、必ずスズ先輩と一緒にいるときですから……それに……」


「それに?」


「スズ先輩、骸骨のある理科室でも、夢を見たって言ってましたよね。やっぱり、この日記とあの骸骨も、何かつながりがあると思います」


 みんなはまた顔を見合わせた。


 あの骸骨は、本物の人間の骨だということが分かったばかりだ。


 やはりこれは、何か危険なことではないのか……。


 そこへ、部室をノックしてサナエ先生が入ってきた。


 いつもとは違い、深刻そうな顔をしている。


「スズちゃん」


 サナエ先生がスズの名を読んだ。少しきつい声に感じた。


「最近、ご自宅に帰っていないみたいね」


 スズは、何も言わずにうつむいた。


「センナちゃんの家に泊まっているの?」


「はい……」


 サナエ先生は、スズとセンナの顔を交互に見た。


「さきほど、スズちゃんのお父さんが来たの」


「私を、連れ戻しにですか?」


 サナエ先生は、ふう、と息を吐いた。


「ちょっと、ご家庭のことだから、別のところで話しましょうか」


「いえ」


 スズは否定した。


「ここでいいです」


「そう……」


 サナエ先生は、もう一度、息を吐いた。


「お父さんは、富詩木(ふしぎ)神社のお祭りのことで、校長先生のところに協力のお願いをしにきてくれたの。毎年、野球部がお神輿を担いでいるでしょ。それに、通学路に出店が出るから、中学生に車に気を付けてとかって通知をしてほしいとかね。今年は私が学校側のお祭り運営の担当になっているから、同席していたの。その時ね、スズちゃんが帰ってきていないっていう話もされていたの。スズちゃん、理科室の骸骨が本当の人間の骨だったって分かった時、貧血で倒れたわよね。その日も、家に帰っていなかったんでしょう? お父さんにも、連絡せずに」


「そっ、それは……」


 スズは、まだうつむいている。


「これはご家庭の問題で学校が関わることではないかもしれないけれど、私はずっとスズちゃんを見てきたから言うわね。スズちゃん、きちんとお父さんとお話しないとダメよ」


「ううっ」


 スズはうめき声を発しただけで、まだうつむいている。


 沈黙が流れる。なんだか、いつも賑やかで楽しいはずの部室だが、今日は居心地が悪い。


 そんな時、また部室をノックする音がした。


 これ幸いと、みんな、ドアの方を見た。


 ただ、あまりよい結果にはならなかった。


「失礼しますね」


 そういって入ってきたのは、スズのお父さんだった。


「お父さん……」


宗谷(そうや)先生に案内してもらって、ここにきたんだよ。突然部室に入ったら驚くだろうからって、先に宗谷先生が話をするって言ってね。廊下から聞いていたけど、スズ、みなさんに迷惑をかけたらいけない」


 スズはまだ黙っている。


「センナさん、スズを泊めてくれてありがとう。今度お礼をするよ。さあスズ、今日は一緒に帰って、ゆっくり話をしよう」


「話?」


 ようやく、スズが重たい口を開いた。


「そうだよスズ、まずは二人で話をしよう」


「できるの?」


 スズの声は冷ややかだ。


「お祭り、もうすぐじゃない……。そんな時間あるの?」


「なんとか、やりくりするよ」


「結局、いつも口先だけで、二人だけになったら、また自分の思い通りにするつもりなんでしょ」


「スズ……」


「お母さんの時だって、神社のことばかりでっ! お父さんは家族のことなんて何も考えていないんでしょっ! 今だって、体裁ばかり整えてそう言っているだけよっ!」


 スズが大声で言った。


 前に富詩木神社でお父さんと言い争っているのを聞いているが、温厚なスズが声を荒らげているのを見るのは辛い。


「スズ、みなさんの前だぞ」


「だから何なのよっ!」


「またセンナさんの家に泊めてもらうのか? センナさんは優しいから嫌とは言わないけど、迷惑だと思っているんだぞ」


「そうやって、話をそらそうとするっ!」


「スズ、もう中学三年生で、ここの中では一番先輩なんだろ」


「それは今関係ないでしょっ!」


 収拾がつかなくなってきた。


 さすがにサナエ先生が割って入る。


「スズちゃん、どうかしら、一度家に帰って、お父さんと話してみたらどうかしら。天塩さんも、今日はきちんと話す時間をとってくれますよね」


 サナエ先生はスズのお父さんに助け船を出すようにして言った。


「それはもちろん……」


 と、宮司さんがその提案に飛びつこうとしたが、


「なにそれっ!」


 スズがまた大声を上げた。


「サナエ先生、ひどいですよ……。これは私の家の問題なのに。サナエ先生は、私とお父さんの関係も、お母さんのことも知らないのにっ!」


 サナエ先生も、さすがに戸惑っている。


 部室がまた静まり返った。


 しばらく沈黙の時間が流れた。


「スズ先輩! 今日は帰ってください!」


 立ち上がって口を開いたのはセンナだった。


「センナ……」


 スズは、立ち上がったセンナを見上げる。


「スズ先輩、もう体ヘトヘトなんじゃないですか。骸骨のことも、日記のことも。もうさすがにストップです。きちんと言わないとダメです」


「センナ、やめて……」


「今私たち、富詩木神社の倉庫にあった、明治時代に書かれた野口茂の日記について調べているんです。ただ、スズ先輩と日記が近くにあると、変な夢を見るんです。野口茂が見聞きしたことを追体験するような。ほかの人がその場に居合わせると、その人たちも一緒に、同じ夢を見る。それに、夢なのに、寒かったり、痛かったり……」


「センナ、それ、なんで言っちゃうの」


 スズはゆっくり立ち上がった。


「日記?」


 お父さんは不思議そうに言って、ふと、机の上にあった野口茂の日記に眼をやった。


「これ、うちの日記じゃないか。そうか、あの時、何か持っているなとは思っていたが、これだったのか」


 スズのお父さんは、富詩木神社の倉庫でのことを思い出したようだった。


「いったい、この日記を何に使うんだ?」


 スズのお父さんが机の上の日記を取り上げた。


「触らないで!」


 スズが急いで立ち上がり、お父さんの手から日記をひったくった。


「センナ、やってくれたわね……。センナだけは味方だと思っていたのに、この、裏切り者っ!」


 さすがにひどいとマイは思った。リンも、この発言には驚いてしまっている。


「なんだよ、それ……」


 センナが、スズを睨んでいる。


「このままじゃ、呪われちゃうかもしれないだろっ! 実際に理科室であんな具合悪くしてっ!」


 いつも冷静なセンナが、声を荒らげた。敬語すら使っていない。


「なにそれ、それってセンナが怖いだけじゃない。怖ければセンナは部活やめればいいじゃないっ!」


「そんなこと言ってないだろっ! スズ先輩ってそうやって詭弁使うところあるよねっ!」


「詭弁って!」


「どうにかなってからじゃ遅いじゃないか。取返しがつかなくなる前に何とかしないと。お母さんの時もそうだったんだろ」


「分かった口きかないでっ! センナはいつもそうやって、嫌なところついてくる。打算的なのよっ!」


「打算的って……。それはスズ先輩だろっ! 八方美人(はっぽうびじん)に見えるように考えて動いて。そして部活ではいっつも衝動的(しょうどうてき)! 今回だって、結局自分が知りたいからって、衝動で動いてみんなを巻き込んで! 自己中心的!」


 マイは、どうにかして止めないと、と思った。いつもはストッパーになってくれるセンナが、今日ばかりは感情的になってしまっている。


「あのっ、やめてください!」


 マイは、とっさに、スズとセンナの間に割って入っていた。


「マイ!?」


 センナは驚いて後ずさった。スズはびっくりして、あっ、と言って、野口(しげる)の日記を手から滑り落してしまった。


 日記が床にグシャっと音を立てて、途中のページが開かれた状態で転がった。


 みんなは、床に転がった日記をみつめた。


 すると、窓も空いていないのに、部室の中をたしかに風が流れていく。開いたままだった辞典のページがめくれたことからも明らかだ。


「なっ、なんだ」


 スズのお父さんがそう言う間に、風が強くなった。


 部室のドアや本棚がガタガタ揺れる。


「なっ、なに、これ!?」


 マイは怖くなった。


「これ、本当にオカルト現象!?」


 宮司さんは、何が何だか分からないといった顔で、部室中を見回している。サナエ先生も、状況が呑み込めていないように、目だけ動かしている。リンは、机を手で握っている。センナは、とっさに本棚から本が飛び出ないようにしている。


 スズだけが、本を見つめている。


「そうだ、本っ!」


 マイは本に手を伸ばそうとした。これは、きっと床に転がった本が原因なのだ。


 ただ、手は本に届かずに、あの眠気が襲ってきた。

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