第19話 第二回『八人のアリス』が気になりすぎて、夜も眠れなかった件 1/2
『もうすぐ結果が発表されるけれど……貴方も「八人のアリス」に選ばれる可能性は、十分にあると思うわ。ゆうな』
「そ、そうですか……? 自分ではあんまり、自信ないですけど……」
『自信というのは、湧いてくるのを持つものではないわ。自分の手で築き上げるものよ。そうして作り上げた自信が――パフォーマンスを向上させ、結果に繋がり、さらなる自信を生み出していく。そういうものじゃないかしら?』
――土曜日のリビングで。
スマホをテーブルに置いて、スピーカー設定にした状態で……結花は正座のまま、紫ノ宮らんむの話を聞いていた。
紫ノ宮らんむは相変わらず、めちゃくちゃストイックだな。
さすがは『第一回 八人のアリス投票』で『六番目のアリス』に選ばれた、実力派声優というか。
そんな風に思っていたところ、紫ノ宮らんむは……ふっと息を吐き出した。
『とにかく……私は、貴方も「八人のアリス」に選ばれると思っている。だから、先に言っておくわね――お披露目イベントで共演することを、楽しみにしているわ』
「は、はい! そうなれるよう、祈ってますし……共演できたときは全力で、一緒に舞台を盛り上げますっ!!」
そんな感じで、通話を終えると。
結花は「ふにゃあ……」っと声を漏らして、カーペットにごろんとした。
「ゆーくーん……どうかなぁ? ゆうな、『八人のアリス』に選ばれてると思う?」
「選ばれてるよ、絶対。だって、ゆうなちゃんも……和泉ゆうなも。これまでたくさん、努力してきたんだから」
寸分の迷いもなく、俺は答えた。
だって、あまりにも当たり前のことを聞かれたから。
「……あははっ、そんなドヤ顔で言わないでよ。なんだか、照れちゃうじゃんよぉ」
そう言って笑いながら。
結花は右手を天にかざして――薬指に輝いてる指輪を見つめる。
「そうだよね、きっと良い結果になるよね。だって私には――『恋する死神』さんが、ついてるんだものっ!」
――――神の創りし、偉大なるソシャゲが存在する。
その名は『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』、通称『アリステ』。
忘れもしない中三の冬。
リリースされた直後だったこのゲームは、来夢の件でボロボロになっていた俺の心を、救ってくれた。
百人近い『アリスアイドル』には、フルボイスが実装されていて。
定期的に開催されるイベント。声優が交代でパーソナリティを務めるネットラジオ。頻繁に行われるキャストによる生配信。
とにかく――ユーザーを満足させる企画が、目白押しだ。
数名の『アリスアイドル』で結成されたユニットも、いくつか発表されている。
『ゆらゆら★革命 with 油』も、そのひとつ。
その上、先日の発表によると――『ニューアリスアイドルオーディション☆』を開催して、新しい『アリスアイドル』を追加する予定らしい。
ますます広がる、『アリステ』の世界。
ああ、『アリステ』に出逢えて……本当に良かった。
そんな『アリステ』には――いわゆる人気投票が、存在する。
かつては『神イレブン投票』として実施されていた、人気投票。
前回からは、システムが大々的に刷新されて、『八人のアリス投票』として生まれ変わった。
その『第一回 八人のアリス投票』で六位――『六番目のアリス』に輝いたのが、紫ノ宮らんむ演じる、らんむちゃんだ。
ちなみにそのとき、でるちゃんは十八位。
ゆうなちゃんは、三十九位だった。
……まぁ別に、ゆうなちゃんが何位だろうと、かまわないんだけどね。
公式順位がどうだろうと、俺の中ではいつだって――ゆうなちゃんは宇宙で一番、なんだから。
――――だけど、和泉ゆうなが。
結花がどれだけ頑張ってきたのかを、一番近くで見ているからこそ。
その努力が実ってほしいって、『第二回 八人のアリス投票』で結果に繋がっていてほしいって――願わずにはいられない。




