見える見えない
ケイは、着替えるでもなく外に出てまたすぐ入って来たシームァが不思議だった。
「大変なの。この家の人、具合が悪いみたいなの」
「……?」
ケイは首を傾げる。
この家の人は、ケイの他にいないのだが。
「さっき、そこの井戸の水をもらって、このコーヒーをお礼に置いておいたけど、ここの家の人、返事がなくて」
シームァは何だか慌てた様子だ。
「ずっと横になったままだから、あっちの街に助けを呼びに行こうと思ったけど、その前にファッティが壊れてしまって……」
シームァが環境維持ロボのことをファッティと呼んでるのはなんとなくわかっていた。
必死なシームァの訴えを聞いて、ケイはヒヤヒヤしていた。
ルウの地の外側に住んでる最高位の住処は一般人には見えない。
ルウの民以外には、ルウの地すら見えないはずだ。
それがシームァにはしっかり見えている。
「きみには街が見えてたの?」
「えぇ」
「ここの家の住人は僕なんだけど、さっきまで動くのが面倒でちょっと横になってただけだ」
「え? そうだったの? 元気ならよかった」
「つまり、きみには家の中にいる人物が見えてるってこと?」
「え…えぇ」
そう言いながら、シームァは左目に手を当てた。
手のひらで目を覆ってみたり、外して見たり。
「目が……」
ケイは、シームァがつぶされた目が治ってることを言ってるのかと思った。
「僕が治した。きみには色々聞きたいことがあるから……」
「治した?」
「あぁ」
シームァは呆然としていた。
呆然となり、今度はしくしく泣きだした。
ケイはシームァが困惑してるだけかと思った。
だが意外な告白を聞くことになる。
「……私、見えないの」
「何を言っている? 僕は完璧に治した」
ケイは、シームァの顔を両手でつかみ上を向かせる。
顔を近づけ、じっと左目を見た。
怪我はないし、血も流れていない。
涙が流れる目はさっきの青い目と同じ……