第16話 俺の許嫁と俺の悪友が会話をしたら、まさかの展開に……? 2/2
「――!? ゆ、遊一……大丈夫か?」
俺と結花が並んで教室に帰ってきたのを見て……マサは目を見開き、息を呑んだ。
「わ、綿苗さん……なんか遊一が、迷惑を掛けたんだよな? すまん! 友人として、俺も頭を下げるからさ――どうか命だけは、助けてやってくれ!!」
いくらなんでも大げさすぎんだろ。
綿苗結花をヒットマンか何かだと思ってんのか、こいつは。
そんなマサのビビりように困惑したのか、結花は眉をひそめる。
「……そんなことをされても、困るわ」
「頭を下げたくらいじゃ、見逃してもらえねぇってことか!? ちくしょう……どうやったら俺は、この運命を変えられるんだ……!?」
「マサ、落ち着け。死なないから。運命を変えるためのタイムリープとか、そういうのいらないから。マジで」
こういうとき、二原さんのアシストがあれば話をうまく運べるんだろうけど――あいにく教室に、二原さんの姿はない。
ってことは、このどうしようもない状態を俺一人で処理しないといけないのか……難易度が高すぎる。
「あ、あのなマサ? 綿苗さんは別に、俺を殺傷する目的で呼び出したんじゃなくって……修学旅行! 修学旅行のとき俺が貸した小銭を、返してくれてたんだよ!!」
「え……ここで返せばよくねぇか? なんでわざわざ、廊下まで呼び出されたの?」
ごもっともすぎる。
超高速で墓穴を掘ってしまったわけだけど……ここからどう挽回すればいいのか。
教えて、陽キャなギャル。
「く、倉井くん……っ! 修学旅行、楽しかったわね!!」
そんな窮地の中で、結花が力業を使った。
相手の疑問を強引にねじ伏せ、雑談に持っていくスタイル。
脈絡のない会話の流れに首をかしげつつ、マサはおそるおそる応えた。
「お、おう? 楽しかったぜ? アニメの聖地も見れたしな! 綿苗さんは、どこが一番楽しかったんだ?」
「はい。私が楽しかったのは、海です」
「そ、そうか……俺は海、行けなかったからなぁ。何やったんだ、海で?」
「はい。海に入って、水遊びをしました」
「……そ、そうか」
アレ○サかな!?
コンピューターもびっくりの機械的な受け答えに、思わず頭を抱えたくなる。
どうにかフォローしないと……頑張れ、俺!
「そういや、マサ。お前、なんかお土産とか買って帰ったのか? き、気になるよね、綿苗さん!」
「え、ええ! もちろん気になるわ!! 一体、何を買ったのかしら? さぁ、正直に教えて倉井くん? どんなもの? なんでもかまわないから。さぁ……っ!」
「ひぃぃぃ……!!」
あまりの詰め寄り具合に、マサが悲鳴を上げた。
まぁ、そうだよねー。今のは怖いよねー。
結花的には、会話を絶対に続けてみせるって、気合いを入れすぎた感じだったんだろうけど。
「ちょっ、ちょっとこっち来い! 遊一!!」
さすがのマサも、このカオスな状況に危機感を覚えたらしい。
俺の肩に手を掛けて、強引に教室の隅まで連行するマサ。
「……なぁ、遊一? なんか綿苗さん、変じゃねぇか?」
「そ、そう? いつもあんな感じじゃない?」
「んなわけねーだろ! 普段はあんまり喋んない綿苗さんなのに……今日はやたら話し掛けてきてんじゃねーか。しかも、無理に作ったような話題で」
勘がいいなマサ。まさに、無理に作った話題だよ。
もうこの作戦、中止した方がいいよな……このままだと結花、クラスで友達を増やすどころか、やばい人って噂が立ちそうだし。
そんなことをぼんやり考えていると。
マサが――深くため息を吐いて、言った。
「参ったな……分かっちまったよ。これって、俺に気があるってことだよな?」
「は?」
あまりのたわ言に、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。
だけど、そんなことなんて意にも介さず、マサは続ける。
「普段はあんまり人と喋らない性格の私……でも倉井くんのことを考えると、夜も眠れないの。この気持ち……ひょっとして恋? どうしよう、ドキドキが止まんない……っ!」
「なんだよ、急に裏声使って!?」
「よーし、思いきって倉井くんに話し掛けちゃうぞ! ……って、口下手だからうまく話せないよぉ。本当はただ――倉井くんに、好きって言いたいだけなのに!」
裏声で妄想劇場を繰り広げるマサ。
控えめに言って、気持ち悪い。
「――なんか、ゆうな姫っぽいエピソードじゃね? いや、実に良いシチュエーションだと思うんだけどよ……俺にはらんむ様っていう、心に決めた人がいるからさ」
調子に乗ってるマサを見てたら、なんか分かんないけど……ムカムカしてきた。
「なぁ、遊一……綿苗さんを傷つけずに断るには、どうしたらいいと思う?」
「……知らね」
「ん? なんでお前、そんなに不機嫌になってんだよ?」
「……別に」
「ひぃ!? 綿苗さんみたいな、氷の対応!?」
――我ながら、理不尽だってのは分かってる。
マサがそう解釈したくなる気持ちも、まぁ分からんでもない。
だけど。申し訳ないけど。
「結花がマサに気がある」って勘違いを延々と聞かされるのは――なんだか、我慢できなかったんだよ。
◆
「やっば! 倉井、勘違いに決まってるっしょ。うちが女目線で教えたげる……綿苗さんが倉井に気があるとか、ぜーったいにありえない! 絶対。これはガチ。ピエロ。勘違い。今すぐ考えを改めた方がいいって。すぐに。速攻。ほんと。絶対だかんね」
「………………おう」
もうすぐ授業ってところで、それぞれの席に戻ったあと。
事情を聞いた二原さんから、「脈なし」という事実を尋常じゃないくらい叩きつけられたマサは……がっくしとうな垂れた。万事解決。
「ありがとう、二原さん……本気で助かったよ」
「なぁに、いいってことよ。つか、佐方ってば倉井に嫉妬したん? ウケるわー。結ちゃんが佐方以外になびくとか、天地がひっくり返ってもありえないっしょ」
「いや、それは分かってるんだけど。それでもなんか……嫌だったんだよ」
「あははっ! いいじゃーん。それ絶対、結ちゃんが喜ぶやつだわー」
どこに喜ぶ要素があるんだよ。
なんて思ってると――いつの間にか結花から、RINEが届いてることに気付いた。
机の下にスマホを隠しつつ、俺は結花からのRINEメッセージを開いた。
そこには……まさに二原さんが言ったとおりのことが、書かれてたんだ。
『えへへー。焼きもちさんな遊くん、可愛くって嬉しかったなぁー。でも……私が遊くん以外を好きになるとか、ないに決まってるじゃんよー。遊くんの、ばーか♪』