唐突にTS幼馴染をビンタする
特に "私" の性別については設定してません。
「なー、お前テスト何点だった?」
気安く話し掛けてくる少女が1人。彼女は、元男で "あさおん" 現象に見舞われたTS娘だ。
私のかけがえのない幼馴染でもある。
少女と化した彼女は非常に愛らしい姿をしている。母親似の優しい顔立ちに、縮まった身長分が付け足された様な胸、尻。元が普通の男の子だったが故の無防備さ。年頃の女子とは思えない気安さで話し掛けられ、元と比較して悶え苦しむクラスメイトが後を絶たない。
今だって幼馴染の家に勝手に上がりこんで、背後から抱きつきながらのセリフだ。
背中に伝わる柔らかさは言葉には表せず、密着した肌からはほんのり甘い匂いがする。
私にとって彼女は兄弟の様なモノだと思っていたが、ここの所、その気持ちが揺らぎ始めていた。
「見せろって……、お! ふふん、これは俺の圧勝ですな〜」
彼女は昔から負けん気が強かった。テストの点比べはしょっちゅうで、結果に一喜一憂する様は、特に女子になってからは微笑ましく、また、私の気持ちの揺らぎを大きくさせていた。
今彼女が見せているドヤ顔も、男の時ではただただウザかったのだが、女になってはとにかく可愛らしく見えるのだ。
「悔しかろう? なら、精進するべきだな!」
正直、友愛の情が恋愛の情に変わってきていることは否定できなかった。
ただ、それとは別に厄介な感情が、私の内に芽を出していたのだった。
彼が彼女になった時のことだ。
『お、俺……これから、どうしたらいいんだ……?』
自身のアイデンティティの喪失。思春期の子供には重すぎる出来事。私に縋り付いた彼女の顔は、絶望に染まりながらも私なら信じてくれると、僅かな期待を覗かせていた。
それに対する私の第一声──
『……誰?』
冗句のつもりだったが、彼女にとってはたまらない。
絶望一色の表情を目の当たりにした私は、不覚にも、不覚にも興奮してしまったのだ。
……この感情は墓まで持っていくつもりだったが、最近はどうにも抑えきれなくなってきた。
「おーい、だんまりかぁ?」
よって
パ ァ ン ッ
室内に乾いた音が響く。
少し痺れた右手に心地よさを感じながら彼女を見やる。
「 」
左頬を赤くした彼女は、ただ呆然とこちらを見ている。
私は、努めて冷静に見下した。
徐々に彼女の体が震えてきたのが分かる。彼女が左頬を抑えたあたりで、その瞳に光が灯る。
「……な、なに……なんで……」
それは、暗い、暗い、絶望の光だった。