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☆先輩の可愛いところ、見ちゃいましたっ☆

「ゆうな。今の振り、少し遅れているわ」

「は、はい! すみません、らんむ先輩!!」


 膝に手をついて息を切らしてたら、らんむ先輩にズバッと言われちゃいました。


 ふへぇ……らんむ先輩ってば、すごいなぁ。

 同じ練習してるはずなのに、呼吸ひとつ乱してないんだもん。



 ――ここは『60Pプロダクション』の事務所にある、ダンススタジオ。

 今日は一日このスタジオを借りて、張り切って新曲の練習していますっ!



 ツインテールにセットした茶髪のウィッグをかぶって、上下ピンクのジャージを着た私――和泉いずみゆうなと。


 紫色のスウェット姿で、優雅に佇む紫ノ宮(しのみや)らんむ先輩。


 オフショルダーのTシャツ&赤のショートパンツって格好で、ぐったりしてる掘田ほったでるさん。



 そう……『ゆらゆら★革命 with (ゆー)』の、三人で!



「ら、らんむ……ちょっと休憩しようって……死ぬ……」

「さっきも休憩しませんでした、掘田さん?」

「あんたらほど若くないの……悪かったわね……っ!」



 恨み言みたいにそう言って、その場で大の字に寝っ転がった掘田さん。

 練習で熱が上がったからか、ほっぺたが真っ赤になってる。


 …………か、可愛いっ!


 掘田さんって、もともと私より小柄だし、目もくりくりで大きいんだよね。

 先輩なのに申し訳ないけど――ギューッてして、撫で回したいなーって思っちゃう。



「……ねぇ、ゆうなちゃん。今なんか、失礼なこと考えなかった?」


「え!? そ、そんなまさか! 掘田さんが萌えキャラすぎて、なでなでしてギューッてしたいだなんて、絶対に思ってないですっ!!」


「よーし、喧嘩だな! 買ってやるわよ、石油一バレルで!!」


「……あの。元気になったのなら、早く練習を再開したいのですが」



 そんなやり取りをしていたら、スタジオのドアが、ガチャッと開きました。



「三人とも、練習に精が出るわね」


 顔を覗かせたのは、私とらんむ先輩のマネージャーの、久留実くるみさん!


 いつも思うけど、ショートボブな茶髪とタイトスカートの組み合わせって、なんだか大人びて見えるよね。

 ゆうくんも、こういう大人な魅力で迫ったら……ドキドキしてくれるのかな?



「なぁに、くるみん? 差し入れ持ってきてくれたわけ?」


「持ってきたわよ。はい、シュークリーム」


「わぁ、ありがとうございますっ! ここのシュークリーム、おいしいんですよね!!」


「食べたら、練習に戻りましょう。時間は有限。だらけている暇など、ないのだから」


「スパルタすぎんのよ、らんむは! 分かったってば、ちゃんとやるから!!」


「……ぷっ。あはははっ! やっぱり君たちは面白いね、見ていて飽きないよ」



 ――その声を聞いた途端。

 私たち三人は、ピシッと姿勢を正しました。


 だって。久留実さんの後ろから顔を見せた、この人は……。



「ああ。そんなにかしこまらないでくれ。たまたま事務所に来ていたら、鉢川はちかわから君たちが練習していると、聞いたものでね。少し見学に来ただけだ」



 高級そうなグレーのスーツ。

 パーマの掛かった、金色に近い鮮やかな色の茶髪。

 右の目元にあるホクロは、なんだか艶やかに感じちゃう。


 そんな圧倒的な存在感を放つのは、この事務所のトップに立つ人。


『60Pプロダクション』代表取締役――六条ろくじょう麗香れいかさんでした。



「ああ、そうだ。紫ノ宮、和泉……先日の『アリラジ』の生配信だが、随分と評判が良かったよ。このまま三人とも、第二回『八人のアリス』に選ばれるといいな」


「は、はい! ありがとうございます、躍進します!!」


「ありがとうございます、六条社長。二人のユニットに、追加で参加させてもらった以上は……結果を残せるよう、全力で頑張ります」



 かしこまりつつ、私と掘田さんは、精一杯の返事をしました。


 だけど、らんむ先輩だけは。



「私は――必ず『トップアリス』に、なってみせます」



 瞳になんだか、静かな炎を燃やしながら――言いました。

 そんならんむ先輩を見て、六条社長は楽しそうに笑ってます。



「ほう? 随分と大きく出たね、紫ノ宮」


「『芝居』に人生を捧げると誓って、私は声優になりました。たとえ他のすべてを捨ててでも、見ている人たちに夢を届けられるよう、全力を尽くしてきました。だから今回こそ、必ず――『トップアリス』になります」


「厚い志だね、相変わらず。その生き様は確か、ケイから学んだんだったかな?」


「ええ、そうです。真伽まとぎケイさんは私にとっての――道しるべです」



 六条社長が相手でも、一切躊躇わずに答えるらんむ先輩。

 やっぱり、らんむ先輩はすごいなぁ。ため息が出ちゃうよ。



「……と、紫ノ宮は言っているが? 何か感想はあるかな」

「からかわないで、麗香……入りづらくなるでしょう?」



 ご機嫌そうな六条社長をたしなめるように、誰かが言いました。

 なんだか聞き馴染みのない声だなぁ、なんて思っていると。


 ゆっくりと、スタジオに入ってくる――一人の女性の姿が。



 それは、たとえるなら……御伽話の中から飛び出した妖精のような。

 この世のものとは思えないほど、綺麗な人でした。


 お人形みたいにぱっちりとした瞳と、滝のようにまっすぐ流れる黒髪。

 百七十は超えてそうな長身だし、まさにモデル体型って感じなのに……微笑んでる様子は、まるで少女みたい。


 知ってる。雑誌とかで見たことある。


 この人は確か、らんむ先輩の憧れの――――。



「………真伽、ケイさん?」



 らんむ先輩が戸惑いがちに、その名前を呼びました。


「ええ。初めまして、『ゆらゆら★革命 with (ゆー)』の皆さん。わたしは、真伽ケイ――『60Pプロダクション』では、専務取締役兼アクター養成部長を務めてます」



 ……本物の、真伽ケイさんだ。


 私が物心つくより前に、日本中を沸き立たせたトップモデルで。

 六条社長と一緒に『60Pプロダクション』を立ち上げた――雲の上の人。



「……ほらぁ。麗香がハードル上げたから、みんな反応に困ってるじゃない」

「単純にケイが、彼女たちの憧れの存在なだけだろう? なぁ、鉢川?」

「え、わたしですか!? ええと……六条社長も真伽さんも、わたしたちにとっては雲の上の方ですので。どちらにも緊張するのが、当然かなと……」



 歯切れ悪く答える久留実さんを尻目に、楽しそうに笑う六条社長。



「まぁ、冗談がすぎたのは事実かもな。それでは改めて……彼女が紫ノ宮だよ、ケイ」


「初めまして、紫ノ宮さん。麗香から噂は聞いているわ。人並み外れた情熱を持って芝居に臨んでいる、素晴らしい才能の持ち主だって」


「い、いえ、とんでもないです。真伽さんに比べたら、私なんてまだまだで……」


「え、何その反応? いつもの強気ならんむは、どうしたのよ?」


「……真伽さんに礼節を尽くすのは当然でしょう? 掘田さん、空気を読んでください」


「あんたとゆうなちゃんにだけは、空気を読めとか言われたくないわ……」



 わぁ……らんむ先輩がこんなにかしこまってるの、初めて見たかも。

 どうしよう。なんだか私まで、緊張してきちゃった……。



「お会いできて光栄です、真伽さん。『トップに立つということは、自分のすべてを捨てる覚悟を持ち、人生のすべてを捧げること』――この言葉が今でも、私の支えなんです」


「わぁ、よく知ってるわね? かなり昔のインタビューで喋った言葉なのに」


「私が『芝居』にすべてを賭すと誓った頃に、この言葉を知って――とても感銘を受けました。真伽さんのこの信条が、道しるべになってくれているから……私は声優として、全力で励めているのだと思います」


「…………そうなんだね。お役に立てたのなら、よかったわ」



 らんむ先輩の言葉から、一拍くらい置いて。

 真伽さんは和やかな調子で、そう応えました。


 それから――くるっと、私と掘田さんの方に身体を向けて。



「和泉さんと掘田さん。二人のことも聞いているわ。とっても個性的で、キラキラ輝いている子たちなんだって」

「ありがとうございます。ユニット最年長として、二人を引っ張れるよう頑張ります!」

「え、えっと……あ、ありがとうございます……」



 あぅぅぅ……テンパりすぎて、ぼそぼそ喋りになっちゃった。。

 私ってば、らんむ先輩と掘田さんに比べて、だめだめすぎるじゃんよぉ……。



「演者には――それぞれの信念があって、それぞれの光がある。正解はひとつじゃないから。だからどうか……三人とも、自分の想いを大切にしてね」



 ――ちょびっとだけ落ち込んでいたのが、馬鹿らしくなるくらい。

 優しすぎる声色で、真伽さんは言いました。



「月並みだけど、応援しているわ。三人が……ううん、この事務所のみんなが。たくさんの笑顔で――羽ばたけるようにって」



 その瞬間の、真伽さんの笑顔は――まるで天使みたいで。


 なんだか分かんないけど、ものすっごく……ドキッとしちゃったのでした。



          ◆



「……えへへへっ」


 練習が終わって、更衣室で着替えていたら。

 私はふっと、真伽さんと話したときのことを思い出して……笑ってしまいました。



「何を呆けているの、ゆうな?」


 そんな私を怪訝そうな顔で見てくる、らんむ先輩。

 ちなみに掘田さんは、早々に着替えを済ませて、ラウンジの方に戻ってます。



「た……たいしたことじゃないんですよ? ただ、真伽さんと話してるときのらんむ先輩が、いつもとのギャップで可愛かったなーって……思ってるだけだと思いますっ!」

「……馬鹿にしているという判断で、いいのかしら?」



 ぎゃああああ!?

 らんむ先輩ってば、目の奥が完全に笑ってないじゃんよ!



「ご、ごめんなさい、らんむ先輩!! で、でも……らんむ先輩の熱い思いに感動したのは、本当なんです。だから私も――『八人のアリス』を目指して、頑張りますっ!」



 私があたふたしながら、説明していたら。

 らんむ先輩も、ふっと――表情を柔らかくしてくれました。



「そうね……お互い頑張りましょう。より一層、高みを目指して」

「いいですね、らんむ先輩! こうなったら、絶対にいい結果を残しましょうね!! いっぱい練習しますし、神社にもお参りしちゃいますっ!」

「この話の流れで、神頼み? まったく……相変わらずね、ゆうなは」



 あ……また私ってば、とぼけたこと言っちゃったかな?

 らんむ先輩の呆れたような反応に、ちょびっと反省していると……。



「だけど、確かに――たまには験を担ぐのも、悪くないかもしれないわね」



 冗談めかしたように、そう言うと。

 らんむ先輩は、目を細めて……にっこり笑ってくれたのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] だれしも、その推しの前では… ですか。 しかし、変装しているわけでもないのに、なぜみんな気が付けないのかなあ… あら話数が付いていない、と思ったのだけれど。☆と★ってそういう意味だったんで…
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