第14話 生意気すぎる妹の誕生日を祝ってくれる人、集まれ 2/2
結花と二人で寝るようになって以来、リビングに移動させたパソコン。
そんなパソコンを操作してると――画面に、執事服のような格好で髪を一本に結っている、ばっちり男装姿の勇海が映った。
「おー、勇海くんじゃーん! おっひさー」
『あははっ。お久しぶりです、桃乃さん。相変わらず、太陽のように眩しい美貌ですね……とても綺麗だ』
「ぶっ! 勇海くんこそ、優男キャラ変わんないじゃーん! めっちゃウケるー!!」
『ウ、ウケる……!? ファンのみんなだったら格好良いって、気絶する人すら出るほどなのに……』
取り巻きの皆さんも、まさか爽やかイケメンな勇海が、このメンバーだといじられキャラになるとは思わないだろうな。
勇海と繋がってるこれは、web会議とかビデオチャットとかに使える、最近だとメジャーなコミュニケーションツール――ZUUMだ。
那由の誕生日会をしようって言い出した結花は、すぐに二原さんと勇海に声を掛けて、この会を実現させた。
誰かのためってなると、本当に行動が早いよね。結花って。
『それで? 可愛い主役ちゃんは、まだ来てないのかな?』
「いや。ミュートにして潜んでるな……おい、那由。みんな集まってんだから、マイクとビデオをオンにしろって。お前が主役だろ」
『――我が輩はハシビロコウである。名前はまだ、ハシビロコウ』
「名前もハシビロコウなのかよ……っていらないから、そういう戯れ言は! いいからさっさと登場しろって、那由!!」
『……分かってるし。兄さん、マジうっさい』
ぶつぶつと文句を言いながら、那由はビデオカメラをオンにした。
画面に映し出されたのは――なんか俯きがちで、前髪をやたらと指先で弄ってる那由だった。
「わー、那由っちじゃーん! 元気してるー?」
『ん、ぼちぼち。二原ちゃんも、元気そうだね』
『ふふ……久しぶりに見ても、お人形さんのような可愛さだね、那由ちゃん? その白く透き通るような肌は、とても美しい』
『勇海こそ、イケメンぶった寒い言動は変わってないし。普通にださい』
『だ、ださっ……!?』
なんか画面の向こうで、無駄に勇海がショックを受けてる。
いや、言いたくなる気持ちは分からんでもないけど。
勇海だってお前のために参加してくれてんだから、見逃してやれって。
「――はいっ! 皆さん、お集まりいただき、ありがとうございまーすっ!!」
言いながら、俺の隣でパンッと手を打ち鳴らして――結花はにっこり笑った。
そして、さっき買ってきたペットボトルのオレンジジュースを手に取って。
「それじゃあこれから、那由ちゃんの誕生日会を、開催しまーす! 皆さん、飲み物の用意はいいですかー?」
『ちょっ……結花ちゃん、大げさすぎだって。別にいいし、そんな気合い入れて盛り上げなくても……』
「いーえ、盛り上げますっ! めちゃくちゃに盛り上げますとも!! だって私は――那由ちゃんのことが、大好きなんだもん!」
珍しく恥ずかしがってるっぽい主役を、愛の力で押しのけると。
結花はノリノリで、パソコンのカメラに向かってペットボトルを突き出した。
そして――透き通るような声で、乾杯の音頭を取る。
「はい、それじゃあみなさーん! 那由ちゃんの十四歳の誕生日をお祝いしてぇ……かんぱーいっ!!」
「おっけー、かんぱぁい! 那由っち、おめでとー!!」
『那由ちゃんという小鳥がこの世に生まれた奇跡に……杯を捧げるよ』
「ん。那由、誕生日おめでとう」
『…………う』
か細い呻き声みたいなのを発すると、那由は手元にあったコップを、ぐいっと口元に持っていった。
その頬は心なしか、赤く染まってる気がする。
「やっば! 可愛いんだけどー!! 那由っちってば、実はめっちゃ喜んでるっしょ?」
『よ、よよよ喜んでなんかないし! パーティーより、大金もらった方が嬉しいし!!』
『ふふっ、素直じゃないんだから那由ちゃんは。あ、そうだ……僕からのプレゼント、コスプレ衣装なんかどうだい? いつもボーイッシュなイメージだけど、案外ガーリーな服装も似合うと思うな?』
『うっさい、いらないし! からかうなっての、爽やかもどき!!』
――――ああ。
こんなに照れ隠ししてる那由を見るの、いつ以来だろうな。
相変わらず口はめちゃくちゃ悪いけど、満更でもない顔をしてる妹を見ながら……俺はなんだか頬が緩むのを感じた。
『……兄さん、なに笑ってんの? 馬鹿にすんなし、マジで!』
「馬鹿にしてねーよ。そういや、親父はいないのか?」
『まだ仕事中。結花ちゃんによろしく伝えてって、言ってたわ。そういや』
「お、お義父さまから!?」
義理の父からのメッセージに恐縮したのか、ピシッと背筋を正す結花。
いや、そんなたいそうな相手じゃないよ? 勝手に息子の結婚を決めてくるような、はちゃめちゃな親だし。
『……あ、そだ。結花ちゃん、あんな甲斐性無しの父親だけど、なんか伝えとく? ってか、録画して後で見せるわ』
「え!? ろ、録画って、心の準備が――」
『はい、スタート』
有無を言わさず開始の合図を出す那由。
そんな急振りに、結花はあたふたしながら、声を大にして言った。
「お、お義父さま! いつもお世話になってます、綿苗結花ですっ!! 遊く……遊一さんのおかげで、毎日幸せに過ごさせてもらっております! 遊一さんが大好きです、絶対に幸せにしますので!!」
「待って!? とんでもないビデオメッセージ残してるって、分かってる!?」
恥ずかしさしかないメッセージを届けようとする許嫁を、俺は必死に止めようとする。
そんなカオスに拍車を掛けるように――厄介な義妹まで挨拶をはじめた。
『お義父さま、初めまして。僕は綿苗勇海、結花の妹で――憧れのお義兄さまの、飼い犬とでも申しましょうか』
「ぎゃー!? ふざけないでよ勇海ぃ! 飼い犬とか、心証最悪じゃんよぉ!?」
パーティーそっちのけで、わーわーやりはじめる綿苗姉妹。
思わずため息が漏れてしまう俺の肩に、二原さんはポンッと手を置いて。
「どーも! うちは二原桃乃、佐方のセカンドお嫁さんってやつでーす! おっぱいが恋しいとき担当なんでー」
「ぎゃああああああああ!? 桃ちゃああああああああん!! ばかなのぉぉぉぉ!?」
とんでもない爆弾をぶち込んだ二原さんに向かって、結花が絶叫する。
そんな結花の慌てっぷりに、二原さんはけらけらと笑って。
「あははっ! 冗談だってば、結ちゃん? 考えてみなって。那由っちがこういうとき、ガチで録画してると思う? うちは思わないね」
『お、さすがだね二原ちゃん。ご名答』
「マジで録画してねーのかよ!? お前、自分の誕生日会くらい、いたずら仕掛けずに過ごせないの!?」
『光があれば影があるように……あたしがいるところに、いたずらがあるし』
「もぉぉぉぉ! 那由ちゃんってば、那由ちゃんってばぁ!!」
――――と、まぁ。
誕生日会と銘打ったものの、普段どおりな雰囲気になったZUUMでの集まりだけど。
ドッキリに見事引っ掛かった結花を見て、那由は涙が出るほど笑ってたから。
結花のおかげで、良い記念日になったんだろうなって思うんだ。
改めて――誕生日おめでとう、那由。




