井戸へ訪問
* * *
カタン、という音でケイは目が醒めた。
続いて水の音。
ケイの家のそばの井戸は蓋がついている。
ロイが井戸の蓋を開けて水でも汲んだのだろう…… まさかバケツに水汲んでこっちにぶっかけに来るんじゃないだろうな、なんて思いもしたが動くのが面倒くさかった。
続いてドアをノックする音が聞こえた。
ノックするということはロイ以外の誰か、カースあたりだろうか。
と思ったが違った。
「ごめん下さい」
女の声だ。
「……お休み中かしら?」
ケイは、意外に思った。
ケイの家は本人でも自覚のあるボロ家だ。
知らない人が見れば、無人の廃墟だと思ってもおかしくない。
その人物は、まるで中に人がいるのがわかってるようだ。
「お水、いただきました。よかったら、どうぞ」
そんな言葉の後に、その人物は立ち去ったようだ。
変だな、とケイは思った。
そもそもルウ族最高位以外はこの地に入れないはずだ。
――いったい、誰だ?
そうは思っても、起き上がるのは面倒だった。
なので、ケイは自分専用環境維持ロボを操ることにした。
幸いなことに、ケイ専用の環境維持ロボは家の外に置いてあった。
*
ケイが操る環境維持ロボはそのまま自分の家を囲む結界の外に出る。
すると、歩く後ろ姿を見つけた。
ケイはその人物の後についていく。
何か違和感を感じたのだろう。
その人物は後ろを振り返った。
「……ファッティ?」
そう言ったのは、栗色の髪の女だった。
ケイは首を傾げる。
最近、そのフレーズを聞いたような気がする。
「ファッティにはしては、ちょっと小さいけど」
女はケイの元へと歩み寄る。
女はしゃがみ込む。
女の青い瞳がケイを見ていた。
「あなたはあの家のファッティでしょ?」
女はケイの家の方を指さした。
やはり、先ほどケイの家を訪れていたのはこの女で間違いなさそうだ。
つまり、この女は見えないはずの結界の中が見えている。