第29話 【朗報】俺と許嫁、初めてのクリスマスデートを満喫する 1/2
『倉井には、うまいこと言っといたから! 聖なる夜を楽しんどいで!! あ、ちな……うちからのクリスマスプレゼントは、ぱふぱふでどーよ?』
ありがたい話と、反応に困る話が、同時にRINEで送られてきた。
俺は少し悩んでから『ありがとう』とだけ返したんだけど……まさか、ぱふぱふの方に『ありがとう』が掛かってるとか勘違いしないよね? さすがの二原さんでも。
――インストアライブが終わって、しばらく経ったところで。
二原さんの力を借りつつ、俺はマサと別行動に移った。
東京会場から少し歩いたところにある、遊園地。
待ち合わせまで時間があるので……俺は入場ゲート近くの柱に背中を預けると、『アリステ』のガチャを回しはじめた。
「……おっ!?」
そのとき――俺に神が降り立った。
現在開催中のイベントは『アリスサンタのハッピーメリークリスマス!』――各アリスアイドルがサンタコスをしてるカードが出現するんだけど。
なんと俺は一発で……『ゆうな SR 待ち合わせにサンタコス!?』を引き当てた。
しかも今回は、各カードにクリスマス用のボイスがついてるんだぜ!?
やべぇ! なんだこの強運!? 今日この場で死んでも驚かないレベルだぞ!!
冬の寒さを感じる街を背景に。
ミニスカサンタコスチュームと白のオーバーニーソックスで生み出された、絶対領域。
いつもの元気いっぱいとは違う、ちょっと頬を赤らめた、はにかみ笑いで。
ゆうなちゃんという名の女神は――こちらに向かって、両手を差し出している。
そんな彼女のボイスが、こちら。
『えへへっ、びっくりした? ゆうなサンタが、やって来たよ! ……え、プレゼントはどこかって? ほら、よく見てよ……プレゼントなら、ここにいるでしょ?』
「うぅぅぅ……ぐっ……! うぉぉ……っ!!」
人前だから、どうにか奇声を上げそうになるのを堪えたけど。
感情が爆発しそうだった。好きという言葉以外、記憶からぶっ飛びそうになった。
それくらい――今回のゆうなちゃんの破壊力は、桁違いだと思う。
「あ、遊くんだ! 遊くーん!!」
スマホの画面に釘付けになっていると……遠くから結花の声が聞こえてきた。
気を取り直して、結花の方を見ようとしたところで――俺はハッとなって。
慌ててギュッと目を瞑った。
「……あれ? なんで目を瞑ってんの、遊くん?」
「……見たら死ぬ」
「何それ!? 私は呪いの人形じゃないよ!?」
そんな誘い水には、引っ掛からないぜ?
綿苗結花は、和泉ゆうな……ゆうなちゃんの声優だ。
だから当然、人を駄目にするこのボイスを吹き込んだのも、間違いなく結花で。
こんな破壊力のあるイベントを演じた結花が考えることなんて……ひとつしかない。
――ふむふむ……なるほど! こういうのだと、男の子は喜ぶんだねっ!!
そう……絶対に結花は今、サンタコスで俺の目の前にいる!
そして、やたらと張りきっていたプレゼントの件は……間違いなく『プレゼントなら、ここにいるでしょ?』パターン!!
「もー、遊くーん! こっち見てよぉ!! 今日のために、気合い入れてきたのにぃ!!」
「だから目を瞑ってるの! 気合いの入れ方が危険だから!! 二次元ならともかく、リアルの外デートにそんな格好……エロすぎるでしょ!!」
「なんでよ!? みんなこれくらいの格好、してるじゃんよ!!」
「みんなしてるの!? 東京やばいな!!」
「やばいのは遊くんの妄想でしょ、もぉ!! いいから! 目を開けてってばぁ!!」
結花にぶんぶんと腕を振り回されて、しぶしぶ目を開けると――。
そこには……おしゃれな服装をして、北海道のときと同じ厚手の白いコートを羽織った結花の姿があった。
「……あれ? サンタコスじゃない……? ってことは、『プレゼントなら、ここにいるでしょ?』作戦では――」
「しないよ、そんなこと! 家の中だったらやるけど、こんな公の場でやったら、ただの痴女じゃんよ!! 遊くんのばーか!」
家ではやるんだ……とか思ったけど、結花が頬をめちゃくちゃ膨らませてるから、その言葉は呑み込んだ。
ぷんすかしてる結花に、俺はとにかく平謝り。
「せっかくのデート前なのにー。もー怒っちゃったもんねーだっ」
「ごめんなさい。完全にこっちが悪いです」
「あーあ。おこが止まんないなー。好きって言われたら直るかもなー」
「えっと……好きです。お許しください、好きですので」
「――ふへっ。ふへへへへへ!! よいです、許しましょう!」
好きって言葉を聞いた途端、結花はころっと笑顔になって。
腕をギュッと絡めてくると、遊園地に向かって歩き出した。
「遊くんとデート♪ すってきなデート♪ クリスマスにー、楽しいデートだよー♪」
「もう、調子いいんだから……それじゃあまずは、どこから回ろうか? 確か入場口で、無料マップを配ってたような……」
「待って、遊くん! 違うの!!」
…………はい?
なんかビシッと、左手を突き出してきてるけど……何が違うというのか。
反応に困ってると、結花がキリッとした顔で言った。
「今日のデートは、私がエスコートしますっ! だから遊くんは、私にすべてを任せてくださいっ!!」
「え……結花がそんなに張りきってると、逆に不安なんだけど……」
「なんで!? ――とにかく! 大好きな人と過ごす、初めてのクリスマスだから……ロマンチックで楽しくって、二人とも幸せになれて、お互いをもっと好きになれるような――そんな最高のプランを練ってきたの!!」
「尋常じゃなくハードル上げたけど、大丈夫それ!?」
「あ。遊園地のデートコースはもちろんなんだけど……約束してたプレゼント交換、あるじゃん? それはもう、今日のメインイベントだから……一番盛り上がるタイミングを、ばっちり考えてますっ! 私がちゃんと切り出すから、ドキドキしながら待っててね?」
ハードルが大気圏を突破しちゃって、もう見えない。
期待をぶち上げまくってて、聞いてるこっちが怖くなるくらいだわ。
当の結花本人は、分かってないんだか気にしてないんだか、いつも以上にニコニコしてるけど。
そして結花は、はしゃぎながら左腕を振り上げ、言った。
「よーっし! それじゃあクリスマス計画、第二章――ラブラブ遊園地デートに、しゅっぱーつ!!」




