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幽霊視えないけど結界体質だし退屈なので霊能力者の助手になりました!  作者: 東山レオ
イケメン陽キャ、和光からの依頼
12/22

腕に残る体温

 だんだん暑い日が続くようになってきた頃、橘はうんざりした顔で友人たちと次の授業に向かっていた。そんな顔なのは暑さともう一つ理由があるようだ。


「何で一年のこの時期に大学院生との交流会なんてあるんだよ……」

 

 橘が歩きながら愚痴を言うと周りの友人たちも同意する。どうやら全くやる気のない必修授業が空きコマを侵略したことがうんざりの原因らしい。友人の一人が皆に問う。


「今の段階から院を視野に入れてる奴にとっては凄い嬉しいだろうけどさ、そんな奴いる?」

「いない」

「文系だぞ俺ら」

「この時間バイトしてた方がマシだ」

 

 だがこの授業を受けなければ進級できない。そんな訳で皆テンションが落ちながらも授業を取ったようだ。そんな中で一人目を輝かせている奴がいた。


「でもさどんな研究するとかどんな一日を過ごすかとか気になるじゃん!」

「お前何でそんなチャラい見た目なのに好青年なんだよ」


 あまりにも眩しい和光に橘は文句を言ったつもりだったが周りからは褒めているようにしか聞こえなかった。どうやら良いコンビとして認識されているようだ。


「というかお前さっきの時間寝てただろ。その癖に爽やかな発言はやめろ」

「どういう理屈だ?」

 

 和光は首を傾げる。周りも橘とは主張が違うが和光が寝ていた事は少し気になっていたようだ。


「珍しいよな和光が居眠りなんて」

「ホント、周りの女子とか和光を見て『寝てるところも格好いい……!』とか言ってたぜ」

 

 などと言い合っている。一人が和光に、


「なぁ、何かあったのか?」

 

 と聞いたが、ちょうど交流会の部屋に到着し周りの眼もあったのでそこで会話は途切れた。




「――そういう訳で私はこの研究をしているんです」

 

 交流会はいくつかの席に分かれ、ローテーションで一人の院生に対して数人の学部生が話を聞いて質問をするという形式で進行していった。だが橘にとってはどうあっても暇な時間に変わりがなく早く終わる事だけをひたすら祈っていた。だがとある院生の机に回ってきた時、そんな感情は無くなった。


「皆さん大学生活は楽しいですか? こんなもんか、なんて思ってませんか?」

 

 急にそんなことを言われてドキッとした。つい最近まで自分が思っていたことを当てられて橘はまるで心の中を読まれた気分になった。周りを見ると皆、そんな事無いです、とか楽しい、と否定していたので橘も流れに乗る。だがこの院生はそんな橘の心の機敏を見逃さなかったかのように橘の眼を見据え、爽やかに微笑んだ。

 

「皆さん楽しそうで良かったです。ですが僕は大学生活に満足できなくてまだ社会に出たくなかったんです。僕が院生になったのは実はそんな理由なんですよ」

 

 そう快活そうに言って皆の笑いを誘った。笑顔の似合う眼鏡イケメンのこの男に数人の女子は既にうっとりとしているようだった。確かに格好いい。話し方は明瞭で知性的、和光とはまた違ったタイプのイケメンだ。


(だが先ほどの眼と微笑みは一体?)

 

 心情を読んだとしても橘が流れに乗るか迷っていたのはほんの数秒、それで橘の考えを当てるのは既に同じ考えを持っていた場合だろう。つまりこの眼鏡イケメンが大学生活に不満があったというのは恐らく事実なのだ。だが何が不満だったのか。

 そんなことを考えている間にこの院生との交流が終わり別の院生の元へと向かう事になった。橘は去り際に机に置かれたネームプレートを確認する。


(折谷拓美か)

 

 再び目が合う。思わず橘は全く関係ないことを質問していた。


「院生になって満足できましたか」

 

 突然の質問に折谷は吃驚したようだが再び柔らかい微笑みを見せる。


「ええ。最近ようやく、ね」

「それは良かったです」

 

 そう言って橘がいい加減に去ろうとすると折谷の方からも質問があった。


「君は? 君はどうだい?」

「俺も最近ようやく楽しくなってきたところです」

 

 橘がそう返すと心底安心したように微笑んだ。


「それは良かったよ。君名前は?」

「橘です。橘伊織」

「橘君か、僕は折谷拓美。またね」

 

 そう言って今度こそ席を離れる。話した時間はたった十数秒だったが不思議と気が合う感じがしてもう一度機会があったら話したい、と橘は思った。




 今日の授業が全て終わり橘は駅前に遊びに出かけていた。珍しく和光が主導となって遊びの提案をしたのである。それに伴って友人たちはテンションがかなり上がっていた。正直橘は如月霊能事務所に行きたかったがレアな和光主導の遊び提案を断ると空気を壊すことになる。そういう訳で仕方なく歩みを進めていた。

 もう少しで目的地というところで見知った顔の女性が二人組の男に言い寄られていた。


(ナンパか、いったい誰が……って城ヶ崎さん!?)

 

 何と学年一可愛いという評判にして橘の密かな想い人である城ヶ崎がナンパにあっていた。


「ねえ、俺らと遊ぼうよ。全然奢るからさ!」

「あの、困ります……」

「良いじゃんか! ちょっとだけよ!? ね?」

 

 橘はそれを見て真っすぐと歩いて行く。その背中は使命感に燃えていた。


「バーとか行った事無いでしょ! お兄さんたちが教えてあげるよ!」

「……うるさ――」

「城ヶ崎さんここにいたんだ!? 待ち合わせ場所あっちだよ?」

 

 何やら城ヶ崎が言いそうになったところで橘が助けに入った。城ヶ崎は一瞬驚いて体を震わせたが瞬時に橘の意図を理解し腕を組む。


「もう、遅いですよ?」

「ご、ごめんな」


 橘は努めて平静を心がけたが心臓がマグマのように脈打っていて腕を組んだ城ヶ崎にバレていないか気になり更に加速した。


「ち、彼氏持ちかよ」

「まああんだけ可愛けりゃな」

 

 そう言ってナンパ男たちは別のターゲットを探しに人の波に消えていった。城ヶ崎はそれを見てホッとため息をつき腕を解く。


「えっと、橘さんありがとうございました! 私、怖くて怖くてどうしようかと……」

「いやいや気にしないで! 力になれたのならよかったよ!」

 

 橘は未だ腕に残る城ヶ崎の体温を名残惜しく思いながら、恐怖に震えているのであろう城ヶ崎を心配した。このままお茶でもどうかなんて考えていると、


「じゃあ私はこれで!」

「え? あ、うん。じゃあね」

 

 あっさりと城ヶ崎と別れることになった。なぜだろうか腕に残った体温が今は冷たく感じた。


「帰ろう」

 

 そもそも何で自分はここまで来たのか橘が疑問に思いながら歩いていると、


「おい橘こんなところにいたのか!」

「待ち合わせ場所忘れたんだったらメッセ送れよ!」

「あ、ああ……」

 

 友人たちに声を掛けられ記憶が戻る。まったく遊ぶ気にはなれなかったがここで帰る事が出来るほど橘は強くなかった。重い脚を引きずるように後ろから友人たちの後を追った。

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