表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/294

第11話 【三学期】俺の許嫁と悪友が、すれ違いコントをはじめた件について 1/2

「わったなえさーん! 明けましておめでとー!!」

「……おめでとう、二原にはらさん」


 三学期の始業式。

 登校して一発目の会話から、二原さんと結花ゆうかのテンションの差がひどい。


 新年明けてすぐの電話のときは、無邪気に盛り上がってたのに……学校になると、途端にこうなっちゃうんだもんな。結花は。


 眼鏡を掛けて、長い黒髪をポニーテールに結って。淡々とした態度で、人と接する。

 それが綿苗わたなえ結花――学校仕様。


 そんな二人の様子を、俺は自分の席に座ったまま、ぼんやりと見守っていた。



「久しぶりだねー。どう、元気にしてた?」


「まぁまぁ」


「あれ? 綿苗さん、クラスで打ち上げしたときは、もうちょい打ち解けてなかったっけ? どしたのさ?」


「新年ですから」


「え、年を越したらリセットされちゃう系? マジかー。んじゃ、これからめっちゃ話し掛けて、距離感を取り戻しちゃうかんね!」


「どうぞ」



 新年早々、コミュニケーション下手を発揮しまくってる結花に対して、めげることなくアタックし続ける二原さん。

 さすがだな……俺なら絶対、心が折れてる自信がある。


 茶色く染めた長い髪。ゆるっと着崩したブレザー。そして、誰にでも気さくに話し掛ける性格。

 まさに『陽キャなギャル』という表現がぴったりなのに、実は『特撮ガチ勢』という顔も持っている。


 それが二原桃乃(ももの)――結花の一番の友達だ。



「お、ももー。あけおめー」

「やほー。あけおめ桃乃ー」


 そうこうしているうちに、二原さんを見つけたクラスの女子たちが、わいわいしながら集まってきた。



 あ、結花がパッと下を向いた。


 クラスメートとどんな風に接してたか、久しぶりすぎて分かんなくなってるんだろうな……気持ちは理解できる。


 だけど、集まった女子たちは特に気にすることなく、結花に話し掛けはじめた。



「綿苗さんも、あけおめ!」


「はい、明けました」


「明けましたって……どっちかというと、おめでとうの方がメインじゃない?」


「……おめでたい」


「あははっ! やっぱあたし、綿苗さんのキャラ、ツボだわー。なんか癒される感じがするんだよねぇ。分かる、桃?」


「分かる分かるー! うちも綿苗さんのこと、めっちゃ好き! 可愛すぎ!! 今年もみんなで盛り上がろーね、綿苗さんっ!」


「…………はて?」



 なんでそこで小首を傾げんの。

 テンパりすぎて、結花ってば、もはや頭が回ってないな。


 ――だけど。


 そんな風に、わいわいと喋るクラスメートに囲まれた結花は。

 ちょっとだけ照れくさそうに、微笑んでいたから。



 なんだかこっちまで――温かな気持ちになる。



「よぉ、遊一ゆういち……明けましておめでアリス」



 そんな俺の肩をポンッと叩いて、新年早々『アリステ』絡みをしてきたのは――マサこと、倉井くらい雅春まさはる

 ツンツンヘアと黒縁眼鏡が特徴の、俺の悪友だ。



「そのセリフ、新年『アリステ』五連続ログインボーナスのだろ?」


「ああ……自分の推しキャラのボイスを選択できるっていう、神仕様のな!」


「控えめに言って、最高だったよな――ゆうなちゃんにそれ言われたときは、耳が初夢聞いてんのかと思った」


「だよな! 俺もらんむ様に新年を祝われて――もう今年なんか終わってもいいって、真面目に思ったぜ!!」


「いや。さすがにそれは言い過ぎだろ……」



 中学時代からノリの変わらない、マサとの会話。

 馬鹿みたいなことしか話してないけど、そんな関係の友達と一緒にいるのは、なんだかんだ居心地がいいんだよな。


 そういう意味では、マサには本当に感謝して――。



「――って、そうじゃねぇ! 俺はお前に、本気で怒ってんだぞ遊一!?」

「…………は?」



 なんだよ、急に睨んできて。

 そもそも『アリステ』ネタを振ってきたのは、そっちじゃね?


 新年早々、マサのテンションがジェットコースターすぎるんだけど。



「この間、電話でも言っただろ……水くさいことしてねーで、ちゃんと説明しろってよ」

「ああ……そっか。その話か」



 マサにそう言われて、俺はすっと頭の中が冷静になっていくのを感じた。


 クリスマス当日、たまたまマサと鉢合わせたときに、家結花と一緒にいるところを見られてしまった俺。


 そのときは、急いで那由なゆを捜さないとだったから、説明を流しちゃったけど。



「マサ。その件について、隠すつもりはない。ちゃんと話すよ」



 俺はこれまで、結花との関係を知られて――中学のときみたいに、クラス中のからかいの的になることを恐れてた。


 行き掛かり上、二原さんにはバラすことになったけど……それ以外は。


 一番近しい存在のマサにすら、俺は何も語らずに過ごしてきた。



 だけど――結花のお父さんと話して、思い知ったんだ。



 結花がこれまで、頑張ってきたみたいに。

 俺自身も、過去を乗り越えていかないと……前には進めないんだって。



「そっか……ありがとな、遊一」


「いや、こっちこそすぐに説明しなくて、ごめんな。話すと長くなると思うから――放課後じゃ駄目か?」


「ああ。ちゃんと説明してくれるってんなら、それで構わないぜ。ただ……先にこれだけは言わせてくれ。じゃないと、俺の気持ちが収まらねぇ」


「……なんだよ?」



 マサがいつになく真剣な顔をしてるもんだから、何事かと構えてしまう俺。


 だけど、ここで逃げるわけにはいかないから。

 俺はごくりと生唾を呑み込んで、マサの言葉を待つ。


 そしてマサは、大仰な身振りをつけながら――言った。



「見損なったぞ、お前……心に決めた相手がいながら、浮気するなんてよぉ!!」

「――――浮気? なんの話かしら、佐方さかたくん?」



 そんな、考えうる限り最悪のタイミングで。


 いつの間にか二原さんと一緒にこっちに近づいてきてた結花が、マサの言葉に反応してしまった。



「浮気……? 交際の約束をしていながら、別の女性にうつつを抜かすという――あの浮気という代物を、佐方くんが?」



 待って待って、結花!?


 マサの奴が、やたらとはしょって発言したから、とんでもない爆弾を投下したみたいになってるけど……こいつが言いたかったのは絶対、こういうことなんだって。



・(ゆうなちゃんという)心に決めた相手がいながら

・(三次元女子に)浮気するなんて



 だけど――非常に残念なことに。

 いったん勘違いスイッチの入った結花は、もう止まらない。



「へぇ……聞かせてもらえますか? 新年早々、汚らわしいことをしたという――佐方くんの、お話を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あれだけずっと一緒にいるのだから、浮気している余裕なんてないと判るはずなのに/w そのスイッチはとても簡単に入っちゃうんですねえ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ