☆もう、ずーっと……幸せだったんだ☆
『大体は、らんむから聞いたわ。なんでそんなこと……したのよ、ゆうな……』
遊くんがお風呂に入ってる間に。
私は自分の部屋で、久留実さんに電話をかけていました。
そしたら、電話口の向こうの久留実さんが、涙声になってきたから……私もキュッと、胸が痛くなっちゃう。
だけど、それでも私は――素直な気持ちを伝えました。
「ごめんなさい、久留実さん。それでも私は、やっぱり――らんむ先輩に、悲しい顔をしてほしくなかったんです」
『……馬鹿ね……本当に、ゆうなってば……』
上擦った声で、久留実さんはそう言って。
少しだけ――笑ってくれたような気がしました。
『そんな優しいあなただからこそ――わたしはずっと、支えていきたいって思ってるわ。忘れないで。何があったって、鉢川久留実は絶対に……ゆうなのマネージャーだからね』
「……はいっ! ありがとうございます、久留実さん」
いつもご迷惑ばっかりで、ごめんなさい。
だけど――同時に、思いました。
久留実さんもだし。桃ちゃんや来夢さん。掘田さんや……みんな、みーんな。
私の周りには、優しい人しかいなくって――本当に温かいなぁ、って。
――――久留実さんから伝えられたのは、大きく二つです。
ひとつは、『60Pプロダクション』として、何か法的な対応ができないかを調べるらしいってこと。
そして、もうひとつは……今後のことを考えていくために。
明日、偉い人たちと私とで、お話をするってこと。
「ひぃぃぃ……偉い人とお話とか、緊張するよぉぉぉ……」
電話を切ったところで、声に出さずにはいられませんでした。
久留実さんも一緒にいるけど、それにしたってなぁ。さすがにビクビクしちゃうよ。
偉い人の一人は、『60Pプロダクション』の代表取締役。
この事務所で一番偉い人――六条麗香社長。
もう一人は、専務取締役兼アクター養成部長っていう、難しいお仕事をしてる人。
事務所で二番目に偉いらしい――真伽ケイさん。
「……なんだか、すっごい大ごとになっちゃったなぁ」
口にした途端、今までの疲れがドッと出て――私はお布団に倒れ込みました。
敷いたばっかりの冷たいお布団に触れてると、なんだか胸の奥が冷えてきちゃう。
これまであんなに頑張ってきた来夢さんが、『カマガミ』さんのせいで――夢を潰されちゃうのだけは、本当に嫌でした。
来夢さんとの件でも、お義母さんのことでも、いっぱい傷ついてきた遊くんが……また誰かから傷つけられるのは、もっと嫌でした。
だから私は、無意識に。
『カマガミ』さんに立ち向かって、自分が標的になることを選んじゃいました。
――二人が傷つくよりは、私が傷つく方がいい。
その気持ちは変わらないから、後悔はしてないけど。
やっぱりちょっとだけ……怖いよ、遊くん……。
――――こんな気持ちになったのって、いつ以来だろ?
昔の私は、よく一人で泣いてたっけ。
家に引き籠もって、部屋の中で布団をかぶってたときも、そうだったし。
声優デビューしたばっかりで、音響監督さんにこってり絞られた後も、そうだった。
だけど、『恋する死神』さんと出逢って。
私は笑顔のまま――前向きに頑張るようになった。
そして、遊くんと出逢って。
毎日が楽しいしかない、そんな世界が――私の前に、広がるようになったんだ。
「もう、ずーっと……幸せだったんだなぁ。あんなに辛かったことが、全部遠い昔になっちゃうくらいに」
本当に、ありがとうね――大好きな遊くん。
私にいっぱいの、笑顔をくれて。




