君の白髪は一本だけだ
恋愛好きな人にとっては楽しい小説だと思います。
たぶん。
入学式が終わり、僕はとあるショッピングモールに来た。
のはいいのだが、気まずいことに同じ高校の女子生徒とエレベーターで二人っきりになった。
なんという偶然!
「あのー」
彼女が話しかける。
「こう言っちゃ失礼なんですけど…」
「はい」
「臭いです」
失礼だな!
これが最初の出会いだった。
エレベーターが開き、僕は外に出る。
しかし、彼女は付いてくる。
「あのさー、君なんで臭いの?」
知るか!
「まあ、こっち来なって」
彼女は僕の手を引くと、横の方にそれた。
本当になんなんだ、この人は。
彼女は一通り買い物を終えると、深々とおじぎをした。
「今日はどうもありがとう」
そう言われると、悪い気はしなくなってくる。
!
彼女の頭には白髪が一本だけある。
今、気づいた。
「ねえ、名前は?」
聞かれて答える。
「星野小五郎だけど」
すると彼女は間髪入れずにこう言った。
「いい名前だね」
その笑顔はとても素敵だった。
ああ、好きだ。
不意にそう思ってしまった。
その白髪のように彼女にとって特別な存在になりたい。
そう強く思った。
数十年経って2人とも年を取った。
僕は彼女に話しかける。
「黒髪、一本だけだね」
「うん、そうなの」
そう、彼女の髪は白髪の代わりに黒髪が一本だけになっていた。
僕が彼女にとってその黒髪みたいな存在だというおこがましいことは言えないが、彼女が僕にとってその黒髪みたいな存在なのは間違いない。
この話のタイトルは自分の顔を鏡で見たときに、白髪が一本だけあるなと気づいたところから着想を得ました。