第21話 いつだって頑張り屋な許嫁だから、支えてあげたいって思うんだ 1/2
「……そうですか、分かりました! え? 大丈夫ですよ、久留実さん! むしろ交渉してくれて、ありがとうございました!! ライブも修学旅行も全力で頑張る方が――ゆうなっぽいですしねっ!」
結花の電話が終わったので、俺は読んでいたマンガを閉じると、ソファに腰掛けたまま顔を上げた。
すると――結花は、ぺろっと舌を出して。
「……やっぱり難しかったって。沖縄公演の日程変更」
「そっか……じゃあその日は、忙しくなるね」
「うん。修学旅行に行きながら、ライブに参加するんだもんね……よーし、気合い入れて頑張るぞー!!」
右手を振り上げて、元気よく自分を鼓舞している結花。
そんな健気な様子を見ていたら、なんだか胸が苦しくなって。
俺は思わず――結花の頭を、なでなでした。
「ふぇ!? あ、あぅぅ……そんな不意打ちで頭なでなでとか、ずるいじゃんよ……照れちゃう」
「いやいや!? いつも、なでなでしてオーラ出してるのに、こういうときだけそんな顔する人の方が、よっぽどずるいよね!?」
結花の照れが伝染して、なんか頭が火照ってきたから――俺はパッと、結花の頭から手を離した。
そうしたらそうしたで、「あ……」と名残惜しそうな声を漏らす結花。
何この、無意識の小悪魔。
学校では地味でお堅いキャラだからいいものの、普段からこんな可愛いキャラで生きてたら……何人の男子が魂を奪われてることか。
綿苗結花、恐るべし。
◆
そして、紫ノ宮らんむ&和泉ゆうなによる『アリステ』の新ユニットは、少しずつ情報が解禁されはじめた。
その名は――『ゆらゆら★革命』。
ゆうなの『ゆ』と、らんむの『ら』を合わせて、『ゆらゆら』。
そこに、「『アリステ』界に革命を起こすユニットにする」という紫ノ宮らんむが掲げた目標を足して、ユニット名が決まったんだとか。
『おい、遊一! さっき解禁された情報、見たか!? らんむ様とゆうな姫によるユニット――「ゆらゆら★革命」が結成って! しかも、インストアライブまで開催!? 俺……このライブが終わったら、結婚するんだ』
『変なフラグを立てんな、相手もいないのに。見たよ、テンション上がるよな』
『テンション上がるってレベルじゃねぇぞ!? しかも沖縄で予定されてるインストアライブなんて、修学旅行と日程かぶってるし……こんなん、修学旅行を抜け出すしかないじゃねぇか……っ!』
――――なんて。
身近な同志も沸き立つほどのドリームユニットが、発表される少し前から。
結花は日夜、レッスンに明け暮れる日々を送っていた。
「ただいまぁ……ぐぅ」
「結花? おーい、結花?」
二十三時を回って帰ってきて、ソファに倒れ込んで、そのまま眠ってしまったり。
「……ふにゅ」
「って、危ないから!? カレーに顔、突っ込んじゃうから!!」
二人で夕飯を食べている途中で、こくりこくりと、うたた寝しちゃったり。
「……むにゅ」
「綿苗? おーい、綿苗? 大丈夫か、なんだか顔色が悪いが……ひょっとして、体調でも悪いのか?」
学校でも、うつらうつらしちゃって――普段の真面目な様子と違いすぎるもんだから、郷崎先生から心配されたり。
――――やっぱり、ライブって大変なんだなって。
心底噛み締めるのと同時に。
何も手助けしてあげられない自分が……なんだか悔しくなる。
「……遅いなぁ、結花」
ぼんやりとソファに寝そべってスマホをいじりながら、俺は誰にともなく呟いた。
SNSで『ゆらゆら★革命 大阪』って検索を繰り返しつつ、そわそわし続けて……もう数時間か。
――今日の早朝。
結花はキャリーケースに荷物を詰め込んで、大阪へと出掛けていった。
『ゆらゆら★革命』――最初のインストアライブin大阪。
本当は俺も一緒に行きたかった。
五公演とも制覇したかった。
だけど、さすがに……地方のライブすべてに参加できるほどのお金を工面することは、できなくって。
これが売れっ子を推すってことなのかと――『恋する死神』になって以来、最高にもどかしい思いをしている。
――――ピリリリリリリッ♪
「はい、もしもし!」
ぼんやり眺めていたスマホが、結花からの着信を知らせた瞬間……俺はコンマ数秒の速度で電話に出た。
大阪公演が終わったら日帰りの予定で聞いてたのに、一向に帰ってこないもんだから心配してたけど……よかった、連絡がきて。
「結花、もう東京に着いた? 結構遅くなったし、駅まで迎えに行――」
『……もしもし? 遊一くん? ごめんね、遅い時間に……鉢川です』
「…………え?」
まさか結花の電話番号なのに、鉢川さんが出るなんて思わないから――びっくりして、言葉が出なくなる。
そんな俺に対して、鉢川さんは少し焦った口調で……言った。
『ゆうな、なんだけどね。新幹線の中で爆睡しちゃって……少し前に東京駅に着いたんだけど、何回声を掛けてもぜんっぜん起きなくって。取りあえず、今……わたしの家まで、タクシーで連れてきたところなんだ』




