第35話 俺の許嫁になった地味子、声優になったら輝きしかない 1/2
『おっけー。今日のとこは、うちに任せといて! 御礼として、今度うちにも日焼け止めクリームを塗ってよねー』
なんでだよ。
その御礼のリクエスト、本当に意味が分かんないんだけど。
でも……今日色々やってくれてるのは、本当にありがとうね。二原さん。
そんなことを考えつつ、俺はスマホの電源を切って、顔を上げた。
『ゆらゆら★革命』のファーストシングル、その発売記念として順次開催中の――五地域でのインストアライブ。
今日はその第二回……沖縄公演だ。
インストアライブなので、そこまで大人数の会場じゃないけれど、スタンド席はぎゅうぎゅう詰めになっている。
サイリウムを持って『アリステ』Tシャツを着た同志たちが、期待に満ち溢れた顔で開演を待ちわびている。
……参加できるって分かってたら、俺もサイリウム持ってきたのにな。
なんて――スタンド席に交じった俺は、ふぅとため息を吐いた。
まぁ、予定外のライブ参加だから準備が不十分なのは心残りだけど……正直、紫ノ宮らんむには感謝している。
だって、本当は参加できなかったはずの沖縄公演を、この目で観られるんだから。
これ以上の幸せは――『恋する死神』にはない。
そのとき、ふいに――会場の照明が暗くなった。
同志たちが奇声にも似た声援を、まだ誰もいないステージに向かって送りはじめる。
サイリウムはないけれど、俺は拳を振り上げて、その流れに続く。
「――『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』。ここにいる全員が、『アリステ』を愛してるって解釈で……いいのかしら?」
「もちろんですよ、らんむ先輩! この会場のみーんなが、『アリステ』のこと大好きなんですよっ!!」
「可愛いいいい!」「らんむ様あああああ!」「ゆうなちゃぁぁぁん!!」――なんて、会場のみんなと一緒に絶叫する。
「でも今日は、『アリステ』の中でも、私とゆうなしかいないのね」
「そうですよ。だって今日は――私とらんむ先輩のユニットとして、この沖縄会場までライブをお届けに来てるんですからっ!」
「そう……私が高みに向かって飛び上がる、その大きな一歩となるステージに、きっとなるわね」
「ちょっと待ってください!? ハードル、ハードルが高すぎますから!!」
会場中からドッと、笑いの渦が巻き起こる。
俺もその空気に当てられて――声を出して笑ってしまう。
頑張ってね、ゆうなちゃん……俺はずっと、ここで見守ってるよ。
「それじゃあそろそろ行くわよ。ゆうな――覚悟を決めて、ステージに立ちなさい」
「うぅ……もぉ、らんむ先輩ってば。そんなに言われたら、お腹痛くなっちゃいますよ」
「「『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』――新ユニット『ゆらゆら★革命』、インストアライブ! in沖縄!!」」
二人の声がハモったかと思うと、ステージ上に二人の天使が舞い降りた。
「皆さん、こんにちアリス。らんむ役の、紫ノ宮らんむです」
紫色のロングヘアを翻し、紫を基調としたセクシーな衣装を身に纏って……紫ノ宮らんむは、深々とおじぎした。
「みっなさーん! こんにちアリスー!! ゆうな役を務めてます、和泉ゆうなです。よろしくお願いしますっ!」
茶髪のツインテールを揺らしながら、ピンクのチュニックというキュートな衣装に身を包み……和泉ゆうなは、元気いっぱいに右手をかかげて挨拶した。
「「そして、私たちは――『ゆらゆら★革命』です」」
再び二人で声を合わせて、紫ノ宮らんむと和泉ゆうなは、ユニット名を紹介した。
あちこちから「ゆらゆらー!」「俺も革命してくれー!!」なんて声が聞こえてくる。
「このユニットは、もともとはラジオからスタートしたのよね」
「はい! 私とらんむ先輩の掛け合いが、ネットで話題沸騰して!! そのまま、ぐつぐつと……今回のユニット企画に煮込まれたそうですっ!」
「……上手いことを言ったつもりなの? 貴方、そういう発言をするときは、変に度胸があるわよね。ある意味、感心するけれど」
「えへへー……まぁ、そういう私のはちゃめちゃ発言? って自分で言うのもなんですけど、そこからはじまった企画ですし。今後も楽しいお話を、お届けしていきますよー!!」
「めちゃくちゃ発言……ね。そういえば昨日、掘田さんから『二人とも発言には気を付けなさいよ』と、真面目なトーンで指摘を受けたわ」
――――あれ?
なんかいつもの『アリラジ』に比べて、二人の会話のテンポが噛み合ってる気がする。
面白いんだけど、掘田でるがいないと放送事故一歩手前な感じの、普段の雰囲気とは違って……なんだか和やかな感じというか。
ただの個人的な感想だけど。
二人の息が合ってきた証拠なんじゃないかなって……そんな風に思う。
「ってわけで! そろそろライブの時間ですよ、らんむ先輩!!」
「そうね。ライブでやるのは大阪公演に続いて、二回目。前回以上に……盛り上がることを期待しているわ」
「だーかーら、ハードル上げないでくださいって! 私、『ゆらゆら★革命』の前はライブなんて、ほとんど出たことないんですから……すっごく緊張してるんですよ!?」
「そう。じゃあ、そうね……緊張しないで、盛り上げましょう」
「それも無茶振りですよ、らんむ先輩!?」
「……それじゃあ、ライブをはじめるわよ。聴いてください、『ゆらゆら★革命』で」
「「――『ドリーミング・リボン』」」




