第35話 【超絶朗報】俺の許嫁と、これからも一緒に
両家の顔合わせが終わって、俺と結花はぐったりしながら、家に辿り着いた。
「はぁ……死ぬほど疲れた」
「遊くんお疲れさま……って言いつつ、私もかなり疲れちゃったなぁ……」
うちに泊まっていこうとしていた勇海は、お義父さんとお義母さんに止められて、帰りの新幹線に連行されていった。
親父と那由も、今日はホテルを取っているらしく、顔合わせの後にすぐ別れた。
そうして、結花と二人っきりになったから――緊張の糸がぷつっと切れちゃった感じ。
その後、二人ともシャワーだけで済ませてから、布団を敷いて。
まだ二十一時くらいだけれども、二人とも早々に、布団の中に入った。
普段なら余裕で起きてる時間だけど、疲労のピークがきてるから仕方ない。
そして俺は、布団に入ってすぐ――寝落ちてしまった。
――――だけど、あまりにも早く寝ちゃったせいか。
俺は夜中にふっと、目が覚めてしまった。
目を開けた瞬間、飛び込んできたのは……俺の上で四つん這いになって、唇を近づけている結花の姿。
「……結花?」
「んにゅ? …………んにゃああああああああああ!?」
俺が起きてることに気付いた途端、結花は大絶叫して。
そのまま部屋を飛び出し、バタバタと一階に駆けおりていった。
……夜中だってのに、元気だな。うちの許嫁は。
仕方がないので、俺は布団から這い出ると、階段をおりてリビングに向かう。
そんなリビングの隅っこには。
体育座りをしたまま、ガクガクブルブルと震えてる結花の姿が。
「えっと……今日のこれは、どういうイベントなの?」
「ひぃぃぃぃ……わ、私が遊くんの寝込みを襲ってるところを、見つかってしまった……っ! お嫁さんの許可がもらえたからって、わーいって調子に乗っちゃった、イケナイ結花の姿を……っ!!」
んーと……めちゃくちゃ怯えてるところ悪いけど。
普段もそんなに、やってること変わんないからね?
なんて――いつもどおり、無邪気で天然な結花を眺めていたら。
なんだか俺は、ふっと憑きものが落ちたような……そんな感覚を覚えた。
父母の離婚とか、来夢との一件とか、色んなことを理由にして――三次元女子とは二度と恋愛しないなんて、頑なになってた少し前までの俺。
それって、色んな理由をつけて、自分で自分を『拘束』してただけなんだろうな。
もう傷つかないで済むように。自分の弱い心を隠せるように。
過去のせいにして、自分の気持ちとか行動を縛って……逃げていたんだ。きっと。
だけど、今日――お義父さんと話して、踏ん切りがついた。
ゆうなちゃんのことは、今でも宇宙一愛している。
それを演じる和泉ゆうなのことも、この世界の誰より応援している。
けれど、綿苗結花のことは。
二.五次元だとか、推しの声優だからとか、そういうことじゃなくって……ただ。
――――純粋に、愛しているから。
これからはもう少し、自分の心に素直になろうと思う。
「結花。こっち向いて」
「ひぃぃぃ……悪い子だから怒られちゃうぅぅぅ……」
「怒んないって。ほら、いいから……こっち向いて?」
「……うにゃ」
猫語で答えると、結花はおそるおそるって感じで、俺の方に顔を見せた。
そんな結花の背中に、そっと腕を回して。
俺は結花を、自分の方に抱き寄せるようにして――。
そっと唇に――キスをした。
「………………うにゃああああ!?」
パッと唇を離すと、結花は顔を真っ赤にしてじたばたと身をよじって、そのままカーペットへと倒れ込んだ。
いつもとんでもない攻め方するくせに、攻められると弱いんだから。結花は。
「え? ゆ、遊くんと私……キス、しちゃった!?」
「いや、これまでもしたことあったでしょ……」
「あるけど! 遊くんから自発的にしてきたのなんて……初めてじゃんよ!!」
真っ正面からそう言われると、こっちまで恥ずかしくなるから、やめてほしい。
確かにそうだけどさ。
事故だったり、結花からされたり、結花からねだられてしたりはあったけど……こういう感じでしたのは、初めてだ。
「嫌だった?」
「い、嫌なわけないじゃん! ……めちゃくちゃ嬉しい、です」
うーっと唇を尖らせて、上目遣いにこっちを見てくる結花が愛おしすぎて。
俺はそんな結花のことを――もう一回、ギュッと抱き締める。
「にゃああああああ!? か、過剰サービスすぎるよぉぉ、遊くーんっ!!」
「サービスとかじゃないって。ただ俺が――結花をギュッとしたかっただけ」
「きゃああああああ!? 遊くんが、甘い言葉を囁いてくるよぉぉぉぉ!!」
……えっと。人のことをなんだと思ってんの、結花は?
いつも我慢してるけど、俺にだって……結花を抱き締めたいときくらい、あるっての。
そんな分からず屋な結花のアゴに手を当てて。
俺と向かい合うように、結花の顔をくいっと動かした。
「結花。いつもありがとうね……大好きだよ。愛してる」
「は、はうぅぅぅ……わ、私も、だいしゅき……」
めちゃくちゃ腰が引けた感じで変な声を漏らす結花が、いっそおかしくて。
俺は向かい合ったまま、「あははっ」と笑ってしまった。
「……ぶー。笑わないでよぉ、もぉ」
「ごめんごめん。だって結花が、めちゃくちゃテンパってるから面白くて――」
――――その瞬間。
俺の唇に、柔らかくて甘いものが、優しく触れた。
俺がびっくりして固まっていると、結花はパッと俺から顔を離して。
楽しそうに「べーっ」と舌を出して――言ったんだ。
「お返しだもんねーだっ! 遊くんのばーか……えへへっ。大好きっ」




