恋煩い
やはり返事はない。
(レンやリゾが真っ当に生きていたキョウの髪と魂を奪ったのとは訳が違う。あんたが長老を拉致しても誰も文句は言わないだろう。あんたなら長老を監禁しておくことも可能だろう。少なくともラテーシア家が長老を隠し続けるよりは建設的だと思うが?)
長老をラテーシア家に残しておけば、ミンが暗殺しかねないと危惧したからこんな提案をしてみた。
まあ、冷静な状態のケイなら一笑に付すかもしれないが、本人が言うように恋煩いならそんな提案に乗って来るかもしれない。
――……面白い提案だね。
(起きてたか?)
すっかり夜も更けてきた。
ラテーシア家の前も特に変化はない。
――あぁ、僕はそろそろ寝るよ。
(おやすみ)
言い終え、カースはしばらくラテーシア家の様子をうかがっていた。
* * *
夜中にシームァは目が醒めた。
てっきり同じベッドで寝ていると思ったケイは、隣のベッドに寝ていた。
同じ部屋で泊まると聞かされた時、あっちの方を想像してしまったが、そうではなかった。
どうしても顔を見られる訳にはいかないのだという。
食べ物を運んだり、宿屋の主人が部屋に尋ねて来た時はシームァが応対するということにしている。
とはいえ、用心に用心を重ね、この部屋には簡易な結界が張ってあるのだという。
例え、窓やドアを蹴破られても、一定時間はこの部屋に侵入者が入るのを防ぐことが出来るのだという。
そうまでして顔を見られたくない理由。
やはり、この地で指名手配でもされてるのだろうか。
そういえば、それを聞いた時、話をはぐらかされた。
その時、ケイは寝返りを打った。
シームァはケイの顔を見た。
端正な顔立ちで、男女ともにモテるだろう。
それと、どこかで会ってたような気がする……
似た人に以前出会ったような?
そんなことを思いながら、シームァはいつしか眠っていた。




