表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/294

第14話 【妄想が】和泉ゆうなと、デートに行ってみた【現実に】 2/2

「ふふーん♪ ゆうくんとー、お出掛けデートっ♪」



 ごとごと電車に揺られながら、結花ゆうかはなんか変な鼻歌を歌ってる。


 ストレートロングにした茶髪の上には、目深にかぶった黒いキャップ。

 服装はピンクのチュニックと、チェックのミニスカート。


『ツインテールは目立つから髪をおろす』『顔が隠れるようキャップをかぶる』――確かにこの妥協案で、出掛けることになったんだけどさ。



 やっぱ怪しいよな。これでも。


 有名人がお忍びで遊びに出掛けてる感が出てないか、なんかそわそわしてしまう。



「ね。遊くんも、楽しんでる?」



 そう言ってぐいっと、俺の顔を覗き込んでくる結花。


 メイクのおかげで、いつも以上にまつ毛が長くて、くりっと大きく見える目元。

 香水でもしてるのか、いつもより鼻腔をくすぐってくる、甘い香り。



 ああ――ゆうなちゃんだ。



 脳内に危ない薬が回ったみたいに、俺の脳機能が停止していくのを感じる。


 全身の力が抜けていく。頬が自然と緩んでいく。


 ここか……天国は。



「ちょっとぉ! 聞いてる、遊くん?」


「はっ!! う、うん。もちろん、楽しいよ……」


「……ほんとぉ? なんか、ぎこちないんだけどなぁ」



 唇を尖らせながら、俺のことをじっと見つめる結花。


 間近で感じる呼吸。



 ――香りや息づかいまでは、『アリステ』に実装されてない。当たり前だけど。


 だから、見れば見るほど……ゆうなちゃんが現実世界に現れたみたいに錯覚して、胸の鼓動が速くなってしまう。



「うーん……よしっ! じゃあ、こうだ!!」

「――――ちょっ!?」



 ぎゅう……っと。


 結花が俺の腕に抱きついて、頬をぴとっと肩のあたりにくっつけてきた。



 服越しに伝わってくる、ほのかな体温。


 キャップをかぶってくれてて良かった……そうじゃないと、さらさらの髪の毛にくすぐられて、俺の心はぶっ壊れてたと思うから。



「どう……かな?」

「どうっ、て……えっと……」



 ぎゅうぅぅ……。


 結花が俺の腕に力を籠める。


 あ……これ死ぬ。



「どうかな?」


「圧を掛けてきたなって思うよ、素直に」


「どうですかぁ?」



 ぎゅうぅぅぅぅぅ……。



 結花が「これはいける」と判断したんだろう。


 俺を本気で、殺しにきてる。



「可愛い! 可愛いから!! ドキドキして死にそうだから、取りあえず離れて!」



 命の危険を感じた俺は、堪らずギブアップ宣言。


 そんな俺の反応に満足したのか――結花は俺の腕から離れると、ドヤ顔で言った。



「えへっ。可愛いなら、良しとしようっ!」





 そんな感じで、結花がノリにノってる初デートだけど。


 急遽決めたもんだから、遊園地とか水族館とか、気の利いたところに行くでもなく。


 ひとまず三駅ほど離れた町で、ぶらりと散歩することになった。



「よーっし! お出掛け、頑張るぞー!!」



 そんな気合を入れて出掛けんでも。


 白のTシャツに紺色のシャツを羽織っただけの、しゃれっ気もない俺。

 ピンクの可愛い服に茶色いロングヘア(キャップ付き)な、おしゃれすぎる結花。


 これ、周りから不釣り合いなカップルだって、目立ったりしてないよな?



 和泉いずみゆうなのスキャンダルになって、結花が傷つくことになったらと思うと……気が気じゃない。



「遊くんっ。あそこのショッピングモールに行ってみよっ?」



 割とへんぴな場所だってのに、ショッピングモールはなぜだか、それなりに大きい。


 取りあえず一階を見て回る。



「あ、遊くんっ。本屋さんだよー」



 俺と結花は本屋に入ると、即座にマンガコーナーへと移動した。


 このあたりは、オタク同士の阿吽の呼吸だ。



「あ、遊くん! あれ、さっき観てたアニメの原作だよっ」


「ああ。あのモヒカン男子の……ってこれ、二十三巻も出てるの!?」



 あの状況から一体、どうやってここまで連載を続けてるのか。

 それともアニメが、原作無視で無茶なストーリー展開をしてるのか。



「……お。『魔滅まめつのヤバイバ』が平積みされてる」


「あ、ほんとだ。最終巻もあるね。売り切れ続出で、全然手に入らないって聞いたけど」



 知ってるマンガを見つけては、他愛もない会話を交わす俺たち。


 それは、普段の家でのコミュニケーションと、大きく違いはないんだけど。


 なんだか、ゆうなちゃんの格好をした結花だからか――新鮮な感じ。



「ねぇ、遊くん。あそこの服屋さん、見ていっても大丈夫?」


「ん? かまわないよ」


「ほんと? 男の人は、女子の買い物が長いとイラッとするって聞いたけど……」


「それは人によるんじゃない? 俺は三時間とか四時間とか、そういうレベルならともかく、ちょっと待つくらい平気だよ」



 そういえば、那由なゆがまだ日本にいた頃、よく買い物に付き合わされてたっけ。


「まだ?」とか声を掛けようもんなら、「はぁ? こんな時間も待てないとか、さすが非モテ。マジないわ」と罵られ。


 いざ帰るってなれば、「兄さん、男っしょ? こんな重いもの妹に持たせるとか、ありえないし」と大量の荷物を渡され。



 ……あれ、やっぱり理不尽だよな。今ならそう思うわ。



「じゃあ遊くん、ちょっと待っててね! 試着するとき、遊くんに見てもらうから!!」


 そう言い残して、そそくさと店内に入っていく結花。



 その後ろ姿を見送ってから、『アリステ』でもやろうかなとか考えてると――。



「ん?」

「へっ?」



 目の前に通り掛かった、見知った顔と――目が合った。


 え、なんで?


 わざわざ少し離れた町を選んだってのに……。




 どうして――――二原にはらさんが、こんなとこにいるんだよ!?

※令和3年3月27日 加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] LINE的なシステムでゆうなにしばらく待機を知らせないと鉢合わせすると色々バレるぞw まぁこの際バラして修羅場?だか仲良くなるだかに発展してもいいかもだけどw
[一言] 出かけられたんだ。そりゃ、喜ぶ。 しかし、見つかる。「ゆうな」が誰だか判っちゃうかな? 彼の服、についても見立てた方が良いかも。次のデートのために。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ