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交差点の地縛霊(仮)

 また次の日授業が終わり、橘は件の交差点へ向かおうとする。今日は現地集合なので事務所に寄らずに直接向かうようだ。だがそこを友人らに呼び止められる。


「おい橘、最近付き合い悪くないか? まさか彼女でも出来たんじゃないだろうな!?」

「まさか。ちょっとバイトが忙しくてな」


 彼女が出来たのか、という問いに思わず「まさか」と即座に否定してしまい、何となく悲しい気持ちに浸る橘。


「ああ、そういやゴールデンウイーク辺りで聞いたな。まだやってたのか?」

「まあな」

「事務のバイトだっけ? つまんなさそうだけど、給料が良いとか可愛い娘がいるとか!?」

「……いや、そんなことは無いけどな」

 

 そんな事を言いながら、橘は給料を貰っていない事に気が付く。そういえば、以前給料日があるとかないとか如月が言っていたはずだが橘は貰っていない。これはどういうことだろうか。だが周りはそんな橘を気にかける事も無く詰め寄る。


「……今、お前何か間が無かったか?」

「気のせいだろ」

「いやあった! どっちだ!? 給料と女、どっちに対する間なんだ!?」

「おいやめろって。橘困っているだろ」


 そのまま友人の質問攻めに合いそうだったが、和光が皆を抑える。以前二人の関係が怪しいものなのでは、という噂が広がりそうだったが和光の問題を何とか解決し、彼女といかに仲が良いかというのを見せつけたため、二人に対する誤解は無くなった。だがあの日を境に二人が親密になったのは確かで、言葉には出さなかったが少々怪しんでいる者もいた。


「和光は彼女がいるから良いけどさ!」

「橘、俺らを裏切ったら許さんからな……!」

「俺にだけ当たり強くない?」

 

 何となく理不尽の様なものを感じながら、手を振り友人らに別れを告げた。




「ちょっと早く着きすぎたかな?」

 

 例の交差点に着いたがまだ誰も来ていない様だった。無駄だとは思うが当たりの様子をうかがってみるが、少なくとも橘の眼には別に取り立てて異常が無い普通の交差点のように見えた。


「本当に幽霊の仕業なのか?」

「おっす橘くん、一昨日ぶり!」

 

 橘が首を捻っていると急に後ろから背中を叩かれる。驚いて振り向くと少し前に会った謎の女刑事、須々田がにこやかに笑っていた。


「す、須々田さん、何でここに!?」

 

 須々田の顔を見た途端、あの日の夜に感じた恐怖がよみがえり、警戒心を隠さない橘だったが、須々田はどこ吹く風でひたすら爽やかに笑っていた。


「決まっているでしょ! 交差点に潜む謎を解決するためよ」

「え、それって……」

 

 なぜ須々田さんが、と橘が訪ねようとしたとき如月が現れ二人が親し気に話しているのを見て首を傾げる。


「あら橘、彩奈と知り合いだったの?」

「彩奈って?」

「私の名前! 須々田彩奈って言うの、改めて宜しくね! 葵ちゃんも元気だった?」

 

 どうやら須々田と如月は知り合いの様で、アメリカ人ばりのハグに如月が苦しんでいた。しかしだとすれば須々田が自分の家や名前を知っていたのは……。


「えっと須々田さんの上司って、もしかして古河さん?」

「お、名推理! 橘くん将来刑事とかどう?」

 

 そう言って再び笑顔を見せる須々田。どうやら古河経由で橘の情報を得ていたようだ。橘はその笑顔を見て、何で自分はこの人が怪しいと警戒していたのかと馬鹿らしく思い力が抜ける。二人はそんな橘を見て不思議そうに顔を見合わせた。


 橘が無駄に警戒していたことを須々田に白状すると、彼女はお腹を抱えて笑い始めた。一体何をそんな笑う事があるだろうか、橘が口を尖らせていると須々田がお腹を押さえながら謝罪をする。


「あはは、ゴメンゴメン! いやぁそっか、うん確かにアタシ怪しいわね! 橘くんの名前を知っていたり、家知らないのに先歩いていたり……無意識だったなぁ。刑事失格ね!」

「てことは……?」

「そう! 先輩から橘くんって言う面白い子がいるって聞いてたの。まあ顔とか知ったのはつい先日、この事件を葵ちゃんに依頼することが決まった時なんだけどね。今日は軽めの事件だから、先輩に任されてアタシが来たってワケ」


 どうやら知らない間に顔写真が警察に入手されていたようだ。大学の写真撮影からか何からかは分からないが、あまり気分の良いものではない。


「それより、早速霊視しましょう」

 

 如月が二人の話を切り上げて早速仕事に取り掛かろうとする、すると須々田も何やら集中し始める。なぜだろうか。


「どうやらいるみたいだねぇ」

「そのようね」

「え、ちょっと」

 

 何やら蚊帳の外だったので橘は慌てて二人に問いかける。もしかして、この須々田という女性は。


「うん? ああ、何か居るなってくらいならアタシにも分かるわ!」

「え、完全アウェーじゃん俺……」

 

 またもや自分だけ、幽霊を感じ取る事が出来ないことに気が付き肩を落とす橘。そんな橘を無視して如月が説明してくれた。


「彩奈は霊感が高くて、波長が合えばくっきりと霊を見る事が出来るからこの若さで零課で刑事を任されたのよ」

「葵ちゃんに若いって言われてもね……」

 

 橘は置いてきぼりを喰らって悲しんでいたが、こっちはこっちで何やら微妙な顔をしている。全然若いのに、どうやら基本的に女性に年齢の話はタブーのようだ。橘は一つ賢くなった。


「で、幽霊の調子はどうなの?」

 

 とりあえず話を進める事にした橘だったが、何やら微妙な顔をする如月。


「思った通り地縛霊だったんだけど」

「けど?」

「どうも様子が変ね。何と言うか違和感があるわ」

 

 どうやら特徴的には完全に地縛霊特有のものを持っているようだが、如月は納得していないらしい。


「うまく言葉にできないんだけど……。まあいいわ、会話もできないし取り合えず除霊しましょう」

「切り替えはやっ」

 

 そう言って如月は木刀を振り下ろす。ここは夕方の交差点、少々人の眼が多く橘は隠れたい気分になったが、如月だけ衆人のもとに晒すわけにもいかない、そう決意した。


「終わったわ……どうしたの?」

「如月、お前だけにそんな思いはさせないからな……!」

「馬鹿にしてる事だけは分かったわ」

  

 そんなこんなで、この場は解散となったが最後まで後ろ髪を引かれたかのように振り返る如月が橘には印象的だった。




 除霊も終わったことで橘は如月の家にお邪魔し、晩御飯を頂いていた。行きつけの定食屋も美味いがやはり千代の作る食事も美味い。中々贅沢な舌になってしまいそうで、自炊出来なくなるかも知れないと橘は少し思った。

 晩御飯を食べ終わったが、食事中ずっと考え事をしていた如月が気になり声を掛ける。


「何をそんなに考えていたんだ? 食事に集中しないと千代に失礼だろ」

「伊織様、私は良いんです……。二人が千代の作ったものを食べてくれているだけで……!」

「千代、お前って奴は……!」

「謝るから今すぐその茶番止めてくれる?」

 

 どうやら如月は考えていたことを説明してくれるようだったが、橘はもう少し続けたいと思っていたので不満顔である。


「何でそんな顔向けられないといけないのよ」

「またやりましょうね伊織様!」

「千代……!」

 

 再び茶番を始めようとしたが如月の眼が怖かったので大人しく話を聞くことにした。まあでも取り合えず千代が喜んでいたようなので何よりである。


「現場に出向いたとき言ったでしょ、何か違和感があるって」

「ああそれを考えてたのか。で、分かったのか? その理由が」

「ううん。理由はまだ分からないんだけど、感じていた違和感を上手く表現することなら出来るかも」

 

 そう言って如月は口をつけていたコップを見せて来た。


「橘、これは何?」

 

 急に訳の分からない事を言い出す如月に戸惑いながらも答えていくことにした。


「何ってコップだろ」

「何でそう思ったの? これは鈍器かも知れないし水が入っているからバケツかもしれないわ」

「……コップは一般的にそういう形だから」

 

 如月の揚げ足取りの発言に苦しみながら、曖昧なことしか言えなくて苦しむんでいると如月が大きく頷く。


「そうね、一般的に見てこれはコップね。じゃあさっき言ったバケツ、あれを小さくしてこの形にしたらどうかしら?」

「それは……、その過程を知らないのならコップと答えるだろうな」

「そういうことよ」

「どういう事だ」

「何で分からないのよ」


 如月にため息をつかれる橘。如月の意図が分からずモヤモヤとしていると、横から千代が話しかけてきた。


「つまり葵様は、現場にいた地縛霊は無理矢理地縛霊としての特徴を付けられた、と仰りたいんです」

「千代、お前天才か」

「私説明下手かしら……」

 

 何やら落ち込んでいる如月だったがそんな事は知った事かと橘は声を上げる。


「待てよ、てことは裏で手を引いている奴がいるって事か!?」

「ええ、それも並の霊能力者じゃないわ。死霊を操って特性を変えられるなんて……!」

  

 どうやら大したことはない事件と思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。橘は如月にある提案をする。


「今夜からでも張り込みをしないか? またそいつが仕掛けるかもしれないし」

「そうね……。他の場所に仕掛ける可能性もあるけど、今は手がかりがそこしか無いわね」

 

 如月も同意し今の話をする為、須々田に電話を掛けるようだ。だが結果は芳しくなようで、


「今日は警察忙しくて、来るかどうかも分からない相手の張り込みに、あまり人手を割けないから彩奈しか来れないらしいわ」

「まあ敵が霊能力者で、幽霊を操ってくるとしたらあんまり警察官が居ても役に立たないか」

 

 そうは言う物のやはり三人だけで見張りというのは心細い、そう思っていると千代が橘の手を握る。


「大丈夫です伊織様、私も行きますから!」

 

 橘の不安が八割ほど増した。

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