第23話 【朗報】俺が生まれた日、盛大に祝われる 1/2
「はぁ……」
九月三日、金曜日。
始業式の日に早くも心が折れてしまった俺は、マジで学校に行きたくないって思いつつ、布団からもぞもぞ這い出た。
それもこれも……二原さんが俺と結花を、文化祭のクラス副代表に指名したからだ。
「えー? だって、文化祭だよ? あんな準備やこんな準備を、一緒にやって……二人の絆が深まって! これまで以上に仲良しになる、最っ高のイベントっしょ!!」
ホームルームの後に問い詰めたけど、二原さんは悪びれる様子もないし。
「た、確かに! 学校でも遊くんと一緒にいられる、合法的な理由ができたもんね!! えへへ……学校で遊くんと、あんなことやこんなこと……さっすが桃ちゃん!」
結花は結花で、何を想像したのか、妙にテンションが上がっちゃうし。
「…………はぁ」
何度目か分からないため息を吐くと、俺は制服に着替えて、よろよろと階段をおりた。
そりゃあまぁ、文化祭のクラス副代表って名目があれば、普段よりは学校で結花と絡みやすいかもしれないけどさ。
それがまったくプラスに思えないほど、俺は――とにかく文化祭が苦手だ。
クラスのみんなで、わいわい準備するあの空気。
うん、勘弁してほしい。
中三の頃の黒歴史を繰り返さないためにも、俺はできるだけ、学校では目立たず空気みたいに過ごしたいんだよ。
たいして親しくないクラスメートと交流するよりも、俺は部屋にこもって『アリステ』でゆうなちゃんをひたすら見ていたい。
なんて……憂鬱になりながら、リビングに移動すると。
「お誕生日、おめでとーう! 遊くーんっ!!」
ぱぁんっと、クラッカーの音が鳴り響いたかと思うと。
満面の笑みを浮かべた結花が、めちゃくちゃ全力で拍手しはじめた。
制服姿にポニーテール。
だけど、眼鏡はテーブルの上に置いてあるという、学校と家の中間みたいな佇まいで。
「はっぴーばーすでー、ゆうくーん♪ いえい! はっぴーばーすでー、ゆうくーん♪ ふぅー! はっぴーばーすでー、でぃあ……遊くんっ!! はっぴー、ばーすでー、とぅー……遊くーん!!」
羞恥プレイじみた誕生日ソングが歌い上げられたかと思うと。
結花はキラキラした瞳で、俺のことをまっすぐに見つめてきた。
「どう? びっくりした?」
「いや、びっくりするでしょ……登校前だよ、今? 普通こういうのって、平日だったら夜とかにお祝いしない?」
「ふふふ……それを逆手に取った、サプライズってやつだよっ!!」
なんか誇らしげに、結花がドヤ顔をしてる。
サプライズとしては成功だと思うけど、普通に遅刻するよ? マジで。
「というわけで。今日は世界で一番素敵で、世界で一番大好きな遊くんがこの世に生まれてきた――奇跡の日っ! この遊くん生誕のお祝いを、いーっぱいしちゃうから……学校が終わったら、楽しみにしててね?」
そう言って、不敵に笑う結花。
いや。誕生日を祝ってくれるのは嬉しいんだけどね?
その企画者が結花だってのが……一番の心配点なんだよな。
なんたって結花は――超が付くほどの天然だから。
なんだか大暴走しそうな予感しか……しない。