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第1話 【ツン】いつも毒舌な妹の様子が、なんかおかしいんだけど【デレ】 1/2

 ――クリスマスが終わってから、妹の様子がおかしい。



 たとえば一昨日。


「なぁ、那由なゆ。今日の夕飯、何がいいかって結花ゆうかが――」

「う……うっさい! 兄さんの丸焼きでいいし!! 頭に着火されて、ファイヤーヘッドになれし、マジで!」



 たとえば昨日。


「おーい、那由。先に風呂、入ってもいい――」

「あっち行け! 風呂の中に電源の入ったドライヤーをぶち込まれて、名探偵の事件にでもなれし、マジで!」



 …………いやまぁ、那由が俺に対して辛辣なのは、前からそうなんだけど。

 いくらなんでも、そこまで言う? って返答が多いんだよな。ここ数日。


 しかもなんか、目が合ったら「けけーっ!」と、アマゾンあたりの獣みたいな声を上げて走り去ってくし。


 いつもの那由をツン百パーセントとしたら、今は百パーセント中の百パーセント。フルパワー那由だ。



 ――その一方で。


「那由ちゃん、見て見てー! この番組で紹介してるお洋服、すっごく可愛いねっ!!」


「……結花ちゃんの方が、可愛いし」


「うにゃ!? 急にぴっとりくっついてきて……もー、那由ちゃんってば可愛いなぁ!」


「な、那由ちゃん? ちょ、ちょっと自重しようか? 結花だってそんなにベタベタされたら迷惑だと、僕は思うよ!?」


「やだ。結花ちゃんから、離れねーし」


「かわっ……!! ふへへ……那由ちゃん、もっとくっついてていーよ! もぉ。勇海いさみはそういう意地悪、言わないのっ」


「ぐぅぅぅぅ……っ!!」



 結花に対しては、いまだかつてないほどのデレムーブなんだよな。

 おかげで勇海のライフは、ガリガリ削られてるけど。



「……なんだかなぁ」


 そんな那由の様子を見て、俺は誰にともなく呟いた。



 クリスマスは昔から、佐方さかた家にとって大切な行事だった。


 小学生だった那由が友達関係で傷ついて、学校に行けなくなったり。

 親父と離婚した母さんが、家を出ていったり。

 来夢らいむにフラれた俺がクラス中に噂をばら撒かれて、三次元限定で女性不信になったり。


 ――色んな寂しい出来事があった。



 そんな我が家だからこそ、クリスマスだけは絶対に、家族で祝おうって決めていた。


 だけど今年のクリスマスは、俺と結花の邪魔をしたくないって思った那由が、一人で我慢しようとして――ちょっとした騒動になった。

 でも。そのおかげで、俺と那由は本音をぶつけ合うことができて。


 最終的には、これまでの人生で最も温かいクリスマスにすることが、できたんだ。



 …………だってのに。



「結花ちゃん。ぎゅっ、だし」


「きゃー! 可愛いー!! えへへ……那由ちゃん。お義姉ねえちゃんの、ぎゅーですよー!!」


「いぃぃぃ……結花の実の妹は僕なのに……!!」


「なぁ、那由。そんなに結花を独占してないで、少しは俺とでも――」


「う、うっさい! 兄さんはどっか行けし!! そのまま大気圏まで行って、流星になって海のど真ん中にでも落下しろし、マジで!!」



 ったく……クリスマスにはあんなに泣いたり、しおらしかったりしたくせに。


 思春期真っ盛りの妹の気持ちは、分かんないな。本当に。



          ◆



 そんな感じで、クリスマスから数日ほど、四人でのんびりと過ごしてたんだけど。


 もうすぐ年越しの時期ってこともあり、明日の昼には那由も勇海もこちらを発つ予定になっている。



「……あれ? 結花?」


 那由のことで、もやっとした気持ちのまま寝入った俺は――眠りが浅かったのか、夜中に目が覚めてしまった。


 だけど、隣で寝ていたはずの結花の姿がない。


 なんだろう……勇海が実家に帰っちゃう前に、二人で話し込んでるとか?

 面倒な絡みをしてくる勇海に、いつも怒ってる結花だけど、なんだかんだ言っても実の姉妹だしな。積もる話でもあるのかもしれない。


 まぁいいや。俺は水でも飲んだら、寝直そうっと。



 ――そんな感じで、廊下に出ると。


 那由の部屋の方から、女子三人の話し声が聞こえてきた。



「……なんで那由の部屋?」


 よくないことだとは分かってるんだけど、つい聞き耳を立ててしまう俺。


「――はぁ。あたし、マジ馬鹿だよね」


「そんなに思い悩むくらいなら、素直に甘えればよかったのに。ふふ……まったく那由ちゃんは、素直になれない可愛い子猫ちゃんだね?」


「勇海には言われたくないんだけど。あんたこそ、イケメン気取って結花ちゃんに甘えられてないっしょ」


「……うぅぅ」


「はいはい、勇海よしよーし。ちゃんと勇海のことも、大事に思ってるからね?」



 那由に言い負かされた勇海に、優しく声を掛ける結花。

 そして結花が、穏やかな口調で言う。



「つまり那由ちゃんは、クリスマスのときに、ゆうくんと本音で話せて嬉しかったんだよね? だから帰る前に、遊くんに甘えたいって思ってる」


「……うん。でも、そういうの恥ずかしいから、これまで兄さんにツンツン接してたわけだし。今さらどんな顔したらいいのか、分かんないっていうか……」


「そうやって迷った結果、ここ数日はいつも以上にツンツンしてたんだね。あははっ、那由ちゃんらしくて可愛いじゃない?」


「うっせ」



 ――ああ、そういうことだったのか。

 やたらとフルパワーのツンをぶつけてくるから、俺のメンタルを根こそぎ削ろうって魂胆なのかと思ってたけど。


 那由の奴……相変わらず、素直じゃないな。



「うん! 大体分かったよ!!」


 廊下で棒立ちになったまま、俺が感傷に耽っていると。

 那由の部屋の中から、結花の張り切った声が聞こえてきた。


「ここは私たちに任せて、那由ちゃん! いつも私と遊くんのことを応援してくれてる那由ちゃんだもん……寂しい気持ちのまま、帰ってほしくないから。だから――那由ちゃんが遊くんに甘えられるように。お義姉ねえちゃんたちが、一肌脱ぐからねっ!!」



 義理の妹の悩み事にも一生懸命な結花。

 そんなところが、結花のいいところなんだって、そうは思うんだけど。



 なんだろう……嫌な予感しかしない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開嬉しい [一言] まぁ普段ツンデレな子がクリスマスで色々限界超えちゃったから仕方ないねw 結花が張り切るとから回る予感がw
[一言] 連載再開、嬉しいです。 素直になれないお年頃、なんですねえ。 はたしてそのお節介が吉と出てくれますかどうか。
[一言] 久しぶりの最新拝見させてもらいました〜人(*´ω`*)♪ 正式に書籍となって本が出ていますが自分は既になろうでほぼ最初から今に至るまで拝見させてもらっていますがクリスマスのその後がずっと気に…
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