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第5話 【衝撃】『死神』を巡って、俺の許嫁と昔の友達が…… 1/2

 第二回『八人のアリス』に、ゆうなちゃんが選ばれるよう祈願するべく、俺と結花ゆうかは近所の神社を訪れていた。


 そこで結花が取り出したのは、俺こと、『恋する死神』からのファンレター。


 ――だけど、運命のいたずらのように。


 ファンレターは風に煽られて……一人の少女のもとに、届いてしまった。



「……来夢らいむ? なんで来夢が、ここに?」



 栗毛色のショートボブ。少し太めの眉。

 だぼっとした黄緑のスウェットの下から伸びる、ほっそりと色白な脚。


 そんな昔と変わらない佇まいのまま――野々花(ののはな)来夢は、のほほんと笑った。



「えー? それは、こっちのセリフだなぁ。こんなところで遊一ゆういちと会うなんて思わないから、びっくりしちゃったよ」


 動揺する俺とは正反対に、なんでもない顔の来夢。



「そもそも遊一って、神頼みとかする方だったっけ?」


「そういう来夢こそ。神頼みとか、全然しないタイプだっただろ」


「あははー。確かに普段はしないかもね。今日はちょっと、知り合いに感化されちゃってねぇ。たまには験を担ぐのも悪くないかもなぁって思って、来たんだー」



 目を細めつつ、なんだか嬉しそうに笑うと。

 来夢は手に持っていた封筒を、俺の方へ差し出してきた。



「まー、あたしのことは置いといてさ? はい、遊一。これ、落とし物だ――」



 言い掛けたところで。


 来夢は初めて、封筒に書かれた送り主の名前を目にして――。




「…………『恋する死神』?」




 ――――ぞわっと。

 全身の毛が逆立つのを感じた。


 だって、『恋する死神』の名前を呼ぶ来夢の声が――やけに重々しかったから。



「……この名前って?」

「あ、ああ……いわゆる、ペンネームってやつで」



 いつも飄々としていて、何が起きても動じないことの方が多い来夢だけど。


 なんでだろう?


 今は少しだけ――動揺しているように見える。



「ペンネーム……じゃあ、遊一の名前なんだ?」


「あ、ああ。ほら、ファンレターとかラジオへの投稿とか、そういうのってあるだろ? そのときに使ってるのが、このペンネームで……」


「そっかぁ――誰に送るときに、使ってるの?」


「え? えっと、あー……言いづらいけど。応援してる、声優さんっていうか……」



 俺が愛してやまない、ゆうなちゃんを演じる――和泉いずみゆうなちゃんだ!


 ……なんて、さすがに言えないだろ。


 何が悲しくて、昔フラれた相手に自分の推し語りをするんだよ。

 そんなことしたら、しばらく夢でうなされちゃうって。恥ずかしさの極みすぎて。



「ゆ……ゆーくーんっ!」


 そうこうしてるうちに、結花が息も絶え絶えになりながら、こちらに走ってきた。



「あ、あれ? 来夢さん?」


「……あははー。お久しぶりです、結花さん」


「え、え? ゆうくん、どうして来夢さんと……はっ! こ、これはまさか、うわ……!?」


「違うから! 浮気とかじゃないから!!」


「そうだよー、結花さん。あたしがたまたま、これを拾っちゃっただけなんだぁ」



 来夢はそう言うと。

 俺が手に取らずにいたファンレターを――改めて、結花の方に差し出した。


 ファンレターを目にした途端、ぱぁっと明るい顔になる結花。



「あ……それ! ありがとうございます、来夢さん!! 私がドジなことして、風で飛ばされちゃって……」


「そっかぁ、結花さんのだったんだねー。そんなに大切なものだったの?」


「はい! ……とっても、大事なものなんです」



 少し照れた顔をしながら、結花は手を伸ばして。

 来夢の手から、ファンレターを受け取った。




「それじゃあ――遊一の応援してる声優さんって、結花さんのことなんだ?」




 ビクッと、結花の手が震える。


 同じく俺も、背筋が凍るのを感じた。


 そんな俺と結花を交互に見ながら……来夢は淡々と続ける。



「まず、この手紙を書いたのは――遊一。自分でそう言ってたもんね。そして遊一は、手紙を送った相手のことを、『応援してる声優さん』だとも言ってた。つまり、手紙の持ち主である結花さんは――――遊一の応援してる声優さん、君だ!!」



 最後の最後で、来夢が声を張り上げた。

 その声量に度肝を抜かれて、俺も結花も固まってしまう。



「……あははー。ごめんごめん、ちょっとやりすぎちゃったね?」


 来夢の声のトーンがすっと、普段のものに戻った。

 そしてポンッと、両手を合わせると。



「名探偵役って、やったことないなーとか思ったら……つい演劇モードになっちゃった。ごめんねー、びっくりしたよね?」


「びっくりなんてもんじゃないですよ、来夢さん……心臓が飛び出すかと思いました」


「あははー。だけど、驚いたのはこっちもだよ? まさか結花さんが、遊一の応援してる声優さんだなんて。すごいねー、ファンと声優さんが結ばれたってことでしょ?」


「え……えへへ、まぁ……そんな感じです」



 結花、結花。

 だらしない顔になってる、にやけが出ちゃってるから!


 そんな結花のそばで、来夢は俺の方に視線を向けると、にこっと笑った。



「取りあえず、安心してね。あたし、他人の恋愛とか秘密とか、そういうのを言いふらすのって大嫌いだから……誰にも言わないよ。中三のときのことだって、前に説明したとおりだしさ」


「あ、ああ……大丈夫。中三のときのは、俺が誤解してただけって、分かったから」


「ありがとー、遊一。本当にああいうの、嫌いだからねー……例の噂を流した男子にだって、ちゃんとお仕置きしたんだよ? 何とは言わないけど」



 何したか言ってくれないと、余計怖いんだけど?

 ニコニコしてる人が、がっつりお仕置きしてくるシーンとか、絶対やばいやつだし。


 そんな風に思いつつ、俺は来夢のことをじっと見る。


 ――昔から、誰とでも気さくに話ができて。

 ほわほわした言動が多いけど、何事もそつなくこなす。


 だけど……どこか底知れないものを、感じさせる。

 そういう不思議な存在なんだよな――野々花来夢っていう子は。



「だけどね……ちょっとだけ、もやっとしちゃうんだ」



 ――すると突然。

 来夢が少しだけ語気を強めた。


 そして、いつもと変わらない笑顔のまま。

 来夢は結花に……言ったんだ。




「演者とファンが交際するのって――あんまり好きじゃないから」

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとPDFでらんむの記述をあたってみました。彼女の容姿の記述は凄く少ないんですね。でも… 練習の時も含めて「らんむ」になっている間は別人になっていた、ということですか。 さて、★の回収…
[一言] この話題には既視感が、、予想が正しいなら相手がわかって嫉妬で蒸し返してる?先輩との面識はあるはずなのでハズレなのかもだけど。
[一言] 人の思想は人それぞれ。信条を持つことに罪はない。 でも、それを他者に押し付けるのは明らかに罪。 それ、この場で態々と言う必要無いですよね。 しかも、自分が応援してる相手がそうで幻滅したとかな…
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