第38話 【超絶朗報】俺の許嫁、可愛いしかない 1/3
「おねちゃんー。コスモミラクルダイナマイトー」
男の子はキリッと眉を吊り上げると、てこてこと結花に向かって走っていった。
そして、ぶつかると。
「どーん!」
「うわぁ、やられたぁ」
結花がわざと、地面に転んでみせる。
それを見て、男の子は嬉しそうに両手を挙げて喜ぶ。
なんていうか……和むなぁ。
眼鏡にポニーテールという、『綿苗結花』の格好にもかかわらず、結花の表情は学校と違って柔らかい。相手が子どもだからかな。
――――学校の綿苗結花。
ゆうなちゃんを演じる和泉ゆうな。
そして、家での結花。
色んな顔があるけど、子どもと戯れている結花は……また違う顔。
どれが嘘とか、どれが本当とかじゃなくって。
色んな結花がいて、その全部が結花なんだよな。
多分きっと、俺にも色んな顔があるんだろう。
そういうのを、全部ひっくるめて――俺も『佐方遊一』なんだと思う。
「よーし……今度はお兄ちゃんに、やってみよっか?」
「うん。コスモミラクルダイナマイト!」
男の子は、そこだけ流暢に発音すると。
俺に向かって、てこてこと駆けてくる。
そして、俺の腰元にタックルしてきたから。
「ぐわああああ、やーらーれーたー!!」
派手な声を上げて、俺は地面をごろごろと転がってみせた。
我ながら迫真の演技。
これで、子どもの心をがっちりキャッチ――。
――――――ゴンッ!
「いってぇぇぇぇ!?」
「ちょっ、遊く――佐方くん!? 大丈夫?」
調子に乗った結果、俺は大樹の根っこに、したたかに頭をぶつけた。
「もー……やりすぎ」
「面目ない……」
座り込んだまま頭を押さえる俺のそばに駆け寄って、結花はため息を吐く。
そんな俺たち二人を、じーっと見つめる男の子。
「おねちゃんと、おにちゃん。けっこんしてるの?」
「えっ!?」
「な、何を言ってるのかなぁ!?」
「だって、なかよしさんだよ?」
あたふたする俺と結花を、幼児さんの純粋な瞳が見つめている。
いや、確かに結婚に近い関係なんだけどさ。
それはみんなにバレちゃ駄目なやつっていうか、秘密の関係っていうか……。
「たっくーん!」
「あ、ママ!!」
俺たちがなんとも返答できずに黙り込んでると。
男の子のお母さんらしい人が、慌てて駆け寄ってきた。
瞬間――男の子の顔が、ぱぁっと明るくなる。
お母さんは男の子をギュッと抱き締めると、その頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ごめんね、お仕事で遅くなっちゃって」
「ううん。おにちゃんたちが、あそんでくれたー!」
「まぁ、そうなんですか! ありがとうございます、うちの子と遊んでくれて」
お母さんはぺこぺこと頭を下げながら、俺たちにお礼を言ってくれた。
隣でお母さんの真似をして、男の子もぺこぺこしてる。
なんとも微笑ましい、家族の光景。
「よかったね。ママが来てくれて」
「うん!」
結花が目を細めて笑う。
その穏やかな表情を見ていると――なんだか俺まで、温かい気持ちになった。




