第23話 許嫁の愛が大きすぎて、身の危険を感じたことある人いる? 1/2
約二年振りに再会した来夢の口から、中三の冬の真実を告げられて。
俺はようやく、過去の呪縛から解放されたような気がした。
そんな出来事を経て、俺はこれまで以上に――結花を大切にしようって、心に誓ったわけなんだけど。
――――遊一くん。結花が君からもらっているものは、なんだね?
結花のお父さんから投げかけられた、その問い掛けへの『答え』は。
俺の中でまだ……出せていない。
「ゆーゆー……なんだか鳴き声が聞こえるよ! ゆーゆー……あ、こんなところに、可愛い子が落ちてるよ!! ゆゆゆー……こ、これは! 遊くん大好き結花ちゃんっ!!」
――と、物思いに耽っていると。
許嫁がなんか、とんでもない茶番で俺の気を惹こうとしてきた。
カーペットの上にごろんっと、仰向けになって。
腕をじたばたさせながら、脚はまっすぐ天井に向けて伸ばし――って!?
「結花、脚、脚! スカートめくれちゃうから!!」
「…………ちらりっ」
「ぶっ!?」
自分のスカートを掴んで、一瞬だけちらっと、めくって見せてから。
結花はドヤ顔をしつつ、ササッとスカートを整えた。
いや、いくら一瞬だったとはいえ……見えるもんは見えるからね?
どうしてくれんの、俺の脳内が青一色に染まってるんだけど?
「遊くんが好きなので、サービスしちゃいました。どうも、結花ちゃんです!」
「いくらなんでもやりすぎでしょ……いつからそんな子になったの?」
「遊くんのせいだもんねーだ。だから、遊くんの感想がほしいですー。どうも、遊くんの可愛い結花ちゃんです!!」
「いや、死ぬかと思ったよ……素直な感想として」
「……ふへへー。嬉しいってこと、嬉しいってこと?」
俺の感想の何が嬉しかったのか、結花はニコーッと満面の笑みを浮かべると、カーペットの上でごろごろしはじめる。
「遊くん、だーいすきー♪ らぶ、らぶー♪」
「分かったから! 分かったから、スカートでそれやるのやめて!?」
えっと……どうしよう。
来夢との一件があったからなのか、なんなのか。
俺の許嫁の甘え方が――幼児さんレベルまで、退行してる。
◆
――それとは別の日も。
「うー。遊くんも一緒がいいよー。うーうー! 一緒に行こうよー、うにゃー!!」
「行かないよ!? 声優の仕事でしょ、これから!」
「うにゃー、遊くんが怒ったー。えーん、ぎゅー」
玄関あたりで駄々っ子まがいに騒いだかと思うと。
結花は隙を見て、俺の腰あたりに抱きついてきた。
その表情はニコニコとしたもので、かまってオーラを全開にしている。
「……一応、確認するけど。ゆうなと遊一くんは、二十代半ばで彼氏のいない私に対して、マウントを取って精神攻撃をしてるって解釈で……いいのかな?」
「違いますって! っていうか、俺は何もしてないでしょ!?」
そんな俺たちに対して、玄関先に立ったまま、冷たい視線を向けているのは――和泉ゆうなを迎えに来た、マネージャーの鉢川さん。
いつもは表情豊かな鉢川さんだけど、今は驚きの無表情。
「久留実さん……えっと、勘違いさせたんなら、ごめんなさいです。本当に遊くんを連れて現場に行こうとは、思ってないんですよ? 声優のお仕事には、いつだって全力! 私情を挟まず、ファンのために頑張りたいですからっ!!」
「ごめん。ゆうなの発言と行動が一致してなすぎて、いっそ怖いのよ……」
「発言が本音ですっ! ただ、お出掛けしてる間、遊くんに寂しい思いをさせちゃうから――お出掛け前の、甘えっ子サービスをしてるだけなんですっ!!」
「それはそれで、たち悪いわよ! 私の自尊心を殺す気なの、ゆうなは!? 遊一くんもデレデレしちゃって……いいですねぇ、若いって!」
「なんで俺まで怒られるんですか!? 八つ当たりじゃないですか、それ!!」
結花のとんでも発言のおかげで、着火した鉢川さんも交えて、大騒ぎになった。
前から結花はときどき、とんでもない甘え方をしてはいたけど。
来夢と話した後から……日に日にエスカレートしてる気がして怖い。




