第17話 世界は意外と優しくて、もう少し信じてみようって思えたんだ 1/2
バレンタインデー&結花の誕生日から、一晩が明けて。
いつもどおりの流れで、朝食と仕度を済ませた俺は。
同じく準備を終えて、ポニーテール&眼鏡の学校仕様になった結花と。
リビングのソファの上で――プチ揉めしていた。
「結花……さすがに良くないって。このままずっと、してるのは」
「やだ! だって、してたいもん。ずーっと、してたいのー!!」
「駄目だって……あのね、これから学校だよ? 学校に行くのに、してるわけにはいかないでしょ? ほら、家に帰ってから、またすればいいじゃない」
「やーだー、ずっとしてたいのー。抜くのやだもん。うえーん、いじわるー!!」
「泣き真似しても、駄目なもんはだーめ。ほら、抜くよ?」
「うにゃあ、やだよぉ……ねぇ、抜いちゃやだぁ……遊くんと、ずっと繋がってたいのぉ。だから……ね? 抜かないで、遊くん?」
――――えっと。
指輪の話でいいんだよね?
駄々こねたり、泣き真似したり、泣き落としに掛かったり。
結花が変な拒否の仕方するから、なんか俺の脳がバグって、妙に身体がむずむずしてきたんだけど。
「だから結花……指輪をしたまま学校に行くのは、駄目だってば。家に帰ったら、またつけていいんだから――ほら、取りあえず指から抜くよ」
「にゃあああああ!? 遊くんが! 私から! 指輪を抜こうとするー!! 抜かないで、抜かないでぇー! 遊くんとの大切な……愛の繋がりなのにー!!」
大騒ぎする結花を押さえて、強引に指輪を外すと。
俺はピンク色のリングケースの中に、指輪を仕舞った。
結花はというと……めちゃくちゃ恨みがましそうな顔で、こちらを見ている。
「……抜けちゃったじゃんよ。遊くんがここから、いなくなっちゃった……」
「えっと……さっきから、わざと悶々とさせる攻撃してるの? それとも、ただのお馬鹿さんなの?」
「お馬鹿さんってなにが!? 指輪を取られた上に罵倒された……昨日の遊くんは、あんなに優しかったのに。私をもてあそんだのねー!!」
さっきからなんなの、その言葉のチョイス?
結花だからなぁ……ただの天然のような気もするし。
実はわざと、マンガか何かで得た知識を使って、からかっているような気もする。
まぁいいや――今は別に、天然か小悪魔かは重要じゃないし。
「……あのね、結花? 昨日、結花はクラスメートの前で、俺にバレンタインチョコを渡したよね?」
「……ひょっとして、怒ってる? みんなの前で、目立つことしちゃったから」
「ううん。それは全然、気にしてないよ」
少しだけ不安そうな顔をする結花に対して。
俺はできるだけ穏やかな口調で、言った。
「確かにこれまで、俺たちが親しい間柄だってことは……秘密にしてきたよ。周りから変にからかわれないようにって。だけど――昨日のクラスの感じを見て、思ったんだ。意外とみんな、優しいんだなって」
――中三の冬。凍てつくほど冷たい空気を味わって。
ずっと、三次元との恋愛も……誰かに秘密を話すことも、避けてきたけど。
思っていたよりも、世界は優しいものだったから。
もう少しくらい――周りを信じてもいいかもなって、思ったんだ。
「だからさ。これからは……たとえば教室で喋ったりとか、一緒にご飯食べたりとか。なんていうか――普通の高校生の男女がするようなことは、別にこそこそしなくていいかなって……思ってるんだけど」
「え、ほんとに!? 桃ちゃんや倉井くんみたいに、休憩時間に遊くんに話し掛けたりしていいの!? 遊くんのお顔見ながら、ご飯を食べるのも? そ、そんな天国みたいなことが、あってもいいのっ!?」
「――――ただし」
こちらの提案を受けて、めちゃくちゃテンションの上がった結花を制して。
俺は努めて冷静に、言った。
「婚約とか同棲とかまでバラすのは、さすがにハードル高いでしょ? だから……指輪は駄目。それが守れないんだったら、リスクが高すぎるので――全部なしです」
「ううっ……遊くんってば、策士すぎ……そんなの言われたら、はいって言うしか、ないじゃんよぉ」
そんな感じで、ぶつぶつ文句を言ったあと。
結花はいつもどおりの笑顔に戻って、言った。
「分かりましたー。ちゃんと学校では、わきまえまーす。だからー……許して、ね? ゆうくーん……ちゅっ」
――ちょっと。不意打ちで投げキッスするの、やめてくんない?
やっぱり、最近の結花って……天然より小悪魔の方が、勝ってきてるような気がする。
 




