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第3話 新年の挨拶のパターン、無限にある説 1/2

 那由なゆが親父のいる海外に、勇海いさみ綿苗わたなえ家に、それぞれ帰った数日後。


 俺と結花ゆうかはリビングでごろごろしながら、TVを観ていた。



「あ、ゆうくん! はじまったよ!!」



 スタートしたのは、『今年最後のアニソンランキング』という生放送番組。

 二人でまったりできるよう、テーブルにはミカンやお菓子が、ずらっと並んでいる。


 ――歌番組を観ながら、日付が変わるまで、だらだら過ごす。

 自堕落きわまりない時間の使い方だけど、今日くらいはいいかなって思う。


 だって今日は――大晦日なんだもの。



「わっ! 見て見て、いきなりキャラソンだよ!! 一般向けに遠慮したアニソンランキングじゃないね、これ」


「しかも確かこれ、女性向けアニメに出てくる、男性アイドルユニットでしょ? 演歌をメインに歌ってる、奇抜なユニットとして有名な」


「あれ? 今度は懐メロだ……十年前くらいのアニメじゃなかったっけ、これ?」


「今年リメイクしたんだよ。十年前のアニメ版はオリジナル展開が多かったから、今回は原作を忠実に再現してるって、ネットで見た」


「そっか。確かに、歌ってる人が違うねっ! なるほど、リメイク版の主題歌なんだー」


「だけどこう来ると、もうランキング読めないな……」


「あ! 今度は『五分割された許嫁』の、三女キャラソンじゃん!! 二人でカラオケに行ったとき、熱唱してたよね遊くん」


「歌った歌った。これ、ジャケットカバーも神なんだよね。ヘッドフォンをしたまま、首を傾げて恥ずかしそうに舌を出してるイラスト……控えめに言って可愛さの極みだった」


「――!! こ、こんな感じだよねっ!?」



 言うが早いか、クリスマスに俺がプレゼントしたイヤーマフを装着すると、結花は立ち上がって首を傾げた。


 そしてべーっと舌を出して、俺が挙げたキャライラストを再現する結花。



「……なんでイヤーマフ、リビングに持ってきてんの?」

「ふふふ……まったり年越しするのに、色んなアイテムを持ってきたんだー」



 得意げに胸を張ると、結花はソファの横に置いてた袋から、ごそごそと様々なものを取り出しはじめた。


 和泉いずみゆうなのとき用のウィッグ。


 パーティー用のクラッカー。


 仮面ランナーボイスの武器、声霊銃『トーキングブレイカー』のおもちゃ。


 ネコ耳&もふもふショートパンツ(尻尾付き)。


 スクール水着。



「…………結花は一体、年越しに何をする気なの?」

「遊くんと、まったり楽しく過ごすの!」



 年越しスク水とか、まったりできるわけないでしょ。普通に考えて。


 違う意味で盛り上がっちゃう系のやつだから、取りあえずスク水とかネコ耳とか、早く片付けてほしい。



「えへへー……ゆーうくんっ♪」


 そんなことを考えていると、結花が俺の肩に――こつんと、頭を預けてきた。


 寄り掛かった拍子に、部屋着の水色ワンピースの肩紐がずり落ちて、結花のすべすべとした右肩が露わになる。



「もうすぐ今年も終わっちゃうけど。さてさて遊くんは、私と過ごしたこの九か月、どうでしたかー?」


「どうって……楽しかったよ。色んなことがあって、退屈しなかったな。結花は?」


「…………幸せだったに、決まってるじゃんよ」



 白く艶やかな右肩を露出させたまま、上目遣いに俺の方を見て。

 結花は、くすぐったそうに微笑んだ。



「これまでの人生で、一番幸せな年だったよ。だって、遊くんに出逢えたんだもん」


「う、うん……」


「あ、でもね!」



 俺が気恥ずかしさから答えに窮していたら、結花がパッと声を上げた。


 そして、両手を大きく広げて。


 弾けるような笑顔で、言ったんだ。



「来年、再来年って……これからは毎年、ベスト幸せイヤーが更新されていく予定だよっ! だって遊くんと、一緒なんだもん。楽しくって幸せなことが、これからいっぱい、いーっぱい! あるに決まってるもんねっ!!」



 ――中三の年越しは、ゆうなちゃんと出逢って、来夢らいむとの一件から立ち直った直後だったから。親父と那由がTVを観てる中、『アリステ』のガチャを回してたっけな。


 ――高一の年越しは、『アリステ』のガチャを回しながら、一人年越しをしたっけな。



 だけど今年は……隣で結花が、楽しそうに笑ってる。


 学校ではコミュニケーションが苦手な、クラスメートで。

 声優として、俺の愛する『アリステ』のゆうなちゃんを演じてる、和泉ゆうなで。


 そして家では天然で無邪気な、俺の許嫁。



 万華鏡みたいに色んな顔を見せるけど、どれも素敵に輝いてる……そんな結花がそばで笑ってくれてるから。


 今年の年越しは二人で一緒に、温かな気持ちで新年を迎えたいなって、思うんだ。



 だから。ゆうなちゃんには申し訳ないけど。



『アリステ』のガチャを回すのは――年が明けてからにしよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  年越しスク水  ?年越しスク水???
[一言] 新しい年、果たしてどんな事件が起きるでしょうね。 二人で迎える初めての年越し。まだ一年も経っていないというのが信じられないほどの密度の濃さでしたねえ。
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