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第9話 許嫁が不在なので、悪友と遊ぶことにした 1/2

「しょんぼりー……」


 しょんぼりってそのまま言語化する人、初めて見た。


 ツッコミどころ満載な結花ゆうかだけど……玄関のところでうな垂れてるもんだから、とてもツッコめる雰囲気じゃない。



「寂しいよう……ゆうくーん……」


「そんな泣きそうな顔しないの。ライブで元気がないと、困るでしょ?」


「ライブの前に孤独死しちゃうかも」


「大げさだな!? 今日だけでしょ、家にいないのは!」


「でも、今日はもう会えないもん。人間は酸素がないと、すぐ死ぬもん」



 俺、酸素だったのか……。


 なんて、益体もないことを考えてると、結花がぷっくり頬を膨らませはじめた。


 ああ。完全に駄々っ子モードの結花だわ、これ。




 ――それは、『ラブアイドルドリーム! アリスラジオ☆』というコンテンツからはじまった。



 天真爛漫で、いつもキュートな笑顔を振りまくアリスアイドル、ゆうなちゃん。その声優・和泉いずみゆうな。


 ストイックにクールに、アリスアイドルの頂点を目指す、らんむちゃん。その声優・紫ノ宮(しのみや)らんむ。


 正反対のキャラな二人が。


 危なっかしすぎるトークで、ネット界隈を震撼させ。


 空前絶後の神ユニットが、誕生した。



 そう、その名は――『ゆらゆら★革命』!!




「……って、知ってるよ! 私が『和泉ゆうな』なんだから!!」


 あ。つい声に出しちゃってた。


 だけど、ついドキュメンタリー番組みたいなトーンで語りたくなるくらい、『ゆらゆら★革命』は魅力的なんだよなぁ。


 ゆうなちゃんも『ゆら革』も――神すぎて泣ける。



「そうだよ……今日は泊まり掛けで、名古屋公演。もちろん、和泉ゆうなを待ってるみんなのために頑張るぞーって、思ってるけどさ……遊くんがいない夜とか、そんなの寂しいしかないじゃんよ……」



 大阪公演のときは、日帰りでスケジュールを組んでたけど。

 慣れない遠征で疲れ果てた結花は、帰りの新幹線でダウンしてしまった。


 その反省を踏まえたらしく、珍しく鉢川はちかわさんが「今回は泊まり掛けじゃないと駄目!」って、強めに言ってきたもんだから。


 ――一緒に暮らすようになってから初めて、俺と結花は別々の場所で、夜を過ごすことになったってわけだ。



「遊くんは寂しくないんだー……私はこんなに、しょんぼりなのにー……」

「寂しくないわけじゃないって、結花」



 今にも泣きそうな結花の頭を、ゆっくりと撫でながら。

 波のない海みたいに穏やかな心で――素直な思いを告げた。



「俺だって寂しいよ、結花がいないのは。だけど、『ゆらゆら★革命』って奇跡は……ゆうなちゃんファンがこの世に生を受けた理由と言っても、過言じゃないから。ここで結花を引き留めたら――たくさんの死者が出ると思うんだ」


「待って!? どう考えても過言だよ!?」


「だから俺は、佐方さかた遊一ゆういちとしてじゃなく、『恋する死神』として――結花を、和泉ゆうなを名古屋に送り出す使命があるんだ。このライブは、ただのライブなんかじゃない! すべてのゆうなちゃんファンの魂を浄化する――救世の儀式なんだから!!」


「大げさすぎだってば!? 勝手にインストアライブを儀式に変えないでよ、もぉ!!」



 めちゃくちゃ理路整然と説明したのに、余計に怒られた。


 そんな俺を、じろっと上目遣いで睨んでから……結花はため息を吐いた。



「遊くんの話は大げさすぎだけど……ファンのみんなが、すっごく楽しみにしてくれてることくらい、さすがに分かってるよ? だから――私だってライブが楽しみだし、絶対頑張るぞって思ってるもん」



 結花がぽつりぽつりと語るのを、俺は頷きながら静かに聴く。


 ……それを言うなら、俺だって分かってるよ。


 結花がファンを大事に思ってることも、インストアライブでみんなを笑顔にしたいって思ってることも。


 それでも、俺と離れる寂しさから……最後に甘えたかったってことも。



「はい、結花」



 分かってるからこそ、俺は……自分から大きく両手を広げた。


 そんな俺の顔を、結花はちらっと見てから。


 ぼふっと――胸の中に、飛び込んできた。



「行ってきます、遊くん……帰ったら、もっと甘えていい?」


「行ってらっしゃい、結花。ライブが成功するよう本気で応援してるし――帰ってきたら、結花の気が済むまで付き合うよ」


「……ん。ありがとね、遊くん……大好き」




 そして結花は、一泊二日の名古屋遠征に出掛けた。


 結花がいなくなってから、ふっと部屋が静かなことに気が付く。



 ――結花の前では、強がりを言っちゃったけど。


 俺も結構……寂しいって感じてるんだよな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで離れた夜がなかったというのも驚き。 修学旅行も一つ屋根の下ではあったかあ。
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