第7話 俺の許嫁が、過去の自分にさよならをしたんだ 1/2
初詣に行って、結花の実家に戻った俺たち。
だけど、お義父さんは仕事が長引いてるみたいで、まだ帰ってきていなかった。
「あははっ。父さんが帰ってこないと、生殺しって感じだね、遊にいさん?」
「やめなさい、勇海。『殺し』なんて、物騒なことを言ってはいけないわ……倍返しされたら、どうするの……」
「お母さんこそ、やめてよ!? 遊くんをなんだと思ってんの、もぉー!!」
そんな中――俺は結花・勇海・お義母さんと一緒に、食卓を囲ませてもらっていた。
「ど、どうって……遊一さんは、素敵な方だと思うわ。礼儀正しいし、結花にも勇海にも優しくって……結花にはもったいないほどのお相手よ?」
「……ふへへへへへへ。でしょー? 私の遊くん、素敵でしょー?」
「結花、そこはドヤ顔をする場面じゃないから……遊にいさんの顔を見なよ? 困りすぎて顔が引きつってるって」
「素敵すぎるのよ……素敵な紳士すぎて、裏の顔があるんじゃないかって……っ!!」
「なんで!? お母さん、妄想しすぎだよ! 遊くんに裏の顔なんかないもんっ!! 遊くんはいつだって紳士で……えへへっ。私のこと、大事にしてくれてるんだよ?」
「……そうよね。ごめんなさい、考えすぎちゃって。よかった……クリスマスだからって、サンタの格好をした結花を堪能した遊一さんは、いなかったのね」
「…………イナイヨー?」
「やったのね!? その反応は、やったんでしょ結花!?」
「えっと……二人とも。遊にいさんに迷惑だから、ちょっと黙ろうか?」
なんだこの会話。
ぶっ飛んでるお義母さんと、天然爆発な結花のおかげで、相対的に勇海が常識人みたいに見える……勇海も十分、非常識なのに。
恐るべし、綿苗家。
佐方家も、人のこと言えたメンバーじゃないから、お互い様だけど。
そんなこんなで、結花の実家での一日は、めまぐるしく過ぎていき。
時刻はいつの間にか、二十時に差し掛かっていた。
「お父さんから連絡があって……まだ遅くなりそうだから、遊一さんとの挨拶は明日でお願いしますって……すみません、遊一さん。正月からバタバタしてしまって」
「いいえ、お仕事だから仕方ないですよ。お義母さん、お気遣いありがとうございます」
俺は素直な気持ちで、そう答えた。
明日に挨拶が延期されたのは、勇海の言うとおり生殺し感がすごいけど……仕事なんだから、誰のせいでもない。
「それじゃあ、そろそろ寝ようか。遊にいさんには、どこで寝てもらうの?」
勇海が気を利かせて、結花とお義母さんに投げかけるように言った。
眼鏡を掛けて髪をおろした勇海は、昼間の男装モードとは打って変わって、女の子らしいパジャマ姿。
こういう格好のときの勇海って、全体的に結花に似てるから……なんとなく、ドキッとしちゃうんだよな。
ついでに、家モードの勇海は、胸の主張がとんでもない。男装のときにどうやって隠してるんだか、本気で分かんないほどに。
「……えいっ」
そのときだった。
結花がぐいーっと、俺の腕に自分の腕を絡めてきたのは。
「遊くんは、私の部屋で寝ます。一緒に仲良く寝ます。異論は認めませんっ!」
「待って待って、結花!? 許嫁の実家に来てる俺の身にもなろうか? お義母さんの前で、そんな爆弾発言をされたら――」
「ひぃぃぃぃ……仲良く寝るって、どういうニュアンスなのぉぉぉ……」
ほら見たことか!
心配性なお義母さんが、とんでもない混乱をきたしちゃったじゃん!!
結花。お願いだから、フォローをお願い……って。
「……えっと、結花? なんで俺の腕にしがみついたまま、ジト目で睨んでんの?」
「だって遊くん、勇海の胸が大きいからって、じっと見てたもん」
「……結花、いったん落ち着こう? 話せば分か――」
「分かんないもん! とにかく、遊くんは私と一緒に寝るの。じゃないと……勇海が何をしでかすか、分かんないじゃんよ!!」
「え、僕が!? いくらなんでも冤罪すぎるよ結花! どちらかというと僕は、遊にいさんに卑猥な目で見られた被害者なんだよ!?」
「……なるほど」
そんな姉妹の、泥沼なやり取りを見ていたお義母さんは。
なぜか今までで一番冷静に――呟いた。
「つまり遊一さんは、結花だけじゃなく、勇海にも手を出してる……ってことかしら?」
「全然違いますよ!? なんでそうなるんですか!?」
――それからしばらくの間。
俺は三人それぞれを鎮めるために、孤軍奮闘する羽目になった。




